かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:大バッハの息子達6

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、大バッハの息子達を取り上げているブリリアント・クラシックスのものを取り上げています。今回はいよいよ(?)、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの登場です。

ヴィルヘルム・フリーデマンに関しては、何度か取り上げています。

音楽雑記帳:「フルート・デュオ・コンサート」を聴いての雑感
http://yaplog.jp/yk6974/archive/379

今月のお買いもの:W.F.バッハ カンタータ集1
http://yaplog.jp/yk6974/archive/841

今月のお買いもの:W.F.バッハ カンタータ集2
http://yaplog.jp/yk6974/archive/847

彼に興味を持ったきっかけが、最初のエントリでご紹介したコンサートで、その後、この県立図書館のブリリアントの音源を借りてきています(こういったことが出来ることが県立図書館の役割であり、安易に収蔵庫としようとする現在行われている県教育委員会の政策は簡単には支持できません。図書館の役割をしっかりと考えたうえでの解決策を望みます)。そしてその後、同じくブリリアントから出ているカンタータ集を買っています。

さらに今、私としてはフリーデマンの鍵盤作品にも興味が向いています。そこまで至るきっかけとなったのがこの音源であることは間違いありません。そのため、県教育委員会が今進めている政策は簡単に同意できませんが、それについてはいずれ「想い」で述べたいと思っておりますので、今回は横に置いておきます。

さて、この音源で取り上げられていますのは、フリーデマンのシンフォニアが中心です。最後の通常バッハの管弦楽組曲と言われているものを除けば、そのほかはすべてシンフォニアです。

交響曲の前身であるシンフォニアが、どのような役割をかつて持ち、フリーデマンの時代どんなものとなっていたかを、この音源は明確に示しているのです。まず、第1曲目は4楽章のシンフォニア。「不協和音」という標題がついている作品ですが、楽章構成は「交響曲」に近いものを持っています。後世の交響曲とは順番が異なりますが、ほぼ同じような構成を持っている点が注目点だろうと思います。そう、すでに4楽章の構成なのですね。

交響曲が明確に4楽章となるのは時代的にはハイドンの登場を待たねばなりませんが、それ以前にもすでに4楽章のものが存在したことを、このシンフォニアが明確に示しています。

第2曲目と第3曲目は1楽章のみです。特に第2曲目は聖霊降臨節カンタータ「響かせよ、汝ら神の祝福を受けた民族よ」のためのもので、こういったことは父親譲りの構成です。そして、第3曲目は3楽章のシンフォニアで、第4曲目と第5曲目は1楽章のシンフォニアと、楽章構成や用途などを勘案しますと、いかに彼が生きた時代が、移行期であったかがよく分かります。

これこそ、「交響曲成立前夜」とも言うべき状況でしょう。新しい様式が生まれる、正にその時代をフリーデマンは生きて、作品をつむぎだしていったと言えるでしょう。ただ、確かにウィキの言うとおり、彼の性格が災いして作品はかなり散逸し、重要性も顧みられることなく20世紀まで低い評価が続いたのだと思います。

ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%A

しかし、カンタータを取り上げたエントリでも私は述べましたが、音楽は決して誰かのまねではありません。様式的に父大バッハを受けついでいるため似ているだけであって、実際は独創的な作品も数多いですし、また、第1曲目などは諧謔性もありその上で4楽章と、当時としては奇抜で先進的なことをやってのけています。

その上で、「管弦楽組曲第5番」を聴いてみますと、確かにヴィルヘルム・フリーデマンの香りがそこかしこに存在します。もしかすると、管弦楽組曲とは、ヨハン・セバスティアンとその長男ヴィルヘルムとの共同制作なのかとも思ってしまう作品ではないかと思います。

いずれ、このコーナーで取り上げますが、バッハの管弦楽組曲を全曲聴きますと、確かにこの第5番だけは少しバッハらしくないというか、雰囲気が異なるのです。ヨハン・セバスティアン管弦楽作品に於いてそれほど諧謔性などはとり入れない人ですが、この第5番に関しては諧謔性が随所に見られ、また聴いている限りの和音進行もむしろ古典派に近いものを持っていて、第1番から第4番までとは様相が異なるのです。

ですので、現在ではこの第5番は抜いて紹介されることが多くなっており、ウィキの説明もそれに準拠したものになっています。

管弦楽組曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%A1%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E7%B5%84%E6%9B%B2

では、なぜこの第5番がかつて一緒になってしまったのかを考察しますと、バロック音楽の特色の一つである、編曲という部分を考える必要があるのではないかと私は思います。第1曲目は何処から見ても大バッハの音楽が流れていますが、それがだんだん外れていき、どう考えてもヴィルヘルム・フリーデマンの作品と考えざるを得ないものへと変化していきます。実はそれもまた妙味あるもので、味わい深い作品なのです。

ですから、私としては出来るだけ、ヴィルヘルム・フリーデマンの可能性を表記したうえで、第5番も確実にヨハン・セバスティアンとわかっている第1番から第4番までと一緒に演奏するのが適切であると思っています。勿論、抜いてしまってもいいわけなのですが、それは必ずしもバロック期の音楽を反映した解釈ではないということだけは、念頭に置いていいいと思います。ただ、それは決して間違いではなく、過渡期の作品としていろんなスタンスがありだということを示しているのです。

管弦楽組曲バロック期の作品とみるか、それとも多感様式に片足を突っ込んでいるのかとみるのかで、第5番を入れる入れないは分かれるかと思います。第1番から第4番までは、ケーテン時代のものを基本に恐らくライプツィヒ時代以降に加筆されていると言われており、けっして多感様式とは言えませんが、そもそも、バッハの作品には後の古典派を用意する様式も散見されます。バッハはバロック期最後の作曲家だと言い切ってもいい人です。彼の息子達の作品のほとんどに多感様式が反映されており、しかも一部の作品は古典派と言ってもいいものがあることを考えますと、この第5番を一緒に入れても実はそれほど差し支えはないということも言えるわけなのです。

そもそも、管弦楽組曲がいまの形となったのがいつなのかははっきりしておらず、唯一成立がはっきりしているのが第3番の1731年だけです。となると、もしかすると管弦楽組曲はバッハファミリーによる共同作業であって、しかしその大部分はヨハン・セバスティアンが担当し、最後だけ長男ヴィルヘルム・フリーデマンの作(つまり、ヨハン・セバスティアンかどうかといえば、そうではなく偽作なので研究成果は正しい)と言えるのかもしれないのです。

この例は実は他の芸術作品にも見られるもので、それは我が国に存在します。奈良東大寺南大門に存在する、金剛力士像二体です。

南大門
木造金剛力士立像(国宝)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E5%A4%A7%E5%AF%BA#.E5.8D.97.E5.A4.A7.E9.96.80

運慶作と言われますが、実際には運慶工房の実力者である快慶や湛慶が主に担当し、その上でさらに小仏師がその支持を受けて彫っています。そして総合指揮を執ったのが、運慶だったのです。管弦楽組曲はこういった例に似ています。もし、作曲の事実がこの金剛力士像に似たものだったとしたら、第5番を偽作という理由だけで排するのは、間違っているということにもなるのです。そこが、バロック期の解釈の難しい点です。古典派以降のように竹を割ったようにはいかないのです。そして、それがまた面白みでもあります。

実際、この音源はモダン楽器で演奏されています。現在主流のピリオドとは一線を画していますが、しかし音楽史を俯瞰したうえで演奏されているのは好感が持てるものだと思います。ピリオド批判はそういったことを知ったうえでやるべきだと私は考えています。実際、ピリオド演奏にもさまざまな問題点はあるわけですから。ただ、ピリオドが間違っているというのは、私は間違っていると考えています。ピリオドでどんな演奏をするのかが大事だと思っています(だから、テレマン室内は評価し、ガーディナーは必ずしも手放しでは評価しないのです)。

端正で均整のとれた演奏は、こういった音楽史の謎を私たちに投げかけています。



聴いている音源
ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ作曲
シンフォニア ヘ長調(不協和音)
聖霊降臨節カンタータ「響かせよ、汝ら神の祝福を受けた民族よ」のためのシンフォニア ヘ長調
シンフォニア ニ短調
聖霊降臨節カンタータ「これこそその日である」のためのシンフォニア ニ長調
昇天祭用カンタータ「人生の旅路はいずこへ」のためのシンフォニア ニ長調
クリスマス用カンタータ「おお、奇蹟」のためのカンタータ(恐らくシンフォニアの間違い) ト長調
ヨハン・セバスティアン・バッハ管弦楽組曲第5番ト短調BWV1070(ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ作曲?)
ハルムート・ヘンシェン指揮
カール・フィリップエマニュエル・バッハ室内管弦楽団



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