かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:BCJ バッハカンタータ全曲演奏シリーズ15

今回のマイ・コレは久しぶりにバッハのカンタータです。BCJのバッハ教会カンタータ全曲演奏シリーズの第15集です。収録されているのは第40番、第60番、第70番、第90番の4曲です。

これはちょうど、1723年の年末に初演されたものが並んでいます。教会歴では複数年に渡るものなのですが、このアルバムではひとくくりで扱われています。

今回は1曲ずつではなく、少しまとめた言い方をしましょう。幸いに、なんでそういった編集になっているのかが、日本語解説が入っているので、助かります。それを読んでみますと・・・・・

以前から、私はバッハはとても忙しい中で創作をし、それゆえに使いまわしもしていると述べていますが、実はそれがはっきりと見て取れるのがこの4曲が作曲された時期なのです。40番、60番、70番は1723年11月7日、14、21日に初演され、第90番が12月26日です。その間、約3週間空いています。実はその時期に、バッハはヴァイマール時代の作品をトーマス教会で演奏しているのです。

もっと言えば、23年11月23日用の第70番は、そもそもヴァイマール時代の作品に手を入れたものです。では、なんでこういったことをするのかといえば、作曲の時間をとるため、なのです。それを聴き手に認識してほしいがため、あえて飛んでいる作品をひとまとめにした、というわけです。

私たちは、仕事をするうえで段取りって考えますよね?仕事は段取り八分であるという言い方は、よくなされることだと思います。バッハはまさしく「段取り八分」ということを認識しながら仕事をした人であったということが、この4曲が作曲された時期を見ますとはっきりするわけなのです。

この翌年にはヨハネ受難曲が作曲され、とても忙しい時期をバッハは迎えています。それでも、この時期の作品はとても生き生きとしています。4曲すべてが決して重々しくなく、むしろ爽快感さえ感じるような作品です。第40番冒頭ではホルンが荘厳と鳴り響き、第60番冒頭では軽い足取りにフーガでもってコラールが歌われるという構造など、内部にも目を瞠るものばかりです。

そういった充実した作品をいくらなんでも、時間がない中生み出すためには、時間の生み出し方を工夫するしかありません。そのためにとった方法が、つかいまわしだったのです。使いまわす一方、それは新たな創作への充電期間でもある、というわけです。それは現代を生きる私たちへ、時間をどう使うのかという問いかけにもなっているのです。

これは古典派にも受け継がれ、ベートーヴェンですらやっている方法です。その後ややすたれますが、後期ロマン派、それもドビュッシーなどの象徴主義の作曲家の時代に至って再び復活します。この時期はバロックが見直された時期でもあり(ラモーを参考にした作品がドビュッシーの作品にあります)、その点からもバロックの作曲の仕方が見直された時期でした。

バッハを聴くというのは決して宗教的なことだけではありません。全くの異教徒であっても、参考にできることは山ほどあるのです。宗教とは関係ない、仕事の段取りという点で、現代日本人が参考にできる点はたくさんあります。

こうバッハの作曲を見ていると、生産性ということを考えざるを得ません。バッハはそもそもトーマスカントル、つまりトーマス教会の音楽監督であり、オルガニストです。毎日曜日、必ずカンタータを演奏し、なるべく多くの新作を世に出す責務がありました。そのために時間をどう生み出すのかが仕事人バッハに課せられた命題でもありました。その生産性を上げるために取った方法が、古いテクストを新しく作り替えるという「使いまわし」という方法だったのです。

その結果が、1723年年末から1724年正月に生み出された傑作へとつながっています。エントリを立てるに当たり、これが解説に書いてあったとは!と自分自身驚きを禁じ得ません。なぜなら、このCDを購入した時期私は家族と合唱団とのはざまにあって、時間を生み出すという点でとても悩んでいた時期だったからです。

でも、それは本当に必死に悩んでいたのかと、今では自問自答しています。なぜなら、もし必死であれば、この解説にはっとして、時間の有効活用というものをもっと考えたはずだからです。しかし、この解説の記憶が全くありません・・・・・それははっきりと、私自身が本気で必死になって出口をさがそうとしていなかったことを意味します。

バッハのカンタータはいわば啓示であり、象徴であり、レトリックです。当時まだ私は、バッハの音楽の本質を理解していなかったのだなあと、反省するばかりです。



聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第40番「神の子が現われたのは」BWV40
カンタータ第60番「おお、永遠、汝、雷の言葉よ」BWV60
カンタータ第70番「目覚めよ、祈れ、祈れ、目覚めよ」BWV70
カンタータ第90番「おぞましい最期がおまえ達をひきさらう」BWV90
野々下由香里(ソプラノ)
ロビン・ブレイズ(アルト)
ゲルト・テュルクテノール
ペーター・コーイ(バス)
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
(キングレコード KKCC-2325)



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