今月のお買いもの、最後の7枚目はこれも横浜関内のプレミア・ムジークで買い求めました、ガーシュインとグローフェの作品集です。
この二人は、アメリカクラシック界の二大巨匠と言っていいでしょう。正確には、アメリカに生まれた、という枕言葉が付くべきかと思います。
このコーナーでも以前幾つかアメリカの作品を取り上げていますが、特にコルンゴルトはそもそもオーストリアから亡命してきた作曲家ですし、また、アメリカ民族音楽の祖とも言うべきドヴォルザークはそもそも今のチェコ生まれで、アメリカには音楽院の教授として赴任しただけです。生まれた時からアメリカの空気を吸い食べ物を食べて育った人は、この2人からが代表的だと言っていいでしょう。
ジョージ・ガーシュウィン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%B3
ファーディ・グローフェ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A7
中学校や高校の音楽史の時間でも、アメリカ音楽と言えばこの二人が主に取り上げられます。その理由は、まさしくドヴォルザークが「新世界より」や「アメリカ」で提示した「アメリカが目指すべき民族音楽」を、アメリカ人自身の音楽で作曲してみせたことです。
その一つの「語法」がジャズです。特にこのアルバムの1曲目である、交響的絵画「ポーギーとべス」はその代表的な作品だと言えるでしょう。「ポーギーとべス」はガーシュインが作曲したオペラで、登場人物が一人を除いてすべて黒人という設定が時代を感じさせます。
ポーギーとベス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%99%E3%82%B9
交響的絵画にまとめたのはガーシュイン自身ではなくロバート・ラッセル・ベネットですが、サマータイムなど有名なジャズナンバーがずらりと並んだ構成は、まさしくガーシュインの作品であり、とても素晴らしい構成を行ったと思います。ベネットのガーシュインに対する尊敬の念を感じる作品です。
交響的絵画『ポーギーとベス』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%83%99%E3%82%B9#.E4.BA.A4.E9.9F.BF.E7.9A.84.E7.B5.B5.E7.94.BB.E3.80.8E.E3.83.9D.E3.83.BC.E3.82.AE.E3.83.BC.E3.81.A8.E3.83.99.E3.82.B9.E3.80.8F
続く二つはともにグローフェの有名な二作品です。まずは組曲「グランド・キャニオン」。学校では「山道を行く」で習うこの曲を全曲収録してくれています。実はそれが魅力でこの一枚を買い求めたのです。できれば、ガーシュインのラプソディ・イン・ブルーも収録されているとよかったのですが・・・・・
というのは、この二人はその「ラプソディ・イン・ブルー」で関係があるからなのです。そもそもガーシュインはジャズピアニストがキャリアの出発点です。ですから、オーケストレーションなどをきちんと勉強していません。そのため、「ラプソディ・イン・ブルー」ではグローフェがオーケストレーションにおいて手助けをしているのです。ですから、ものによっては「グランド・キャニオン」と「ラプソディ・イン・ブルー」がカップリングされていたりもします。いや、そのほうが多いと言うべきでしょう。
ですから、「ラプソディ・イン・ブルー」が入っていないこのCDは貴重な一枚とも言えるかと思います。
話しを戻しましょう。「グランド・キャニオン」はまさしくアメリカのグランド・キャニオンを描写したもので、交響詩が幾つか組み合わさった組曲です。「山道を行く」はそのうちの一曲なのです。
グランド・キャニオン (組曲)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3_(%E7%B5%84%E6%9B%B2)
私のブログをよくお読みの方であれば、なぜ私はこのCDを、そしてなぜ「グランド・キャニオン」があるから買ったのかは想像つくと思います。そう、中学校などの音楽鑑賞の時間では、第3曲の「山道を行く」しか聴かせてもらえません。こののどかでかつ壮大なアメリカの大地を描写した音楽はいったい全体ではどんな位置にあるのかという想いを、中学生の頃からずっと持ってきました。ところが、日本のレコード業界は残念なことに、なかなかこの曲をCDとして全曲を売り出してくれません。「山道を行く」はどこでも売っているんですが・・・・・
僕がほしいのは、その単品ではなくて、「グランド・キャニオン」全曲なんだ!と何度叫んだことでしょう(もちろん、店頭でやるはずもありませんが)。
そして、この中年になってからようやくたどり着いたのが、この輸入盤だったというわけです。恐らく、これも一度は国内盤にはなっているはずだとは思うんですが、多分すぐ廃盤になってしまったのだと思います。ちなみに、1150円。格安・・・・・
もし、もっと早く巡り合っていたとしたら、もう3倍はかかったことでしょう。幸い、今では楽曲の説明だけであれば、収録曲はウィキにすべて載ってくれています。
この「グランド・キャニオン」は時系列で並べられている点も見逃せない点なのです。ウィキの説明にもありますが、グローフェの実体験から作曲されていますが、それをおもに時系列でならべて、単にアメリカの大地というだけでなく、地球の一部としてのグランド・キャニオンという視点もあることに気が付かされます。それゆえに音楽の美しさがより一層引き立っています。だからこそ私は言いたいと思います。中学校の先生方、是非とも時間ある限り、「グランド・キャニオン」全曲を子どもたちに聴かせてあげてください。もしかすると、音楽から天文学を目指す子もいるかもしれません。
グランド・キャニオンはアメリカでも古い地層が見えることでも有名な場所でもあります。私がこの曲に惹かれるのは美しさだけではなく、その古い時代へのロマンでもあります。そもそも、私は考古学も好きな歴史青年でした。そうでなければ大学時代に日本史を専攻するなどということはなかったでしょうし、このブログで図書館のライブラリをご紹介するなんて企画を立てなかったでしょう。そういった「考古学好き」が、「グランド・キャニオン」の魅力にひかれた一つでもありました。その点から言えば、さらにはこの曲を聴いて、グランド・キャニオンへ行って、地質学に目覚める子もいるかもしれません。そんなきっかけになる音楽のように思います。
そもそも、この曲を映画化したものがアカデミー短編実写賞を取っているという点を、もう少し私たちは評価するべきだと思います。子どもたちの科学への興味は、理科教育からだけとは限りませんよ。
グランド・キャニオンではいろんな特殊な楽器が使われていますが、その一つにウィンド・マシーンがあります。映画などで風の音を出す小道具ですが、この録音ではあまり表に出てきません。かすかにって感じですが、よく耳を澄ませが聴こえてきますので、注目してみましょう。
最後の曲が「ミシシッピ組曲」。実はこれほど日本で有名なグローフェの曲はないのです。それは「山道を行く」をはるかにしのぎます。かつて放送されていました日本テレビ系列の「アメリカ横断ウルトラクイズ」で頻繁に使われていた楽曲だからです。それが2曲目の「ハックルベリー・フィン」と第4曲目「マルディ・グラ」です。
ファーディ・グローフェの音楽
ミシシッピー組曲
http://ww2.ctt.ne.jp/~a-k/disc/grofe_etc.html
以前から、私はウルトラクイズに使われている楽曲にグローフェの作品があるということは知っていました。ただ、最後に出て来るクレジットはかなり早く流れてしまうため、どの曲かが分からずじまいになっていました。今回買い求めて、ようやく探し求めていたものと巡り合えた次第です。懐かしいですね。そして、なんと暖かいのでしょう。グローフェの非凡な才能をここに感じます。19世紀、リストによって産み出された「交響詩」が、20世紀のアメリカでこれほど美しく暖かい楽曲として完成されたことに、歴史の進歩を私は感じます。
演奏面では、ガーシュインと「グランド・キャニオン」の指揮がドラティであるというのが注目です。ハイドン全集を録音したドラティですが、アメリカのオケもたくさん振っている指揮者で、アメリカのオーケストラを語る時には外せない指揮者です。とは言うものの私はドラティ指揮のアメ・オケはこれが初めてなのです。いやあ、今までなんで食わず嫌いで来たのだろうと思います。アンサンブルの秀逸さと、艶のある表現力が素晴らしいです。
最後のミシシッピ組曲はハワード・ハンソン指揮のイーストマン・ロチェスター管弦楽団の演奏ですが、これもいいです。これが1950年代の録音だっていうんですから、驚きです。アンサンブルなどの素晴らしさはもちろんですが、その音質です。1959年とCDには記載されていますが、当時のアメリカの技術力の高さを思い知らされます。私の父はこういった技術と向き合い、私が小さかった頃エンジニアとして格闘していたんだなと思うと、感慨深いものと同時に、いかに今の日本人が戦後の坂の上の雲を登って行った日本人たちをさげすんでいるかに危惧を覚えます。今度は日本がすごいと思われる立場であることを、すっかり忘れてしまっている・・・・・
そんなことをこの一枚は教えてくれます。
聴いているCD
ジョージ・ガーシュウィン作曲
交響的絵画「ポーギーとべス」
ファーディ・グローフェ作曲
組曲「グランド・キャニオン」
ミシシッピ組曲
アンタル・ドラティ指揮
デトロイト交響楽団
ハワード・ハンソン指揮
イーストマン・ロチェスター管弦楽団
(DECCA eloquence 442 9496)
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