かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:イッポリトフ=イワノフ 管弦楽作品集

今月のお買いもの、平成26年7月に購入したものをご紹介していますが、今回はディスクユニオン新宿クラシック館で購入しました、ナクソスのイッポリトフ=イワノフの管弦楽作品集をご紹介します。

まず、イッポリトフ=イワノフという作曲家、聞き慣れないと思いますが、実はこの人、このブログで一度ご紹介しているんです。

マイ・コレクション:バトル・ミュージック
http://yaplog.jp/yk6974/archive/591

「5曲目はイッポリトフ=イヴァノフの「グルジア戦争行進曲」です。この曲はもともと「イベリア」作品42の一部でして、同じナクソスから全曲が出ていましたが今では手に入りにくくなっています(廃盤になったようですね)。もともと彼はグルジアの出身ではないのですが、ペテルブルク音楽院卒業後新設されたグルジアの音楽院に移り、そこで作曲活動をしたことからグルジアを題材にした音楽が数多く残されています。

この曲も実は好きな曲の一つで、全曲が聴きたいと思っていましたがどうやら廃盤っぽいですね・・・・・ほかの曲でしたらもしかすると手に入る可能性もあるかもしれません。」

と言っていた、その全曲が収録されたまさしくそれが、このCDなのです。ほぼ10数年ぶりに巡り合いました・・・・・・

ですから、ほぼ迷うことなく手に取っていました。ただ、演奏は上記エントリでご紹介したオケと指揮者ではありませんが、聴き比べるとそれはそれで面白いものです。

さて、もう一度イッポリトフ=イワノフという作曲家がどんな人だったか、ウィキを挙げておきましょう。ウィキしかないんですよね・・・・・

ミハイル・イッポリトフ=イワノフ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%83%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%95%EF%BC%9D%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%83%8E%E3%83%95

師がリムスキー=コルサコフと、ロシア国民楽派の作曲家です。元々はロシアの生まれで、後にグルジアへ音楽院の教授として赴任することとなり、その赴任先のグルジアで彼を代表する作品が作曲されることとなります。それが第1曲目と第2曲目の組曲コーカサスの風景」第1番と第2番です。

まず第1番は、1894年に作曲された作品です。

コーカサスの風景
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%A2%A8%E6%99%AF

基本的には、まさしく題名通りに、コーカサスの「風景」を音楽にしたものです。イッポリトフ=イワノフが基本的に国民楽派であるので当然ですが音楽も民族色が強いもので、コーカサス地方の民族、あるいは地勢といったものが充分に反映された作品と言えます。その代表作が、第4曲「酋長の行進」であり、一番有名なのは当然と言えましょう。

第2番「イヴェリア」は、第1番の2年後、1896年に作曲された続編ですが、一変して、歴史を扱ったものになります。

イヴェリア (イッポリトフ=イワノフ)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AA%E3%82%A2_(%E3%82%A4%E3%83%83%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%95%EF%BC%9D%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%83%8E%E3%83%95)

多分、この作品を理解するには、コーカサス地方の歴史及び地勢を理解する必要があります。その上で、グルジアという国がどんな国なのか、知る必要があるでしょう。

コーカサス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B9

グルジア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%82%A2

一言でいえば、多民族地域であり、それが故に様々な動きがあった地域だと言えるでしょう。最近きな臭い、ウクライナも近いのです。実はこのCDのオケはそのウクライナの国立交響楽団です。

ウクライナ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A

この地域が混乱している理由の一つとして、多民族であるにも関わらず、国民国家になろうとした歴史があることが挙げられます。まさしくこの「イヴェリア」は、そのために作曲されたと言っても過言ではありません。

イヴェリアというのは、グルジア地方の古称とウィキに出ていますが、同じウィキのグルジアを参照してみると、その古称は古代ローマ帝国時代に栄えた王国であることが分かります。つまり、イッポリトフ=イワノフはそのあたりから音楽を表現していることになります。もっと言えば、その古代にあった王国のように、栄えある国を表現した、とも言えるでしょう。

第1番と同じようで異なるのは、第2番は導入として、ケテヴァナ王女の嘆きというのがあります。このケテヴァナ王女とは、18世紀から19世紀に存命したカルトリ王国の王女で、その時期にグルジアはロシアの保護領になっています。

実は、この第2番に使われている幾つかのモティーフは、後にロシア革命後イッポリトフ=イワノフの様々な作品に転用、或は引用されているのです(その一つが、アルメニア狂詩曲です)。つまり、この作品はロシアに対する抵抗の意味合いがある、ととらえるのが正解でしょう。ロシアという国よりも、ロマノフ王朝に対する抵抗、という側面が見て取れます。その上で、民族の協力を描くために、コーカサスの美しさを表現したのが、二つの「コーカサスの風景」、特に第2番であると言えるでしょう。

実際、グルジアという国は、ロシアと仲がよかったり悪かったりした歴史を持ち、その関係はかなり複雑です。音楽を聴きますと、単純なナショナリズムというよりは、むしろ後のシベリウス交響曲に近い趣を持ちます(それはやはり、師がリムスキー=コルサコフだからという事もあるでしょう)。

その後の二つのトルコ文化の流入を表現した、トルコ行進曲や、トルコの断章も、強烈な民族主義よりは幾分控えめです。むしろ民族の大円団を標榜した、それぞれの民族に寄り添う作品であると言えます。トルコ行進曲は勇壮ですが、トルコの断章は風景を美しく描いた作品です。

さて、演奏面で触れるのは、やはり「イヴェリア」最終曲である、グルジア戦争行進曲です。このCDでは幾分ゆったりとしたテンポで演奏され、私達がイメージするマーチとは幾分異なります。第3曲目の「レズギンカ」は、コーカサスの激しいダンスですが、それもかなりゆったりとしたテンポを採用しています。そもそも、それほど激しい音楽でもありません。

恐らく、イヴェリアが作曲された1896年という時期は、ロシアとグルジアの関係が微妙であったと想像できます。正確には、ロシア保護領となったグルジアでは、ロシアにおける社会主義運動の勃興によってロマノフ王朝が揺らぎ始めたのを機に、民族運動が勃興し始めたと言えます。そんな時期の作品であるので、かなり微妙な表現にならざるを得ないのだと思います。

その点でいえば、イヴェリアの第1曲目、「ケテヴァナ王女の嘆き」はかなり具体的に嘆きを表現しており、ある意味民族運動への共感を、様々なレトリックで表現しているとも言えるかと思います。

注目すべきなのは、イッポリトフ=イワノフという人は、ロシアにおける保革どちらの音楽院にも関係ある人である、という事です。特に最後にモスクワ音楽院であったというのが、彼のスタンスの一端なのだろうと思います。決して社会主義者というわけではなかったでしょうが、ロシア民族主義に共感を覚える一人として、それゆえにグルジア民族主義にも共感を持っていた人であった・・・・・ということが想像されます。

勿論、これは私の私見です。そうであると断言はできません。しかし、作品とその時代背景を見て来ると、そんな人となりが浮かび上がってきます。演奏がとにかくゆったりと、絵画的に描くことに終始しているのは、それが理由のような気がします。それは指揮者フェイゲンが、メトロポリタンでジェームズ・レヴァインの助手をつとめただけの指揮者であり、オペラなどの物語性の強い作品の解釈力にたけているということもあるのでしょうが・・・・・

ただ、この演奏の指揮者とオケの組み合わせは、それだけで冷戦後の黒海周辺国の政治背景が透けて見えてしまうのは私だけなのでしょうか・・・・・

ある意味、イッポリトフ=イワノフの作品というのは、政治的に使われる運命にあるのかもしれません。もっと政治から離れて演奏される機会があってもいいように思います。それだけ、コーカサス地方がいまだに、不安定であるという事を示す一枚なのかも、と思っています。




聴いているCD
ミハイル・イッポリトフ=イワノフ作曲
組曲コーカサスの風景」第1番作品10
組曲コーカサスの風景」第2番「イヴェリア」作品42
トルコ行進曲作品55
トルコの断章作品62
アーサー・フェイゲン指揮
ウクライナ国立交響楽団
(Naxos 8.553405)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




このブログは「にほんブログ村」に参加しています。

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ 合唱・コーラスへ
にほんブログ村