かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:バッハ モテット集

今月のお買いもの、6枚目は横浜関内のプレミア・ムジークで買い求めました、バッハのモテット集です。輸入盤で1150円!

破格値です・・・・・こんなのがぞろぞろあるんですよ、そこ。もちろん、2000円程度するものもありますが。

山野で買うかプレムジで買うか、迷うこともしばしばです。

さて、バッハの宗教曲と言いますとカンタータと受難曲が圧倒的に有名ですが、その二つのジャンルを語るにおいて実は重要なジャンルが、モテットなのです。なぜなら、このモテットはカンタータや受難曲が持つ基本構造である、「コラールをもととしてそれを再構築しなおす」という、バロック時代の作曲方法がギュッと詰まっているからなのです。

そのモテットを、バッハは数曲作曲していますが、このCDではその中で最も重要な、BWV225からBWV230までの5曲を収録しています。

まず、BWV225「主に向かいて新しい歌を歌え」は、実はこのCDがほしいと思った理由の1曲です。なぜなら、この曲は初めて聴く曲ではなく、昨年スウェーデン放送合唱団のコンサートを聴きに行ったときに聴いた曲だったからです。

音楽雑記帳:スウェーデン放送合唱団コンサートを聴いての雑感
http://yaplog.jp/yk6974/archive/372

上記エントリを立てた時のコンサートの第8曲目がこのCDの第1曲目です。1726年6月から翌27年の4月ごろにかけて成立したと考えられている曲で、つながっていはいますが3部からなる曲です。第1部でコラール「主に向かいて新しい歌を歌え」が歌われ、それが第2部でコラール声部と歌謡声部とに分かれ、最後第3部でアーメンで閉められます。13分ほどの曲ですが、明るく軽いその作風にはびっくりするとともに、その美しさはまるで青空が広がるようです。

第2曲目はBWV227「イエスよ、わが喜び」です。遅くとも1735年に作曲されたであろうと言われていますが、それが正しいとなると、カンタータと比べても遅い作品です。しかしこのモテットはおそらく一番有名なのではないでしょうか。このモテットで使われているコラールはカンタータにも多く使われ、アレンジされているものだからです(それはBWV225もですが)。6曲の中では一番大きい曲で、11曲からなりソプラノパートが二つに分かれてもいます。構成的な特徴としてこれも鏡像になっていまして、第6曲を転回点とする「鏡像モテット」とも言うべき作品で、それだけに特別な目的の時に演奏されたものと推測できます。「バッハ事典」ではそれが何かまではわかってはいないとのことですが、こういった構成を取るのは少なくとも1726年ごろ以降ではないかと私は思います。

第3曲目はBWV228「恐るるなかれ、われ汝とともにあり」です。1723年以降の作曲とされ、詳しい成立年が分かっていません。これも第1部と第2部が続いて演奏されるものですが、とても短いものです。それ故、追悼式用とも言われていますが定かではありません。

第4曲目はBWV226「み霊はわれらの弱きを助けたもう」です。1727年10月20日と、収録モテットの中では唯一成立年月日がはっきりしている作品です。これもコラールを基本に自由な作風で作曲されているもので、2部構成を取りますが続けて演奏されます。ただ、「バッハ事典」P.215によりますと、第2部は墓地にて演奏されたものであろうとのことです。

第5曲目はBWV229「来ませ、イエスよ、来ませ」です。1731年か32年以前に成立したとされていますが、定かではなく、さらに目的も追悼式用とも言われていますが定かではありません。二重合唱用で、元々は合奏つきだったとも言われています。

第6曲目はBWV230「主を頌めまつれ、もろもろの異邦人よ」です。これもカンタータなどに使われているコラールがもとになっているモテットで、成立年および用途が全く不明です。はたまた偽作との疑いも出てきている作品ですが、私が聴いた範囲内では旋律的には少なくとも大バッハに直接教えを請うた人物あるいは大バッハ本人だろうと思われます。小さい作品ですが、フーガなどがとてもバランスよくまとまっている作品です。

演奏面では、まず合唱団のオランダ室内合唱団を褒めるべきでしょう。何をと言えば、その「軽さ」です。声の軽さなのです。バッハと言えば私たちはどうしてもリヒターのロマンティックで重厚な演奏を思い出してしまいますが、このモテットはすべて長調であるということを鑑みる時、重厚な演奏は私は魅力を半減させると思います。どこまでも発声が軽い、このような室内合唱団が一番すぐれていると思います。バッハの作品はリヒターでないととも言われることがありますが、それはあくまでも受難曲においてだと私は思っています。器楽曲でもリヒターのような重厚な演奏も行けるかと思いますが、こういった明るく抜けるような青空が見えるモテットのような曲では、重厚な解釈では少しだけ的外れになってしまうような気もします。もちろん、それはそれで素晴らしい演奏なのですが・・・・・

モテットという曲の気軽さという側面を考えますと、私はこのような軽い発声の演奏のほうが好きですし、第一私の美意識にぴったりあうと思います。

それを振るのがトン・コープマンであるというのですから、なるほど、まるで抜けるような青空が見える演奏になるのは納得です。古楽オケを知り尽くしているとも言えるコープマンだからこそこの徹底した軽めの発声が実現したのかもしれません。

こう聴いてみますと、バッハ・コレギウム・ジャパンが全く遜色ないことが分かる演奏でもあります。もし、目隠しをしてBCJとオランダ室内合唱団を聴き比べても、なかなか聞き分けることは出来ないのではないでしょうか。そういったことも教えてくれます。

実は、BCJが今世界でどのような「位置」に居るのかを確認したくて、あえてこのCDを買ったということもあるのです。やっぱりBCJファンであえればモテットもBCJの演奏で聴きたいわけなのですが、それをあえてオランダ室内合唱団を選んだのです。オランダの団体というのは実はバッハなどバロックの演奏では定評があるのですが、今回それを実際に聴いてみまして、まさしく我が国の団体も世界に伍す団体であることをはっきりと知ることが出来ました。

バロック時代の作品が好きな方なら、是非ともライブラリにそろえておいて損はないと思います。



聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
モテット「主に向かいて新しい歌を歌え」BWV225
モテット「イエスよ、わが喜び」BWV227
モテット「恐るるなかれ、われ汝とともにあり」BWV228
モテット「み霊はわれらの弱きを助けたもう」BWV226
モテット「来ませ、イエスよ、来ませ」BWV229
モテット「主を頌めまつれ、もろもろの異邦人よ」BWV230
トン・コープマン指揮
オランダ室内合唱団
(DECCA eloquence 442 8590)



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