かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:モーツァルト交響曲全集4

県立図書館所蔵CDのコーナー、今回もマリナー、アカデミー室内のモーツァルト交響曲全集で、第4回目です。

この4枚目はすべて4楽章の交響曲となっています。まず、交響曲ニ長調K.97(73m)(旧第47番)は専門家の間でもまず真作に間違いなかろうと太鼓判が押されている作品です。ではなぜ番号が振られないのかといえば、その確たる「証拠」がないからです。

この交響曲ほど番号なしの交響曲でもヴォルフガングらしさが出ているものもないと思うのですが、残念ながら彼の手書きの楽譜があるわけでもありませんし、またナンネルや父レオポルトが書写したコピーもないという状況なのです。つまり印刷された楽譜上でしかこの曲は伝わっていない、ということになります。

第37番のように長年モーツァルトの作とされてきたものが実はミヒャエル・ハイドンだったというものがあれば、モーツァルトの作曲には間違いないだろうが、その確証がないというものがいっぽうであるというのは、大変残念なことだなあと思います。特に、番号なしの曲こそ、モーツァルトの時代の交響曲の特性を表しているものもないだけに、証拠が見つかることを祈りたいと思います。

次の第12番から最後の第15番までは真作とされています。幸いにも直筆譜が残っていることがその理由です。ただ、成立年はそれぞれ見解が違っていまして、記載があることではっきりしているものから判然としないので様式や直筆譜の用紙の科学的調査の結果から判断しているものまでさまざまです。しかしいずれにしても4楽章ある曲となっています。

非常に重要な点が一つあります。それは、第14番以降は、ザルツブルクの司祭がコロレドに代わっている、ということなのです。詳しいことは事典等で調べていただくのが早いと思いますが、実は前司祭シュラッテンバッハの後押しで、彼は父とともにイタリアやフランス、イギリスと言った国へと旅行ができたのです。そこで体得した音楽というのは彼を豊かにしたでしょう。しかし、後任コロレドは自分の理想を貫き通す人で、華美なものはやめるなど、教会の抜本的な改革を押し進めることになりました。モーツァルトもその渦の中に巻き込まれていくことになります。

それはやがて、宗教音楽での苦労を経て、ウィーンへと旅立つことへつながってゆくわけですが、そこからの彼の交響曲の構造の変化を見てみると面白いことが浮かび上がるのです。

それこそ、4楽章と3楽章の混在です。本来なら、このまま4楽章で固定でいいわけですが、それができなくなった理由・・・・・その一つに、私は司祭がコロレドに変わったことがあると考えています。

アカデミーの名演のせいもあるかもしれませんが、第14番から、彼の音楽はかなり気品さを備えるようになってきます。単なる彼の成長だけでなく、そういう音楽を書くことへの要請があった、と考えるべきでしょう。そのままザルツブルクにとどまるほうが、もしかすると彼の交響曲はそのまま4楽章ですべて統一されていたかもしれません。しかし、その後彼はコロレドとは袂を分かつ決断をして、ウィーンへと旅立ち、しかも二度と戻ってくることはなかったことこそ、3楽章もその後の作品で存在し続けることの原因となった、と考えるのが自然です。なぜなら、ウィーンに出るということは、一から彼は自分の名声や生活を作り上げることになるわけなのですから。

当然、4楽章はハイドンという大作曲家や、シュターミッツという大家もいるわけです。彼らからすれば、モーツァルトなどは「若造」なのです。簡単に評価されるわけはないですし、ましてや4楽章の曲などを書いたら、つぶされる可能性すらあるわけです。そこで、まず3楽章形式で自分の力を認めてもらうしかない、実際、そういう要請しか来ないとしたら・・・・・当然、3楽章の曲を書きますよね。

それが、モーツァルトにかなりの数3楽章の曲がある理由だと、私は思っています。この第14番以降の曲からも、私はヴォルフガングの悩みが伝わってくるように思います。

それを本当にアカデミーは上品にかつ力強く演奏しますね。特に秀逸は第14番。やわらかいアインザッツのなんと美しくかつ上品なこと!その上、弦には力強さすら備わるのです。この加減具合こそ、名盤と言われる所以のように思います。

そう言えば、私はアカデミーの演奏で嫌に思ったことがないように思います。それ以上の演奏、例えばスコットランド室内のような、そんな演奏がない限り毛嫌いすることがない・・・・・それは、もしかすると彼らの演奏が「正しい軽さ」に基づいているからこそ、なのかもしれません。



聴いている音源
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト作曲
交響曲ニ長調K.97(73m)(旧第47番)
交響曲第12番ト長調K.110(75b)
交響曲第13番ヘ長調K.112
交響曲第14番イ長調K.114
交響曲第15番ト長調K.124
サー・ネヴィル・マリナー指揮
聖マーティン=イン=ザ=フィールズ教会アカデミー(アカデミー室内管弦楽団