友人提供音源、今回はベートーヴェンツィクルスの最後第5集で、勿論、第九です。指揮はフランス・ブリュッヘン、オケは18世紀オーケストラです。
当時、実はすでに私は全く同じ組み合わせでCDを持っていました。フィリップスから出ていたもので、私が始めて古楽に触れた演奏でもありました。
ですから、当然聴き比べをしていますが、それはそのCDをご紹介するときにやりたいと思いますので、今回はこの演奏についてだけにしておきたいと思います。
全体的にテンポは古楽にありがちな速いものではありません。ゆったりでもないですが、それでも一つ一つ音を積み上げてゆく感じです。アンサンブルを重視し、アインザッツも雑ではありません。まあ、それでも一部崩れてはいますが、それはこれがライブであるということと無関係ではないでしょう。
第1楽章は彼くらいのテンポは実はクリュイタンスもベルリン・フィルでやっていますのであながち速いわけではないのですが、やっぱりそれでも気持ちが前のめりなせいなのか、ちょっとだけオケが走っているように思います。
でも、それで崩壊しかけたのはティンパニ連打の中間部だけなのですから、さすがプロです。まあ、本当はそこもきちんとやって欲しいところではあるんですけどね〜
第2楽章はやや遅めのテンポで入り、アンサンブルは完全復活します。繰り返しがきちんとあって、しかも中間部はテンポアップという私好みの構造ですが、これをやってくれるオケはなかなかないんですよね〜。確かに、それをやることが演奏において大事であるわけではないのですが、私としては好きなスウィトナーがやっているので、どうしてもそれにはこだわってしまいます。
第3楽章はやや速めのテンポで入りますが、アンサンブルはますます美しくなります。これが古楽?というほど甘美です。できれば、もっと遅いテンポで演奏して欲しかったところですが、おそらくそれは古楽ゆえ、なのでしょう。遅く振っているスウィトナーの方がヘンという話も・・・・・
でも、第2楽章ではゆったりめで入っていますし、そのあたりもう少し古楽的な感じを払拭して欲しかったとは思います。私が彼らの演奏を買ってからこのときですでに10年以上経っているのですから、古楽演奏のキャリアは充分積んできているはず、ですので。
第4楽章は冒頭かなり速いテンポではいり、アンサンブル無視という感じになってしまっています。ただ、それが緊張感をかなり高めていますので、おそらくわざとこのあたりかまわずやっているのだと思います。この部分はどのオケでも難しいですから、楽器を弾くわけではない私はこれ以上は何もいえないと思います。
歓喜の調べが4回繰返される部分は今度はそれほど速くはなく、どのCDでもありそうなテンポにしてだんだん盛り上がっていくさまを表現しています。そのためかアンサンブルも落ち着いたものになっています。ただ、古楽らしくフレーズの最後の音を小さくさっと切ってしまう必要はあるかなあとは思います。
合唱直前はふたたびものすごいテンポにもどりそのままバリトン・ソロへ突入します。バリトンもやや速め。でも、合唱団の「フロイデ」のデが小さくなるのは好感です。そうしませんと、「デ」だけ目立ってしまうんです。あくまでも、アクセントは「オイ」にありますから。合唱団は秀逸です。
「天使ケルビムは神の御前に立つ」の部分ではきちんとスタッカートを切っているのも好感できますし、この部分だけでも合唱団のレヴェルの高さを感じることができます。
ナポレオンマーチの部分も叫ぶことなくその上で堂々としています。こういう演奏を待っていた!という感じですね。
その後のオケだけの見せ所は今度はゆったり目。うんうん、古楽でもこういうテンポを待っていたよと思います。
そのあとのユニゾン。ここではブリュッヘンの第九ならではのシーンを聴き取ることが出来ます。それは、ドイツ語の発音が口語体であるということ。これ、なかなか日本の合唱団はやりたがらないんですよね。私も一度合唱団で提案したことがありますが、結局一度も採用されることはありませんでした。私が持っている中では、日本の合唱団ではたった一枚だけです。
いわゆる、erをエルと発音せず、アーと発音するもの。まあ、反対する理由もわからなくもありません。エルの発音であくまでもベートーヴェンはリズムを作っていますし、それは合唱団のみならず、当然のことながらオケもそのリズムで演奏しているわけですから。ですが、この演奏ではそんな差を感じません。
そのあとの「抱き会え、幾百万の人々よ」の部分、この男声合唱が秀逸です。決して叫びません。これも難しいんですね。オケもここは金管も加わっていますが、決して吼えているわけではありません。堂々とという感じですから、叫んではいけないのですが、アマチュアや日本人は叫びたがるんですね。それは間違いです、あくまでも。でも、ここはユニゾンの後でどうしても熱くなって叫びたくなってしまうんです。それは私もそうでしたのでよくわかります。
でも、楽譜には叫べ!と指示があるわけでは決してありません。この合唱団、やはりすばらしいです。ただ、力強さを欠いている部分はあり、それはいいのかな?と思います。
同じ歌詞の最後の部分は、私としましてはもっと「しゃっべて」欲しいところですが、レガートで処理しています。それでもこの合唱団のすばらしさを否定するには至りません。全体的に合唱が入ってからはゆったり目で演奏されていて、それがゆえにオケと合唱団のバランスが良いものになっています。そういう意味では、第4楽章に向かって高みへ登ってゆく、という解釈なのかも知れません。それはそれですばらしいと思います。
そう考えますと、ブリュッヘンがもともとリコーダー奏者であるということから、合唱重視の演奏だとも言えそうです。
改めて聴いてみますと、第4楽章はもうすばらしいの一言だろうと思いますが、他の楽章ではいろいろ意見が割れそうな気がする演奏です。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第9番ニ短調作品125「合唱つき」
フランス・ブリュッヘン指揮
18世紀オーケストラ
(友人提供のため非売品。なお、ソリストと合唱団は記載なし)