交響曲の父、フランツの弟であるミヒャエルも多くの作品を残していますが、日本ではいまいち評価されていない作曲家です。確かに、兄と違って一つのジャンルを確立したわけではないという点がそうさせているのでしょうが、しかしミヒャエルはモーツァルトに多大な影響を与えたという点で、もっと評価されるべき作曲家であるように思います。
この「ミサ・ヒスパニカ」もそんな作品です。1786年作曲のこの作品は、一見しますと、以下のサイトのように凡庸に感じるかもしれません。
http://www.geocities.jp/tsuda_koji/CD/cd_Haydn_JM.htm
確かに、クレドは表面的にはドラマティックな点がないのでつまらなく聞こえるかもしれません。しかし、実はエト・レジュレクシット以降、オケはシシリアーノを演奏し、そこに合唱が乗るというその構成は、まさしく復活の表現として独創的な点です。
シシリアーノは、バロック期においてはクリスマスを表わす表現でした。こういった古風な表現を取り入れたのは、恐らくこの曲がスペイン宮廷から委嘱を受けたことが理由ではないかと思います。そもそも、ミサ・ヒスパニカと言われているのは、スペイン宮廷からの要請のためと言われているのですから。
委嘱主がスペイン宮廷であれば、これだけ古風なのは理解できます。ミヒャエルは相手のことを考えて作曲をしたということなのですから。
そもそも、ミヒャエルはザルツブルクの宮廷音楽家としての地位を得ています。そのザルツブルクの大司教はコロレド。ミサ曲は45分以内にせよと言って、天才モーツァルトをして努力をさせた張本人です。
ミヒャエル・ハイドン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%92%E3%83%A3%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%B3
ザルツブルク大司教
ヒエロニムス・フォン・コロレド
(Hieronymus Joseph Franz de Paula Colloredo)
1732生〜1812没
http://dramatic-history.com/mozart/colloredo.htm
で、このミサは実に60分近くかかる大作なのです。もし、ザルツブルク宮廷音楽家という側面から見てしまうと、なぜ60分近くの大作がコロレドによって許されたのか!モーツァルトは差別されたのか!と考える人もいるかもしれませんが、そうではありません。この曲はザルツブルクであれば絶対に演奏できなかったでしょうし、またそもそもこれだけの大作が要求されることもなかったでしょう(だから、モーツァルトは新天地を求めてウィーンに出たのです)。しかし、その演奏場所がスペインであれば、まったく問題ありません。単にザルツブルクでは演奏しなければいいのですから。
モーツァルトは差別されていたというよりも、何度か言及していると思いますが、まだ年齢的に若かったというのが悲劇だと私は思っているのです。もちろん、それは現代的な物差しではどう考えても容認できませんが、当時は所謂年功序列などといったものが重要視されていた時代だったということなのです。その上で、これだけの作品を作曲できるミヒャエルがいる。モーツァルトとしては新天地を求めるしか選択肢がなかったのです。
そういったことが、ミヒャエルの作品を実際に聴いてみることで確認することが出来るのです。
クレドだけではなく、他の楽章でも金管を使ったり、実に当時の慣習としては珍しいことをやっていますが、それは確実にモーツァルトに受けつがれています。この作品が作曲された1786年はすでにモーツァルトがウィーンに出ていますが、二人は終生友人として尊敬しあった仲ですから、お互いに影響をしあったことは想像に難くありません。
もっと聴きたいと思う作曲家の一人です。できれば、宗教音楽に限らず、他のジャンルも聴いてみたいと思い始めています。
演奏面でも、このハンガリーの演奏家達は本当に素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれますし、また軽めの演奏も実に明るく、全体的に賛美している雰囲気が伝わってきます。
聴いているCD
ミヒャエル・ハイドン作曲
ミサ・ヒスパニカ ハ長調
マリア・ザドリ(ソプラノ)
ユディト・ネメス(アルト)
ペーター・ドラッカー(テノール)
イシュトヴァン・コヴァチュ(バス)
デブレツェン・コダーイ合唱団
パル・ネメス指揮
カペラ・サヴァリア
(Hungaroton HCD 31765)
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