かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:マタチッチ/N響の第九

神奈川県立図書館所蔵CD、今回はN響の演奏と参りましょう。1966年にマタチッチがN響を指揮した第九です。

第九と言えば、特にN響の演奏でテレビやラジオにより全国に放送される楽曲で、そのためクラシックを知らない人でも旋律だけは知っているという人も多く見受けられる作品です。

毎年そうやって放送されている割には、あまりN響の第九がCDになることはありません。これにはいろんな理由がありますが、一つにはNHKにマスターテープが保存されていないケースがあります。この演奏は奇跡的に保存されていたものです。

この演奏がされた1966年、つまり昭和41年当時、日本は東京オリンピックから2年たった、高度経済成長期です。とは言え、ホールは決して十分なものがあったわけではありません。東京でクラシックの演奏会が開かれるホールと言えば、この当時は主に以下の3か所でした。

日比谷公会堂
杉並公会堂
東京厚生年金会館

あれ、NHKホールはないの?郵便貯金会館は?

NHKホールはありましたが、今のような立派なものではありませんでした。第九が演奏できるようになったのは今の2代目が竣工した昭和48年からです(基本的には第九の演奏ではなく紅白歌合戦の会場として重視したため)。

NHKホール
http://ja.wikipedia.org/wiki/NHK%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%AB

また、東京郵便貯金会館も1971年、つまり昭和46年の竣工です。

メルパルク東京
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%AF%E6%9D%B1%E4%BA%AC

ですから、この演奏が行われた当時は、第九を演奏できるホールはおのずと上記3か所に限られていたのです。

東京厚生年金会館
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%B9%B4%E9%87%91%E4%BC%9A%E9%A4%A8

ウィキの記述はこのホールが果たした役割までは触れていませんが、それは多くのクラシックの演奏会が開かれたのです。私は残念ながらクラシックの演奏会では足を運びませんでしたが、仕事で何度もここへは足を運び、そのホールの響きを席に座りながら実感したものです。いつかはここで音楽を聴いてみたいけれど、いまどきはここを使うようなことはないからなあと思っていましたら、2009年に閉館ということになりました。

恐らく、このホールが果たした役割を考えて、全国に「厚生年金会館」を年金保険料で建設していったのでしょう。それは一定の成果を上げましたが、やりすぎました。確かに、一つや二つならいいのですが、全国津々浦々となりますと、財務的にはそうロマンチックなものではなくなってしまいます・・・・・

私も仕事というのはまさしく、このホールの名前の通り年金の関係だったのですが、その時はすでに役割を終えていたホールでもあります。年金関係でしか使われないホールになっていました。

その意味では、この録音は高度経済成長期の日本の、芸術を支えた一つのホールの、一つの記録でもあるのです。

演奏はとても昭和40年代の演奏とは思えないような音響で、響き過ぎず響かさすぎず、各パートが浮き上がるような演奏となっています。この当時、すでに日本のオーケストラの中でもN響はある一定のレヴェルに達していた証拠の録音でもあります。アンサンブルも素晴らしく、若い人にはこれが今から40年以上も前の演奏なのかとびっくりされることでしょう。

特に第4楽章では熱い演奏が繰り広げられます。開始のティンパニ連打や、合唱団が入る部分で楽譜通りソプラノが入らない解釈などは実に名演であると思います。しかし、唯一の変態演奏部分がvor Gott!の部分でして、vorを一つと数えますと、わずか一拍ですが長くなっています。これにオケもさることながらよく合唱団がついて行っていると思います。しかも、息切れせずに。昭和41年ですよ!最後きちんと「しゃべっている」のも素晴らしい!その点で、N響よりもさらに合唱団を褒めなくてはならないでしょう。

この演奏は5つの団体が連合で合唱団を組織していますが、それが全くアンサンブルが乱れないのです。これぞ戦後を支えた日本人の心意気だと思います。マタチッチの人間性もさることながら、よく教育された意識の高い合唱団だからこそできる技だと思います。

私も呉越同舟の合唱団員として幾度も第九の演奏会に参加していますが、その時にやはり問題になるのはばらばらである各々の音楽性なのです。しかし、いい演奏をするにはやはり指揮者と同じ方向を向かなくてはなりません。それをオケ合わせだけでやってしまうのが日本の合唱団なのです。指揮者が何を要求し、それを実現するためには何が必要かをオケ合わせで判断して、合わせて行くのです。練習ではとりあえずの部分までしかやりませんが、しかしその取りあえずをまずしっかりとやっておいて、後は現場で指揮者が何を言っても合わせることができるように各自が「準備」をしておくことによって、それは実現されるのです。

戦後、廃墟の中から立ち上がり、復興を成し遂げ「第二の坂の上の雲」を登って行く「昭和の日本人」の心意気が詰まった、素晴らしい演奏です。



聴いている音源
ルートーヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱つき」
伊藤京子(ソプラノ)
荒道子(アルト)
森敏孝(テノール
大橋国一(バリトン
東京混声合唱団、二期会合唱団、日本合唱協会、藤原歌劇団合唱部、東京放送合唱団
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮
NHK交響楽団



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