かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:ハインリッヒ・イザーク シャンソン、フロットラ、リート集

2012年最初のマイ・コレは、ハインリッヒ・イザークシャンソン、フロットラ、リート集です。ロンドン中世アンサンブルの演奏です。

以前もマクシミリアン1世の宮廷の作曲家シリーズを取り上げたかと思いますが、それはイザークと同時代の作曲家を俯瞰するものでもありました。

マイ・コレクション:マクシミリアン1世の宮廷チャペルにおけるモテット集
http://yaplog.jp/yk6974/archive/739

今ではそれは面白いですがそれを買った当時はあまり面白くなく、どうしてもイザークの作品を集めたCDがほしくて、この一枚を買い求めました。10年くらい前になります。

まず、ハインリッヒ・イザークという作曲家について触れておきましょう。

ハインリヒ・イザーク
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%92%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%82%B6%E3%83%BC%E3%82%AF

中世ルネサンス期を代表する作曲家です。詳しい人生は実はあまりよくわかっていない作曲家で、1470年代後半から80年代に掛けて、文献に登場するようになります。その時にはインスブルックの宮廷音楽家でした。その後、インスブルックは政治の舞台となり、マクシミリアン1世の統治を受けます。

マクシミリアン1世 (神聖ローマ皇帝)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%B31%E4%B8%96_(%E7%A5%9E%E8%81%96%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E7%9A%87%E5%B8%9D)

このマクシミリアン1世が彼の人生を変えたとも言っていいのではと思います。彼はフランドル派を切り開いた作曲家と言われていますが、それはインスブルック宮廷だけでは難しかったでしょう。神聖ローマ帝国と言う地域があってこそだろうと思います。

この一枚はそれを感じさせる曲ばかりが収められています。いっぽうで、なぜイタリアの人たちがドイツを田舎者と呼んだかも、この一枚を聴きますとよくわかります。

シャンソンはフランスの歌曲を意味し、イザークがそもそもフランドル、今のベルギーあたりの出身であるという出自に関係する曲です。そして、フロットラとは15世紀から16世紀にかけてさかんだったイタリア歌曲の様式で、マドリガルの前身です。リートはまさしく、ドイツの歌曲になります。これだけ見ますと、音楽先進地域だったイタリアから見ますと、なんて時代遅れな、田舎者の芸術となるわけです。それが、たとえばラッススの「愛しのマドンナ」に繋がるわけです。

マイ・コレクション:ラッスス ヴィラネッラとモレスカ集
http://yaplog.jp/yk6974/archive/808

しかし、実際聴きますと素朴なうえに美しい旋律と、質素なうえにすっきりとした形式美が魅力的な作品ばかりです。これがバロックを用意したというのはとてもうなづける作品たちです。

フランドル楽派
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB%E6%A5%BD%E6%B4%BE

実は、このCDを買うきっかけは、当時入っていた合唱団でイザークの「インスブルックよ、さらば」を歌うことになった事でした。このCDの20曲目になりますが、合唱団ではこのCDに収録されている様式、つまりアカペラで歌うことになったのですが、これが結構難しいのです。

日本の合唱団は、ピアノ伴奏が入ることに慣れてしまっています。正確には、ピアノ伴奏によって前奏が入ることに慣れてしまっていると言っていいでしょう。それはテンポを決めてくれるという点で実は歌いやすいのです。ところが、アカペラは自分たちで聴きあいながらテンポをいきなり作っていかなくてはなりません。つまり、器楽曲でいえばたとえば弦楽四重奏曲などと一緒なのですね。アンサンブルするだけでなく、時としてセッションしなくてはなりません。そこがアカペラ最大のむずかしさであり、また醍醐味なのです。

インスブルックよ、さらば」は実際にはイザークが作曲したものではなく、民謡を編曲したものとも言われていますが、もしそうだとしてもイザークの能力が低かったことにはならないでしょう。バッハがおなじことをカンタータでやっていることを考えますと、イザークがどんなに田舎者であったとしても、その後の作曲家たちに大きな影響を与えていることは間違いありません。そういっているうちに、イタリアは音楽の本場としては没落を迎え、ドイツが音楽の本場として勃興してくるのですから。それを用意したのが、マクシミリアン1世であり、そしてそれにイザークが深く関わっていたとすれば、音楽史の上ではやはり大事な作曲家であったと言わざるを得ません。

その割には、日本では評価が低い作曲家でもあります。それは明らかに、器楽曲が少ないことと、その器楽曲が形式的にプリミティヴであることが理由でしょう。しかし、フロットラは同時代のイタリアにも負けてはいませんし、リートは明らかに次代を用意するだけの形式を持っています。こういったCDがもっと聴かれるべきだと、私は思います。本場はこういった作品を普通に聴くことで、アンサンブルの感覚を養っているのだということを忘れてはならないでしょう。



聴いているCD
ハインリッヒ・イザーク作曲
インスブルックよ、さらば〜シャンソン、フロットラ、リート集
ピーター・デイヴィス、ティモシー・デイヴィス指揮
ロンドン中世アンサンブル
(L'OISEAU-LYRE POCL-5205)



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