かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:モーツァルト 宗教音楽全集1

マイ・コレクションのコーナーは、今回から13回にわたってモーツァルトの宗教音楽全集を取り上げます。

この全集はニコラウス・アーノンクールが指揮だけではなく監修までしているもので、学術的な価値も高いものです。そのせいか、この全集は神奈川県立図書館にも所蔵されています。

ちょうどこの全集を買った時、合唱団でいろんなモーツァルトの合唱曲を歌うことになるのだろうなと思い、レファレンスとして買い求めたものです。実際簡単な説明もついていますし、何よりも助かるのは、これが国内盤であるがゆえに、歌詞の日本語訳が載っているという点だったのです。

この全集は私が持っているCDの中でも一番値段が高いものであり、当時27000円程度しました。当然毎月の給料では手が出ず、ボーナスで買ったものです。

モーツァルトの宗教曲を語ったり聴いたりするときは、モーツァルト事典およびこの全集を参照するのが常となっています。

その第1集はドミニクス・ミサとヴェスペレK.321の2曲です。

ドミニクス・ミサについては以前モーツァルトのミサ曲を取り上げた時にエントリを立てています。

モーツァルト ミサ曲ハ長調K.66「ドミーニクス・ミサ」
http://yaplog.jp/yk6974/archive/173

ミサ、つまり「ミサ・ソレムニス」であるわけので規模の大きい曲です。この演奏でも30数分かかっています。細かく細部が分かれており、実用的なミサ曲であることも特徴です。

このミサを、アーノンクールはあまり残響が大きくないホールで演奏しています。教会と言いますと残響が長いというイメージを持つ方も多いかと思いますが、教会だからと言って必ずしも残響が長いということはありません。ヨーロッパでも地方の教会は短いことも有ります。このCDではドミニクス・ミサがカジノ、ヴェスペレが教会で収録されています。

特にこの全集ではミサ曲がカジノで収録されているという点が大きな特徴です。カジノはモーツァルトの時代集会場のようなものであり、そこでたまたま賭博も行われていたということなので決して賭場ではありません。ミサ曲の初演は決してカジノではありませんでしたがモーツァルトのクラヴィーア協奏曲の多くは実はカジノで初演というものが多いのです。そういった考証を踏まえた演奏であることは事実なのです。

この演奏ではカジノでの演奏が、曲の細部、とくに通奏低音であるオルガンの動きがはっきりと聴こえる演奏になっています。まさしく、ミサ曲は宗教曲であるということを「教会以外の場所」で収録することで主張しています。

一方のヴェスペレは、教会の残響が長いのを生かした演奏です。そもそも、この演奏ではアンティフォナが収録されている点が注目で、本来はミサ曲だけでなくこういった聖歌あるいは聖句が宗教曲には挟まれることが多いのです。

アンティフォナ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%8A

そもそもがヴェスペレ自体、聖歌を集めたもので、日本語訳として「晩課」とされています。つまり、夕方から夜にかけて教会で行われる儀式のための曲で、通常は聖歌から5つと新約聖書ルカ伝から「マニフィカート」が組み合わされます。このK.321は主日のためと書かれていますが、実際に使われている聖歌は主日のためのものではなく、このK.321に関しては司教ではない証聖者、つまり男性聖人のための晩課のための音楽ということになります。

この全集では基本的にアンティフォナに聖歌がはさまるように歌われる形で演奏されてます。できればミサ曲もそれを徹底してほしいところではあるんですが、アーノンクールがこの全集で目指したものは、ピリオド楽器による現代的な演奏であって、単にその当時を再現することではないので、無理な話なのかもしれません。その点では、以前取り上げましたペーター・ノイマンのほうが忠実なのですね。まあ、アマチュア合唱団がやる場合、どこまで当時を再現するべきかは議論が分かれるところなので、このアーノンクールのアプローチはとても実用的な面を重視しているとも言えるかと思います。

とはいえ、ヴェスペレに関してはとてもアマチュア向けとは言えず、むしろプロの演奏、あるいは学術的なものに偏っています。それはおそらくヴェスペレを当時に即した形でなかなか演奏されていないことが理由なのではと思います。

しかしながら、ヴェスペレはとても美しく構成も素晴らしい曲でして、アンティフォナを抜いてもきちんと各楽章の流れに無理がなく、それがモーツァルトの作曲の素晴らしさでもあるかと思います。おそらく、モーツァルトは儀式全体を俯瞰して作曲をしているはずで、その意識がないと音楽はそれぞれ単に独立したものとなってしまいます。それが連続性を持つからこそ、個々だけでなく全体としても素晴らしい作品なのだと思います。

それをむしろ言いたいがために、アンティフォナを入れたのかとも思えるような演奏です。



聴いているCD
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト作曲
ミサ曲ハ長調K.66「ドミニクス・ミサ」
主日のための晩課ハ長調K.321
シャルロッテ・マルジオーノ(ソプラノ、K.66)
バーバラ・ボニー(ソプラノ、K.321)
エリザベート・フォン・マグヌス(アルト)
ウーヴェ・ハイルマン(テノール
ジル・カシュマイユ(バス)
アーノルト・シェーンベルク合唱団
ウィーン王宮礼拝堂合唱隊(アンティフォナ
ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
(テルデック WPCS-6482)



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