今回のマイ・コレは、モーツァルトのメサイアK.572です。リリンク指揮、シュツットガルト・バッハ合奏団他です。
メサイアはヘンデルじゃないの?という、ア・ナ・タ。はい、実はこれ、原曲はヘンデルでして、あくまでもモーツァルトの編曲です。
このCDは、先日ご紹介した美濃太田の輸入CD店のサイトで見つけ、歌詞がドイツ語ということで予約をかけたのですが、待てど暮らせど連絡が来ず、銀座山野楽器で見つけてそちらで買ってしまったものです。つまり、これは私の珍盤収集癖から購入したものです。
しかし、これは単に歌詞がドイツ語というような、単純な代物ではなかったのです。
ヘンデルの「メサイア」の編曲 K.572
http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/op5/k572.html
モーツァルトがこれを編曲した1780年代、ウィーン宮廷図書館長スヴィーテン男爵と交友を持っていました。実はそれが、後にレクイエムとして結実することになります。
レクイエムが今の形で成立するのに、このメサイアの編曲が果たした役割は、とても大きかったのです。
それにしても、上記サイトの文章はメサイアなので陰に隠れがちですが、出て来る名前がそうそうたるメンバーです。
「 ぼくは今、バッハのフーガの蒐集をしています。 ゼバスティアンのだけではなくエマーヌエルやフリーデマン・バッハのも。 それからヘンデルのも。」(柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(下)」岩波文庫 p.54)
そう、フリーデマンも!大バッハの長男、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハもなのです!これを指南したのが、スヴィーデン男爵であり、そして男爵が主宰する音楽サークルの会員でした。
モーツァルトは天才だったため、そういったサークルやサロンと言ったものとは無縁と思われがちですが、フリーメーソン関係からこういった音楽サークルに顔を出しています。ウィーンに出るまでは父親に引っ張られてという形だったのが、自分でウィーンに出てからは、自らそういったサークルにおもむいて行ったのです。そこで知識を吸収し、自らのものにしていきました。
この演奏を聴きますと、ヘンデルのようであってそうではない響きに驚きます。確かに、音はヘンデルです。しかし、編成や使用する楽器やパートが変わるだけで、まったく違った顔をのぞかせるのです。
特に、金管が影を潜め木管、特にクラリネットが大活躍です。この編曲を行ったのは1789年。モーツァルトの交響曲で初めてクラリネットが出てくると言われる第40番が作曲されたのが1788年。実に近い時期なのです。実は当時、自然トランペットの名手が少なくなっており、そういったことから木管を採用する動きがあったことが、この編曲からわかるのです。
原曲では合唱のみの部分をソリストのみの部分を加えてソリストと合唱にしたりということもやっています。あるいは、「田園交響曲」の部分ではまさしく交響的に編成を変えています。それは、もう少し彼が生きていたら、どんな作品が生み出されたのだろうと思わずにはいられないほどです。
彼が死んだが1791年。この編曲の2年後です。ヘンデルの作品の編曲はこれだけにとどまらず、翌年1790年にも「アレクサンダーの饗宴」(K.591)と「聖セシリアの祝日への讃歌」(K.592)を手掛けています。そして、その結果として残されたのが、レクイエムでした。
この経緯からも、つくづく彼の死は惜しいなと思います。買った当初は実はあまり聴かなかったこの演奏も、今では私の中で大切なレファレンスとなっており、聴く機会も増えています。
演奏は、モダンオケですが、リリンクらしく必要以上に重々しくせず、とても生き生きとしています。その上で、気品と気高さがあり、聖書を題材としたオラトリオに生命を与えています。それにしても、メサイアのモダン演奏は当時これだけといったような状況でしたが、それは今でもあまり変わっていません。もちろん、ピリオドを否定するわけではないのですが、モダンでももっと挑戦をしてもいいように思うのです。モーツァルトがこのように、その時代に合うように挑戦したように。
プロオケに奮起を期待します!
さて、恐らく読みに来ていらっしゃるであろう、中央大学音楽研究会混声合唱団の方々、皆様の演奏につきましては、明後日、29日にエントリを上げる予定ですので、楽しみに待っていてくださいね。
そう、今年、中大生がこの作品を取り上げてくださったのは、とても素晴らしいことだと思います!
http://c-konsei.lolipop.jp/concert.php#111223
聴いているCD
ゲオルグ・フリードリッヒ・ヘンデル作曲
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト編曲
メサイア K.572
ドンナ・ブラウン(ソプラノ1)
コルネリア・カリッシュ(ソプラノ2)
ロベルト・サッカ(テノール)
アラステア・マイルズ(バス)
ゲッヒンゲン聖歌隊
ヘルムート・リリンク指揮
シュツットガルト・バッハ合奏団
(haenssler 98.975)※2枚組
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地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。