今回のマイ・コレは、ナクソスの「バトル・ミュージック」です。もちろん、戦争に関する曲を集めた曲です。
これこそ、国内盤ではまず出ない一枚でしょう。しかし、買った理由は特段戦争に興味があったからということでもなく、むしろ1曲目がベートーヴェンのウェリントンの勝利だったから、なのです。
以前、この曲に関しましてはご紹介しました。
マイ・コレクション:カラヤンが振るベートーヴェンの政治色濃い作品群
http://yaplog.jp/yk6974/archive/508
この時にはあまり言及しませんでしたが、このエントリでご紹介した録音を買った時には、やはりアナログ録音のダイナミックレンジの狭さが気になってしまったのです。それゆえ、デジタル録音のものがほしかった故、このナクソスのものを買い求めたというわけなのです。
そして、どちらが良かったかと言えば・・・・・残念ながらこの演奏ではなく、以前エントリであげたカラヤンのものだったのです。ここで本当にカラヤンという指揮者のすごさを見せつけられたのです。
オケの演奏は実はそれほど悪くはありません。しかし、やはり本物の空砲を使っているベルリン・フィルにはかないません(この演奏では大砲はティンパニで、小銃は恐らくギロで代用)。アンサンブルもベルリン・フィル絶頂期ですし、いくらこの演奏がいいとはいえ、評価は低くなってしまいます。
次の曲である同じベートーヴェンの軍楽のための行進曲も上記エントリでご紹介していますが、こちらも若干ですがそのエントリであげた演奏のほうが生き生きとしている点で優れています。やはりベルリン・フィルは偉大なり・・・・・
さて、この次からがこのCDの本当の評価だと実は私は思っているのです。
3曲目はリストの「ハンガリー突撃行進曲」。リストと言いますと「突撃」を抜かした「ハンガリー行進曲」のほうが有名なのですが、あまのじゃくな私は「突撃」のほうを選んでしまったのですね、これが。しかしそれがまたいいのです。リストと言いますとピアノのイメージが強い作曲家ですが、同時に交響詩を生み出した管弦楽作曲家としても有名です。その側面をこの曲と続く「フン族の戦争」ほど如実に表している作品はありません。
「ハンガリー突撃行進曲」はもともと1843年にピアノ曲として作曲されましたが、1875年に管弦楽へと編曲されました(日本語ウィキでは1857年となっていますが、さてどちらが正しいのでしょう?わたしは一応ナクソス英語解説を採用しました)。ツィンバロンが出てくるなど、とても民族色が濃い作品です。ツィンバロンが出てくる作品と言えば一番有名なのはコダーイの「孔雀」ですが、このリストのほうがより民族色が色濃く反映されています。
つづく第4曲目の「フン族の戦争」は1857年に書かれた交響詩です。この時期、リストは交響詩をまとめて作曲しており、ちょうど交響詩が成立する時期に当たります。
交響詩
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E9%9F%BF%E8%A9%A9
それだけに今度は民族色というよりは、高揚感あふれるいっぽうロマンティックな部分が強調されています。それでもコラールが使われるなど民族主義に彩られていまして、こういった作品がその後のヨーロッパに与えた影響は大きなものがあります。
この2曲から、演奏はがらりと生き生きとしてきます。オケはチェコですので全く同じ国ではないのですが、やはり同じスラヴ民族ということもあるのでしょうか、ベートーヴェンでは見せない力強さと、のびやかな音が随所にみられます。
5曲目はイッポリトフ=イヴァノフの「グルジア戦争行進曲」です。この曲はもともと「イベリア」作品42の一部でして、同じナクソスから全曲が出ていましたが今では手に入りにくくなっています(廃盤になったようですね)。もともと彼はグルジアの出身ではないのですが、ペテルブルク音楽院卒業後新設されたグルジアの音楽院に移り、そこで作曲活動をしたことからグルジアを題材にした音楽が数多く残されています。
ミハイル・イッポリトフ=イワノフ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%83%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%88%E3%83%95%EF%BC%9D%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%83%8E%E3%83%95
この曲も実は好きな曲の一つで、全曲が聴きたいと思っていましたがどうやら廃盤っぽいですね・・・・・ほかの曲でしたらもしかすると手に入る可能性もあるかもしれません。
6曲目はそのイッポリトフ・イヴァノフの師であるリムスキー=コルサコフの「戦場のドドン王」です。リムスキー=コルサコフと言いますと「シェエラザード」やオペラで有名な作曲家ですが、実はこの曲も本来はオペラ「金鶏」の中の一曲で、このCDはさらにそのオペラを組曲にしたヴァージョンで演奏されています。ですので正確には組曲「金鶏」の一部ということになります。
金鶏
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E9%B6%8F
7曲目も同じリムスキー=コルサコフの「ケルシェネツの戦い」で、これも組曲「見えざる町キーテジと聖女フェヴローニャの物語」の一部で、そしてそれももともとは1907年に作曲されたオペラがもととなっています。ですのでこの2曲に関しましてはあまり勇壮なものは感じられず、むしろもっと幻想的で色彩感があふれる作品となっています。
これもこのオケがスラヴだからでしょうか、ベートーヴェンと比べますと生き生きとしていまして、この二つの曲の魅力を余すことなく表現しています。
8曲目はフォルクマンの序曲「リチャード三世」です。所謂「演奏会用序曲」でして、その音楽は絶対音楽となっていますのでむしろとても耳を傾けやすい広範な支持を得られそうな作品となっていますが、作曲家の知名度はいま一つです。
ローベルト・フォルクマン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%9E%E3%83%B3
恐らく管弦楽曲が少ないことと、その管弦楽曲のうち特に交響曲がブラームスの模範のように思われていることが原因なのでしょう。しかし本当にそうなのかは私も確かめていないので断言できません。少なくとも、この「リチャード三世」に関しては親交のあったシューマンでもなく、ブラームスでもない個性が光っています。むしろこのCDで収録されている国民楽派のほうに近い感覚が私にはあります。もともとピアノ曲が多いと言われていますから、そちらも聴きたい作曲家ですね。
しかしなぜこの曲が「バトル・ミュージック」なのかと言えば・・・・・
リチャード三世 (シェイクスピア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E4%B8%89%E4%B8%96_(%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%94%E3%82%A2)
上記ウィキの説明にある通り、この曲はシェークスピアの悲劇に基づくわけなのですが、時代は「薔薇戦争」の時代。リチャード三世はその渦中ボズワースの戦いで討たれてしまうのですね。
薔薇戦争
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%94%E8%96%87%E6%88%A6%E4%BA%89
ボズワースの戦い
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%BA%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%88%A6%E3%81%84
しかし、このCDの編集は面白いです。ベートーヴェンのウェリントンの勝利もイギリスとフランスの戦い、そしてこのリチャード三世も実はイギリス国内のようにみえて実はフランスも巻き込んだ内戦というよりもむしろ国家間の戦争に近いものなんですね。このあたりに私たち日本人では想像できない「陸続きのヨーロッパ」という現実が突きつけられます。
最後はチャイコフスキーの「ポルタヴァの戦い」です。これは1883年ごろ作曲された歌劇「マゼッパ」の一部ですが、その中に1812年でも出てくるロシア国歌が表現されているのが面白いですね。さて、チャイコフスキーはいったいどんな動機でこの曲を書いたのでしょう?着想のもとになったのはプーシキンの詩「ポルタ―ヴァ」ですが、その主人公であるイヴァン・マゼーパはロシアと戦って敗れた敗軍の将なのです。
イヴァン・マゼーパ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%BC%E3%83%BC%E3%83%91
編集方針としてはいろんな側面が見えてきますが、チャイコフスキー自身はいったいどうだったのでしょう?この時期ロシアはかなり自由な政策が行われていたのですが、実際このようなデリケートな問題まではどうだったのでしょう?興味は尽きません。
こんな点にも目を向けさせてくれるのも、輸入盤ならではの編集だと思います。
聴いているCD
バトル・ミュージック
オンドレイ・レナールド指揮
チェコスロヴァキア放送交響楽団(ブラティスラヴァ)
(Naxos 8.550230)
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