かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:モーツァルト宗教音楽全集10

今回のマイ・コレはモーツァルトの宗教音楽全集の第10集です。第9集に引き続き小品が収められています。そのなかにはテ・デウムも含まれています。

え、テ・デウムって言ったらブルックナーじゃないの?っていう、ア・ナ・タ。テ・デウムは何もブルックナーの専売特許じゃありませんぜ。モーツァルトも作曲しています。

そもそも日本では、モーツァルトが宗教音楽を作曲したことが抹殺されているような雰囲気すらありますが、モーツァルトは実に様々な宗教音楽を作曲しています。そもそもザルツブルクという都市が宗教都市であるということも有りますし、またウィーンも宗教音楽が盛んな土地でありました。

そして、モーツァルトが生きた時代も、まだ宗教が大きな権威を持っている時代でした。それゆえに、宗教音楽は当時の作曲家にとって一つのステイタスだったのです。

神童と言われたモーツァルトだからこそ、宗教音楽の依頼は当然舞い込んでくると言っていいでしょう。しかし若造にいきなり大作を任せるということはしません。すでにハイドンという大家がいました。だからこそモーツァルトは小品から始めたのです。その実績を買われて、ミサ曲の作曲へと至るわけなのです。

実はウィーン時代のミサ曲はレクイエムを含め2作しか伝わっていませんが、断片は幾つか伝わっていまして、第9集にも収められています。その理由は、教会音楽を書くことによるステイタスを得ることだったのです(実際、彼はレクイエムを作曲する直前に聖シュテファン教会の無給の楽長代理に就任しています)。

翻って、ベートーヴェンはそういった役職についていません。それは彼の創造性と相いれないように時代が変化していたためで、それはそれでベートーヴェンの作品のひとつの特徴となっています。だからと言って、モーツァルトベートーヴェンに比べくだらないのかと言えばそうではありません。実際、モーツァルトの宗教音楽は世俗性も持ち合わせています。それが当時好まれた音楽だったからです。その時代性がなかったら、実はベートーヴェンの時代もやってきてはいません。

それを感じることが出来るのが、まさしくモーツァルトの宗教音楽なのです。だからこそ、ヨーロッパではモーツァルトの宗教音楽が重要視されるのです。そこが日本とヨーロッパとの違いかと思います。

ですから、モーツァルトがテ・デウムを作曲していたと言えば驚かれるわけですし、実際私もこの全集を買った時には同じように驚いたものです。それはまさしく、日本が宗教音楽に対してあまり関心がない証拠でもあります。

それは日本の社会や歴史も関係しているので一概に変だとは言えませんが、しかしながらそういった日本人の「聴き方」は必ずしも欧米で称賛されるわけではないということだけは、知っておいて損はないと思います。なぜ有力なアーティストが海外へ流出するのかを考えるときには、この問題は実は避けて通れないと私は思っています。その温度差こそ、日本と欧米の聴衆の差だからです。

アーノンクールのこの全集を聴くというのは、モーツァルトのそういった苦労を知ることでもあり、そしてクラシックの歴史に触れることでもあるのです。こういった全集があまり評価されていないことが、有名曲偏重という日本の実態へとつながり、その結果クラシック国内盤が売れないという事態を招いているような気がします。他のジャンルに比べはるかにDLする人たちが少ないのにもかかわらず、です。

その意味では、神奈川県立図書館がこの全集を保有しているというのは、実に素晴らしいことだと思います。もし事前に知っていれば、私はもしかすると買わなかったかもしれません。しかし、今では買って置いてよかったなと思います。だからこそわかる情報もあります(借りるだけでは読むだけになる情報が、手元でいつでも参照できるという、ネットの情報と同じ「ホットさ」というほうがいいかもしれません)。

例えば、アーノンクールがどういった考えでこの全集を捉えているかや、他の学者がどう見ているかなど、実に借りるだけでは知り得ない情報が詰まっています。

この第10集に収めれている曲も、そういった観点から俯瞰しますと実にいろんなことが見えてきます。特に、モーツァルトがいかに人生において宗教音楽を大切にしていたかです。なぜかは申し上げた通りステイタスですし、さらにはそれが時代精神であったからです。それをしっかりと教えてくれます。



聴いているCD
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト作曲
オフェルトリウム ニ長調K.260(248a)「来たれ、もろもろの民よ」
レジナ・チェリ ハ長調K.108(74b)
グラドゥアーレ ヘ長調K.273(主の御母なる聖マリアよ」
オフェルトリウム ヘ長調K.198(K3=158b/K6=Anh.C3.08)「主の御保護のもとに」
タントゥム・エルゴ ニ長調K.197(K3=Anh.186e/K6=Anh.C3.05)
女王、童貞聖マリアのためのリタニア 変ロ長調K.109(74e)
オフェルトリウム ハ長調K.117(66a)「主はほめたたえられよ」
オフェルトリウム ト長調K.72(74f)「女から生まれた人の中で」
オフェルトリウム ヘ長調K.277(272a)「うるわしの創造主なる神の聖母」
レチタティーヴォとアリア ト長調K.143(73a)「それ故に大切なことは・・・高きを求め」
テ・デウム ハ長調K.141(66b)
バーバラ・ボニーシャルロッテ・マルジオーノ、エヴァ・マイ(ソプラノ)
エリーザベト・フォン・マグヌス(アルト)
クルト・アツェスベルガー、ウーヴェ・ハイルマン、クリストフ・プレガルディエン、デオン・ファン・デル・ワルト(テノール
ジル・カシュマイユ(バス)
アーノルト・シェーンベルク合唱団(合唱指揮:エルヴィン・オルトナー)
ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
(Teldec WPCS-6491)


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地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。