かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:BCJ バッハ カンタータ全曲演奏シリーズ7

今回のマイ・コレは、BCJのバッハカンタータ全曲演奏シリーズの第7集です。この第7集は結構面白いカンタータが目白押しです。

基本的には1714年前後、ヴァイマールで作曲された作品になるのですが、4曲収録されていますがそのうち3曲がクリスマス用となっているのも面白い点です。

まず、第63番「キリストの徒(ともがら)よ、この日を彫(え)り刻め」です。1714年12月25日にヴァイマールで初演された、まさしくクリスマス用のカンタータです。その後この曲は1723年のクリスマスに再演され、さらに1729年以降にも再演されたと言われています。

冒頭合唱は「この日を彫り刻め」という部分に長音を使用して、生誕の日を賛美しています。こういったことが分かりますとこの部分がなぜ「伸ばされているのか」がよくわかります。こういったことはその後確実に後世の作曲家に受けつがれていまして、たとえば第九の「天使ケルビムは神の御前に立つ」の部分の「vor Gott!」がなぜ全音符なのかということも理解できるようになります。

この印象的な冒頭合唱で聴き手の心をつかむと、その後音楽は淡々と過ぎていくのですが聴き手を飽きさせません。ぐいぐいと引き込んでいきます。

構成的には、このカンタータはまずハ長調の合唱で始まり、ハ長調のコラールで終わります。それだけではありません。この曲は今「今月のお買いもの」で取り上げている作品に出てくる「シンメトリー」の構造をもちます。つまり、中心となる曲があって、それが対称するという形ですね。バッハはそれをこのクリスマス用の楽曲で用いています。つまり、この構造はバッハにとって意味のあるものであったということがよくわかります。

最初の調で最後も終わるというのは実はバッハのカンタータにおいてはメジャーではありません。必ずしもそうではない場合も多いのです。でも、この曲がシンメトリー構造を持つことから、バッハは敢えて、同じ調性にしたと言えるかと思います。そのことがクリスマスという「生誕」の日をさらに意味のあるものにしています。

次は第61番「来たれ、異邦人の救い主よ」です。1714年12月2日ヴァイマールで初演されたカンタータです。これもライプツィヒ時代に一度再演されており(1723年11月28日と言われています)、それを受けて新たに全く同じ題名のカンタータを作曲しています(第62番)。ですので、このカンタータはつとに有名なものでもあります。そもそも、この題名のコラールが特に有名です。そちらで名前を知っているという方ももしかするといらっしゃるかもしれません。

この曲の特徴は物語となっているという点です。まず、第1曲目は合唱による序曲となっています。注目すべき点はフランス風序曲カンタータを入れるという斬新さと、それが序曲であるがゆえに救い主の登場を待ちわびるという意味を持っていることです。序曲は当時、王の到着を待つ間に演奏されるものでした。それを転じさせて、救い主の登場を待つという意味を持たせたのです。

同じ意味を持たせているのが第4曲で、弦楽器のピチカートで始まりますが、これは救い主が戸を叩く音を表現しているのです。ここはバスのレチタティーヴォですが、そのバスはイエスを意味していますので、ここではイエスが救い主となって戸を叩いていることを表現しているのです。そう、救い主がやって来たのです!

で、その年のクリスマス当日に演奏されたのが、第63番だったというわけです。この二つは相関関係にあるのです。

それにしてもこの曲も冒頭合唱はかなり力を入れて作曲したらしく、途中早いパッセージに遅いパッセージが重複する部分があるのです。これは通常演奏しにくいはずなのですが、BCJはいとも簡単にやり遂げています。

第3曲目は第132番「道を備え、大路をなおくせよ」です。これもクリスマスシーズン用なのですが1715年12月22日の初演になります。この曲のテーマは主の道を自己の内面に備えよというものです。そんなテーマなのになぜクリスマスシーズン用なのだと言いますと、冒頭合唱がシシリアーノのパストラーレだからなのです。

これはバロック期においてはクリスマスの到来を意味します。つまり、生誕節がやってきますので、己の道を見つめなおしましょうねということを歌い上げているわけなのです。それをここではソプラノの美しい旋律で始めています。まるで「きちんとしましょうね」と母親にささやかれているような感じですね。6曲から構成される20分程度の曲ですが、とてもインパクトがあります。

最後第4曲目は第172番「歌よ、響け」です。1714年5月20日にヴァイマールで初演されたカンタータです。ここまでクリスマスだったのに、ここでいきなり五月になりました。その後もわかっているだけで2度、可能性があるものも含めれば4度再演されている曲ですが、わかっているだけのもいずれも5月に演奏されていますので、明らかに上3曲とは用途が違うものになります。でも、その用途は「聖霊降臨節」用なのです。

ペンテコステ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%86%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%86

復活の後に聖霊が降臨したということを祝うこの行事は、キリスト教のコアな部分でもあるわけで、つまりこのCDはキリストの誕生から復活までの曲を取り上げているというテクストになっているわけなのですね。

この曲も冒頭合唱はハ長調となっています。それだけにこの曲、あるいはこの「行事」がいかに聖なるものなのかが分かります。さらに器楽編成も重厚なものになっていまして、この行事がどれだけキリスト教徒にとって重要なものなのかを教えてくれます。ティンパニやトランペットが使われていることからも、その重厚さがうかがえましょう。

演奏面では、ソプラノが素晴らしいです。それまである意味高音部では硬い感じも受けたソプラノですが、このCDではイングリット・シュミットヒューゼンが担当していまして、その硬軟併せ持つ表現力の豊かさは、この祝祭感あふれる楽曲をさらに引き立てています。そこに寄り添う合唱の、同様にやわらかくかつ力強さも兼ね備える歌唱は素晴らしいものがあります。

器楽もその一糸乱れぬ演奏でしっかりとサポートしています。この器楽と声楽のバランスのよさが、BCJの魅力でもあります。



聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第63番「キリストの徒(ともがら)よ、この日を彫(え)り刻め」BWV63
カンタータ第61番「来たれ、異邦人の救い主よ」BWV61
カンタータ第132番「道を備え、大路をなおくせよ」BWV132
カンタータ第172番「歌よ、響け」BWV172
イングリット・シュミットヒューゼン(ソプラノ)
米良美一カウンターテナー
桜田亮(テノール
ペーター・コーイ(バス)
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
(BIS CD-881)



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