かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

友人提供音源:サリエリVSモーツァルト

今回の友人提供音源は、またしてもFM音源から、サリエリモーツァルトの競演です。指揮はニコラウス・アーノンクール、演奏はウィーン・コンツェントゥス・ムジクスで、いわゆるピリオドです。

この演奏のコンビは、私はモーツァルトの宗教音楽全集で持っていますが、実はこのCD-Rをいただくほうがタイミング的には早かったと記憶しています。実は、この音源をいただいたからこそ、私はアーノンクールモーツァルト宗教音楽全集を買ったと言っても過言ではありません。

なぜなら、さすがに当時モーツァルトまではピリオドで聴くというのはあまり好んでいなかったことと、すでにミサ曲のいくつかをモダンで持っていたということが理由です。そのことについては、別にマイ・コレで取上げたいと思います。

この音源はザルツブルグにおける国際モーツァルト週間で2002年に演奏されたものです。場所はモーツァルテウム。そこに、アーノンクールにコンツェントゥス・ムジクス・ヴィーンとくれば、この演奏は単にモーツァルトの時代の当時を再現するということに留まりません。それは、サリエリが同時に演奏されていることにヒントがあります。

モーツァルトは「劇場支配人」K.486.一方のサリエリは「はじめに音楽、次に言葉」です。実はこれ、1786年2月7日、シェーンブルン宮殿で行われた演奏会と全く同じ組み合わせなのです(東京書籍「モーツァルト事典」初版P.133)。これは劇場支配人の初演でもあり、この演奏はこのシェーンブルン宮殿の演奏会およびそれにおける劇場支配人の初演と、サリエリのオペラを再現する試みでもあるのです。いや、それこそが目的といってもいいでしょう。

演奏順はいただいた音源ではサリエリモーツァルトの順番なので、恐らくその順番で実際モーツァルテウムで演奏されたとおもいますが、実際にシェーンブルン宮殿で行われたときには逆で、モーツァルトが最初でサリエリがその次になっています。

これは、現在のサリエリモーツァルトの扱いが全く当時と真逆になっていることを示します。今の感覚であれば当然サリエリが前座でモーツァルトがメインになるはずです。ところが、演奏時間は圧倒的にサリエリが長く、モーツァルトの劇場支配人はその半分程度位しかありません。そのことから、当時なぜモーツァルトが先でサリエリが後だったか、容易に結論付けることができます。

つまり、モーツァルトこそ前座だったのです。メインは明らかにサリエリです。当時、サリエリのほうがいかに立場が上で、しかも人気が高かったかをうかがい知ることができます。

もちろん、モーツァルトに実力がなかったわけではありません。私は圧倒的にモーツァルトの劇場支配人の方が好きです。短い中にいろんなエッセンスを込めながら、完結にストーリーをまとめている点の構想力がすばらしいですし、また音楽自体も筋肉質で聴いていて小気味いいです。

一方のサリエリは、音楽自体は楽しいのですが、やはり少しだけ冗長な点は否めません。ただ、すばらしい音楽であることは間違いありません。そのあたり、当時の貴族が単に彼をその名声だけでメインに持ってきたわけでも、立場が上だからメインに持ってきたわけでもないことがわかります。

ただ、どちらを先に持ってくるか、つまり前座とするかは、やはり実績が物を言ったことは事実でしょう。モーツァルトは皇帝や貴族からしますとまだまだ若造、一方のサリエリはベテランだったわけです。だからこそ、この順番になってしまったということになろうかと思います。

アーノンクールはそんな時代の移り変わりですら、私たちに考えさせるような演奏を目指した、といえるかと思います。それがピリオドだからこそ、いっそうそ感じられるのです。これがモダンだったら、演奏はすばらしいかもしれませんが、そこまで考えたかはわかりません。

この演奏ではしっかりと、サリエリの音楽も捨てたものではないですよとさりげなく主張しているのですが、これがもしモダンだったら、サリエリもいいけど、やっぱりモーツァルトだねえで終わってしまって、聴衆の意識からはサリエリはなくなってしまっていたことでしょう。それが、ピリオドだからこそ、「モーツァルトがすばらしいのは勿論だけど、意外にサリエリもいいねえ」と残るわけです。

実際、この演奏を聴いて私はずっとサリエリの音楽を捜し求め続けているのです。まだ買い求めるところまでは実現できていませんが、いつかきっと手に入れたいと粘ろうと思っています。

こういう演奏に当たることも、クラシックを聴く一つの楽しみだと、私は思うのです。



聴いている音源
サリエリモーツァルト
※友人提供のCD-R、非売品