かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:大栗 裕 大阪俗謡による幻想曲

神奈川県立図書館ライブラリ、今回は大栗裕の作品集を取り上げます。元音源はナクソスです。ナクソスの「日本作曲家撰集」シリーズの一つということになります。

多分、ほとんどの方が初めて知る名前だと思います。大栗裕って、誰?

大栗裕は、元々大阪フィルハーモニー交響楽団(大フィル)の団員だった人で、後に作曲家へ転向しました。関西では比較的有名な人です。

大栗裕
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%A0%97%E8%A3%95

「浪速のバルトーク」とも異名を取る人ですが、このアルバムを聴きますと、バルトークと比肩されるだけではその価値は矮小化するような気がしています。

少なくとも、このアルバムを聴きますと、様々な様式を使いこなして、所謂大阪文化の代名詞である「町人文化」を表現した作曲家ということが言えるかと思います。その点では確かに、バルトークと比肩されるのは当然かもしれません。

まず、第1曲目がヴァイオリン協奏曲。不協和音が多用されている、所謂20世紀の音楽ですが、形式的にはソナタ形式を基本としているため、古典的な急〜緩〜急の三楽章形式の協奏曲と言えるでしょう。しかも、第1楽章が長いという、明らかに全体の構成としては古典派を意識しています。けれども、作曲は1963年。実に50年ほど前でしかないのです。

この第1曲目から、大栗裕という作曲家が只者ではないことを聴き手に意識させるに十分でしょう。曲全体を貫く短調は、緊張感を与えていますし、また次々に変化する曲調は、聴き手をぐいぐい自分の世界へ引き込んで、いつの間にか大栗ワールドとも言える世界へと連れて行きます。特に第3楽章のファンファーレは、最近話題の某「にせ(?)作曲家」の様式にも似て、第2楽章で寝てしまいそうな人も起こしてしまうくらいのインパクトがあり、飽きさせません。

そして、第2曲目がアルバムタイトルでもある「大阪俗謡による幻想曲」です。

大阪俗謡による幻想曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E4%BF%97%E8%AC%A1%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%B9%BB%E6%83%B3%E6%9B%B2

大栗裕・大阪俗謡による幻想曲−曲の概要(前編)−
http://kcpo.jp/info/36th/Osaka-z.html

−曲の概要(後編)−
http://kcpo.jp/info/36th/Osaka-z2.html#head

最初に掲示したウィキでも説明がありますが、大栗氏は朝比奈隆と関係が深い人で、この作品も朝比奈氏から委嘱を受けて作曲されています。元々は「大阪の祭囃子による幻想曲」という題名だっただけに、様々な「おはやし」が冒頭に提示され、それがやがて展開され、一つの世界を形成していきます。

ですので、俗謡と言うよりは、祭囃子と理解するほうがこの作品を理解しやすいように思います。まるで大阪のお祭りのような音楽です。演歌が好きな方であれば、中村美津子さんの「河内おとこ節」を思い出していただきますと、すこし世界が分かるかもしれません。

河内おとこ節
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E5%86%85%E3%81%8A%E3%81%A8%E3%81%93%E7%AF%80

そもそもこの作品は吹奏楽をやられている方に有名で、作曲家自身が吹奏楽に編曲していて、様々な版が存在します。一番有名なのは全曲版と淀工(大阪府立淀川工業高校吹奏楽部)版ですが、有名な曲であるがゆえに、コンクール版や辻井版などもあります。なお、元々の管弦楽版でもいくつか版が存在しますが、この演奏では最終の1970年版を使用しています。

兎に角、幻想曲というよりもラプソディと言ったほうが適切なくらい、徹頭徹尾祭囃子にあふれていて、楽しいという表現よりも、思わずノリノリになってしまうという表現の方が適切だと思います。海外初演時のベルリンで、大好評だったのもうなづけます。丁度民謡採集が盛んなヨーロッパで、民謡というか祭囃子という、日本の旋律に基づいた作品でなおかつリズム感溢れる作品は、ベルリンの聴衆の心をわしづかみにしたことでしょう。

第3曲目は「神話」という作品です。え、何の神話?とか言わないでくださいね・・・・・勿論、日本神話です。天照大神が天岩戸に隠れてしまうという場面を音楽で表現したのがこの作品です。まあ、正確ではないですが交響詩とも言えるような作品です。

神話 (大栗裕)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E8%A9%B1_(%E5%A4%A7%E6%A0%97%E8%A3%95)

大栗裕がもともとホルニストであったことから、彼は吹奏楽の作品を多く手掛けていますが、この作品も実はそうでして、元々吹奏楽のための作品を管弦楽版へ編曲したものがこの演奏です。現在では2013年版が存在しますが、この演奏はそれよりも前に収録されたものなので、1977年に管弦楽へと編曲された当時の版を使用しています。

ウィキには、天岩戸の場面を「かなり即物的に」と表現されていますが、まあ、劇音楽風にと言えば分りやすいでしょう。天岩戸の場面を大河ドラマなどでやるとして、その場面のための音楽という感じです。つまり、「ライト・モティーフ」のような音楽だといえるでしょう。実際、一つの旋律が何回か出てきていて、天照大神を彷彿とさせます。

最後が、大阪のわらべうたによる狂詩曲です。

大栗 裕 大阪のわらべうたによる狂詩曲
http://ameblo.jp/kyofra/entry-10672815087.html

この作品ほど、本来ヨーロッパで好まれるような作品はないだろうと思います。わらべ歌という、日本の民謡とも言うべき旋律をもととして、つむぎだされるラプソディだからです。団体の記念作品というだけあって、冒頭のファンファーレが印象的ですが、それだけにとどまりません。そこから「ザッツ大阪」というような旋律、世界が展開され、関東に居る私もいつの間にか大阪に住んでいる気分にさせてくれます。

実は、このアルバムで私が一番好きな作品がこの「大阪のわらべ歌による狂詩曲」なのです。わらべ歌を歌いながら子供が駆け回っているような雰囲気をも持ち、その上でどっしりとした重厚感もありつつ、リズム感にあふれ、生命力を感じる作品です。この作品ほど思わず踊りだしたくなる作品はありません。不協和音がご多分に漏れず多用されていますが、かといって決して旋律を忘れているわけではありません。様々なわらべ歌が出てきては、それが作品を織りなしていて、聴き手を童心に帰らしてくれます。

この世界観、どこかで私が取り上げていると思った方は勘のいい方です。実はオーヴェルニュの歌など、ヨーロッパの民謡採集に興味を持ち始めたことが伏線にあるのです。その上当時、某SNSで第2曲目の「大阪俗謡による幻想曲」が取り上げられたことが、借りる決定的な理由でした。それにしてもまさか神奈川県立図書館にあるなど思いもよりませんでしたが・・・・・

オーケストラは、作曲家が一時所属していた、橋下市長ともバトルを繰り広げたことでクラシックファン以外にもすっかりおなじみになった、大阪フィルハーモニー交響楽団。東のN響、西の大フィルと言われる日本を代表するオーケストラで、私も何度か取り上げています。縁の深いオケの演奏は、果たしてこれが日本のオケだろうかと思うばかりの素晴らしいアンサンブルと気合いに満ちています。ナクソスによくありがちな、ダイナミクスさに欠けるような部分が全くなく、フォルティシモはヴォリュームを絞りませんと近所迷惑になるくらいです^^;

公式サイト
http://www.osaka-phil.com/

大阪フィルハーモニー交響楽団
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%98%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%83%BC%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E6%A5%BD%E5%9B%A3


ヴァイオリン協奏曲のソリスト、高木和弘も冴えわたっています。オケとのセッションも充分楽しんでいるように聴こえます。その彼も実は大阪出身です。

高木和弘
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%9C%A8%E5%92%8C%E5%BC%98

ヴァイオリン協奏曲は打楽器も大活躍する作品ですが、その大打撃(!)に負けず、しっかりとアンサンブルしてソリストの存在感を示し、ラフマニノフなど20世紀の協奏曲らしい「オケとソリストの競い合い」でも決して負けません。それが根源一体となり、作品を彩って行きます。

指揮者の下野竜也は大阪出身ではないですが、作曲家の大阪に対する愛着を十分にくみ取った解釈をしているように思われます。テンポは速すぎず、遅すぎず。その上、ファンファーレ的な部分は充分聴かせてくれます。

大栗氏の作品はもっと聴きたいなあと思います。大阪という都市の本来持つ雑多で生き生きとした、庶民の生命溢れる様子をリズミカルを重視して描いたような作品は私をすっかり虜にしています。もともと関西が好きな私にとって、一生聴いて行きたい作品にあふれています。




聴いている音源
大栗 裕作曲
ヴァイオリン協奏曲(1963年)
大阪俗謡による幻想曲(1955年、1970年改訂版)
管弦楽のための神話―天の岩屋戸の物語による(1977年管弦楽版)
大阪のわらべうたによる狂詩曲(1979年)
高木和弘(ヴァイオリン)
下野竜也指揮
大阪フィルハーモニー交響楽団

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。



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