今回の友人提供音源は、ゲルギエフの指揮特集のものです。曲はオール・ロシアプログラムで、ムソルグスキーの禿山の一夜、チャイコフスキーの「ポーランド」、ストラヴィンスキーの「春の祭典」です。オケはウィーン・フィルとNHK交響楽団。
以前、この二つのオケがゲルギエフで競演したことがあったかと思いますが、そのときのFM放送をエアチェックしたものなのです。このときは私もとても興味があったので、即決で頼んだものです。
というのも、ゲルギエフの指揮には以前より注目しており、実際私もオール・ロシアプログラムでCDを買って持っています。それがとてもお気に入りだったことも頼んだ一因です。
どちらのオケでも手綱を引き締めていて、アンサンブルもアインザッツもすばらしく、その能力をフルに引き出しています。このあたりはゲルギエフはすばらしいですね。どんなオケでも、彼なら安心して聴いていられます。それが特にわかるのがN響との「ハルサイ」で、これって本当にN響?とびっくりするくらい上手なオケに変わっています。
まあ、もともとN響はアンサンブルはいいのですから、当たり前といえばそうかもしれませんが、一部の批判があるように下手な部分があるのも事実。でも、この演奏ではそんなものはどこへやらです。へえ〜、N響もなかなかやるなあと省みてしまうこと請け合いです。
それと、この音源をいただいた理由のもうひとつが、チャイコフスキーの「ポーランド」が入っているということ。つまり、前にも述べましたが、チャイコフスキーの交響曲を全曲欲しかった私はこれこそ欲しかったメインでした。これでチャイコフスキーの交響曲が全部そろった瞬間でした(その後、第2番は管理が悪くて廃棄せざるを得なかったので、その分を図書館で借りたことでもう一度そろえなおしました)。
この「ポーランド」は愛国心を感じる曲ですが、この手を振らせますとゲルギエフは天下一品ですね。まあ、彼自身とても愛国心が強い人で、ロシアのチェチェン侵攻の時にいち早くロシアを支持した人でもありますし、チェチェンがモスクワでテロを起こした時は怒りをあらわにした上、犠牲者の追悼コンサートを行うくらいですから。その分、ロシア政府中枢とのつながりもかなり深いと考えられる人でもあります。
ただ、それだけ愛国心があることがでは音楽でどれだけ効果をもたらすのかと考えた場合、私はちょっと彼に関しては疑問をもっています。あまりにも気持ちが入りすぎますと、音楽が重たくなってしまってつまらないものになる、という欠点を抱えています。いずれマイ・コレでご紹介しますが、1812年はそれがゆえに私はあまり好きではありません。デュトワの方が断然好きです。音楽を奏でるためには情熱だけではだめで、冷静さもどこかで必要だからです。
私も第九で何度も経験していますが、特にクラシックは熱くなる部分と冷静沈着な部分とが同居していないといい演奏はできないもので、ごくたまーにそれが崩れるのがゲルギエフの欠点です。ただ、それが彼の処世術かもしれませんし、個として確立されている部分かもしれませんから、仕方ないでしょう。そこでどこまで勝負するのかが明確ですし、それはそれでいいのだと思います。
その点では、ポーランドはまだ祖国ではない点が、彼を冷静沈着にさせているのでは?と思います。オケもウィーン・フィルですし、そのサポートもすばらしく、そんないい点がさまざまにちょうど重なり合った、「そのとき」が生んだ演奏だとおもいます。
聴いている音源
ムソルグスキー作曲
「禿山の一夜」
チャイコフスキー作曲
交響曲第3番「ポーランド」
ストラヴィンスキー作曲
「春の祭典」組曲
ヴァレリー・ゲルギエフ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(「禿山の一夜」・「ポーランド」)
NHK交響楽団(「春の祭典」)
※非売品