かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:日本の合唱名曲選から「土の歌」

今回のマイ・コレは、佐藤眞の作品集です。収録曲は、混声合唱とオーケストラのためのカンタータ「土の歌」と混声合唱のための組曲「若い合唱」です。

このCDを買ったのは十数年ほどまえになります。都心勤めの私が珍しく地元のCD店で見つけた一枚でして、迷うことなく買い求めました。なぜならば、収録曲の中に懐かしい曲が収録されていたからです。それは、「混声合唱とオーケストラのためのカンタータ『土の歌』」の最終楽章「大地讃頌」。

合唱コンクールで歌った経験がある方もいらっしゃると思います。実際、私も中学校の時の学内コンクールで歌った歌です。その曲にまさか社会人になって再び巡り合うとは・・・・・その機会が、川崎のアマチュア合唱団でした。第1回の定期演奏会ベートーヴェンの第九だったのですが、そのアンコールで歌ったのが、「大地讃頌」だったのです。

この大地讃頌がもともとオーケストラ伴奏であるということはその合唱団(宮前フィルハーモニー合唱団「飛翔」)で知りました。それもそのはず、ピアノ版を佐藤眞が作成するきっかけになった出来事をしてしまったのが、当時その合唱団の音楽監督だった守谷弘だったからです(ウィキペディア「楽曲をめぐるエピソード」の項二つ目)。この人に人生を狂わされました(爆)

まあ、そんなことは置いておいて。

この「土の歌」は、1962年に作曲されました。その年の宮中歌はじめのお題が「土」だったことがきっかけです。その背景には、やはりその曲が作曲された昭和30年代という「時期」が大きくかかわっています。

第五福竜丸。その名前をきいたことがある方も多いかと思います。ビキニ環礁で漁をしているときにアメリカの水爆実験で被ばくした船の名前です。核兵器反対の声がわきこっていた時期です。その一方で、国内では深刻な公害問題を抱えていました。経済成長を成し遂げるため仕方ないとはいえ、人の命もさることながら、私たちの国土が汚れていく・・・・・そのさまに多くの人が心を痛めていました。

この曲が作曲された背景には、そんな時代の状況があるということは、この曲を解き明かす重要なキーワードだと思いますし、なぜその年のお題が「土」だったのかも、理解できます。皇室の重要行事に「新嘗祭」があります。それをつかさどる陛下が、国土が公害や放射能によって汚されていくことに、黙っておられるはずがない・・・・・

つまり、この曲は一見しますと単なる核兵器廃絶を訴えているように見えて、実はもっと根源的な私たちの「国土」を護る・・・・・そんな意識の上で作曲されているのです。

私は作曲者と実は直接話をした経験があります。その時にも、この曲にはいろんな感情が詰まっていて、一言では言えないのだという趣旨の発言をされていたのを思い出します。単なる左翼的な作品と受け取ってしまうと、その本質を見誤ると私は思います。

それを端的に表しているのが、第1楽章「農夫と土」および第2楽章「祖国の土」であり、第5楽章「天地の怒り」と第6楽章「地上の祈り」です。第6楽章には多少反戦の意味も込められていますが、同時に当時の日本が未だ貧しく、国土の保全が最大の関心事であったということがストレートに反映されています。

ですので、ウィキペディアのこの説明には疑問を呈します。

第二楽章「祖国の土」
人は皆土に生まれ、土に還っていくという意味の詩。行進曲風。転調が多い。

どう考えても、歌詞からはそのような意味は取れません。行進曲風ではなく行進曲だったと思います。たしかこの楽章は二つ振りであり、4分の2拍子と記憶しています。まさしくマーチなのです。なぜマーチなのか。それはその楽章の歌詞にはっきりと謳われています。

「この土を護ろうよ」

その土にはいろんな意味が込められていまして、なんなる田畑ではありません。森林も含め、「国土」なのです。だからこそ、最終楽章「大地讃頌」の

恩寵の豊かな大地

われら人の子の

大地をほめよ

の歌詞になるわけなのです。しかも、この部分は二重フーガです。大地の恵みというだけではなく、文明の母体となった「国土」を護ることを歌い上げているのです。文明の危機・・・・・

次の曲「若い合唱」も時代を反映しています。日本が高度経済成長を遂げていくその気風を歌い上げているといってもいいでしょう。若者のエネルギッシュな活動を混声合唱曲にしたのがこの曲です。もっと言ってしまえば、当時はやっていた「歌声喫茶」に集った若者たちをうたいあげたものです。それもそのはず。昭和39年、東洋大学白山グリークラブが第1回定期演奏会で演奏するため、佐藤眞へ委嘱したものだからです。その事情故、詩は当時の東洋大学学長勝承夫氏が書いています。

ブックレットにはその勝氏が佐藤氏に語った言葉として、「若い心は充実したりニヒルになったりする・・・・」とあります。まさしくそのような若者の感情がストレートに歌われています。

とくに私が好きなのは、父はエンジニアだったこともありますが、第2曲目の「若い力」です。トランジスタラジオやYS-11、ホンダの小型車・・・・そんな若い日本がまさしく戦後の「坂の上の雲」を登っていく様子を表わしたかのような詩は、聴く者の心を打ちます。戦後日本の工業製品が、世界の文化を変えていったその原動力を、この詩に感じます。

戦後日本がとやかく批判されますが、この曲を聴きますと、その批判は果たして正しいのだろうかと、今でも私は感じます。

さて、演奏なのですが、正直言いますと特に土の歌ではオケと合唱が合わない部分がありますが、アンサンブルはさすがプロです。金管がもう少しきれいに響いていますと完璧だなあと思います。しかし秀逸なのは美しいその発音でして、特に濁音である「が」は、わたしたちは平べったくなってしまいますが、東京混声はそれをきちんと「鼻にかけて」発音しています。それは単に合唱特有の発声だからというわけではありません。特にアマチュアですが、現代の私たちは合唱でも濁音は平べったく発音しますが、戦前まではそれはきちんと鼻にかけて発音していたのです。それをきちんと行っているのは私が知る限り、東京混声合唱団だけです。

その点では、この演奏は名演と言えましょう。今活動しているアマチュア合唱団の実力であれば、この演奏を超える団体が出てきてもおかしくはないと思います。特に中大混声合唱団や東京アカデミー合唱団のレヴェルであれば・・・・・

発声さえきちんとしていれば、こえられるはずだと思います。ぜひとも、次代の日本のために・・・・・



聴いているCD
日本の合唱曲選・「土の歌・若い合唱」
佐藤眞作曲
混声合唱とオーケストラのためのカンタータ「土の歌」
混声合唱のための組曲「若い合唱」
田中瑤子(ピアノ、若い合唱)
岩城宏之(「土の歌」)、宮本昭嘉(「若い合唱」)指揮
東京交響楽団(土の歌)
東京混声合唱
(ビクター VDR-5083)



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