今回の神奈川県立図書館所蔵CDは、モーツァルト全集の宗教音楽の第10集です。教会ソナタを2回にわたって取り上げます。
教会ソナタって、いったい何?って思うかと思います。実は、以前ピリオドの演奏でこのブログでも取り上げてはいるんですが・・・・・
マイ・コレクション:モーツァルトミサ曲全集1
http://yaplog.jp/yk6974/archive/563
「基本的にミサ曲の中に挿入されている、教会において演奏される器楽のみの音楽のことです。なぜそんな面倒な言い方をするかといいますと、これは日本人にはわかりづらい点だと思いますが、キリスト教では人の声が最も聖なるものとされているためです(一方、神道は逆に器楽ですね。雅楽を聞けば分かり易いと思います)。形式的にはもちろん、ソナタ形式であり、4楽章であることが多いとされていますが、モーツァルトの場合は1楽章のみのソナタ形式をもつミサ曲中の器楽のみの曲のことを「教会ソナタ」と呼びます。」
これ以上になにも付け足すことはありません。今回は、それをモダンの演奏で聴いてみましょうということです。
ここまでで、「あ、ということはこの全集の演奏には教会ソナタが挿入されていないんですね」と気が付かれた方は、さすがだと思います。その通りです。そしてこれが、ピリオドの演奏が主流になる前までの教会ソナタの扱いであり、同時にモーツァルトの宗教音楽の取り扱いでもあったろうと思います。
教会ソナタが入ることがモーツァルトの時代の演奏スタイルであり、それが当時の教会音楽の取り扱い方や思想だったわけです。教会が絶大な権力を握るのではなく、世俗権力が徐々に力を持った(それはやがて市民革命へとつながる)時代がモーツァルトが生きた時代です。しかし、ベートーヴェン以降はミサ曲そのものが形式なものとなったことから、その延長線上で演奏やものが語られることが多かったのが、この全集の演奏が収録された時代までのモーツァルトの宗教音楽論でした。
それに異を唱えたのが、ペーター・ノイマンや、ニコラウス・アーノンクールなどのピリオド演奏家たちでした。しかしそのきっかけを作ったのは、この全集のケーゲルだったと私は思います。
その点で、ケーゲルはもっと評価されてもいいのではと思います。もちろん、楽譜に書いていなくても演奏しなければならないものを演奏しない点は批判されねばなりませんが。
この教会ソナタの演奏は、ケーゲルではなくヴィンシャーマンです。ケーゲルも実は古いモーツァルト観に囚われた人であったことが、この全集から見えてきます。しかし、それをケーゲルはスコアリーディングの徹底で距離をとろうとしているのが分かる全集なのです。
さて、この第10集の演奏に参りましょう。テンポの揺れが少なく、ほとんど等速で演奏させています。これはとてもいいなと思います。明らかにピリオドやケーゲルに影響された演奏です。その上で、せっかく教会ソナタだけを取り出して演奏するならと、番号順になっているのが嬉しい点です。
マイ・コレのエントリでも触れましたが、教会ソナタはザルツブルクの大司教がコロレドに変わったことが作曲の大きなきっかけになっているわけですが、最初の3曲はコロレド就任前とも言われています。では、何に使われたのかが問題になるのですが、ここでは一端その点を考えずに、教会ソナタと言われているものを俯瞰してみようというのが編集方針です。
そこで、順番に聴きますと、番号が下るとともに、オルガンの役割が大きくなっていることが分かります。第3番くらいまではオルガンは完全に通奏低音ですが、第5番や第6番あたりからはたんなる通奏低音だけではなく、主役も務めることになります。この変遷は私たちに多くの示唆を与えているように思います。
なぜ、第3番あたりまではオルガンの役割はまるでバロックと同じなのでしょう?音楽自体は古典派そのものなのに・・・・・モーツァルトの習作なのでしょうか?そんなことを考えたくなるのです。
しかし、習作というには弦の旋律はすでに完成されているように思います。しかも、第3番までにモーツァルトは交響曲も協奏曲も作曲しています。そして、その作風は変化し続けています。となると、何となく当時の人が教会ソナタに求めていたものが変化していったのが見え隠れするように、私には思えます。その上で、コロレドの就任が重なった・・・・・
そう考えますと、この変化はとても納得がいきますし、自然です。そして、モーツァルトの音楽に変化が起きた、コロレド就任以後のモーツァルトの音楽を考える、一つの重要な材料であるようにも思うのです。その点では、このように教会ソナタだけを取り出すというのも、一つの考え方だと思いますし、今後はその点で教会ソナタは考えられていくでしょう。
さて、第11集はどういった変化になるのでしょうか・・・・・それは、もうすこしお待ちくださいませ〜
聴いている音源
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲
教会ソナタ第1番変ホ長調K.67(41h)
教会ソナタ第2番変ロ長調K.68(41i)
教会ソナタ第3番ニ長調K.69(41k)
教会ソナタ第4番ニ長調K.144(124a)
教会ソナタ第5番ヘ長調K.145(124b)
教会ソナタ第6番変ロ長調K.212
教会ソナタ第7番ヘ長調K.224(241a)
教会ソナタ第9番ト長調K.241
教会ソナタ第8番イ長調K.225(241b)
教会ソナタ第10番ヘ長調K.244
教会ソナタ第11番ニ長調K.245
教会ソナタ第12番ハ長調K.263
ダニエル・コルゼンパ(オルガン)
ヘルムート・ヴィンシャーマン指揮
ドイツ・バッハゾリステン
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