さて、今回からシリーズでモーツァルトのミサ曲を取上げます。彼は宗教曲もたくさん作曲していて、そのどれもすばらしいのですが、日本人にも理解しやすいミサ曲のほうがその魅力を語れるだろうと思い、ミサ曲に絞りました。
モーツァルトのミサ曲で有名な曲というのは、ある意味死者のための「レクイエム」くらいしかないといっていいくらいですが、他にもたくさん名曲を残しています。
そこで、これから1曲ずつ取上げてゆきたいと思っています。
モーツァルトの場合、ミサ曲に番号がついていません。ケッヘル番号だけです。そこで、一応新モーツァルト全集に基づき、作曲されたであろう順番でご紹介したいと思っています。
まず、今日取上げますのはK49です。これはモーツァルトがさっきょくした最初のミサ曲と言われています。約18分ほどで終わってしまう小さなミサ曲で、そのため「ブレヴィス(短い、略式のという意味)」という言葉がつきます。
実際に、構成的には対位法はあまり使われず、カノンの多用が目立ちます。その上、繰り返しが一切配されていて、すっきりとした構成になっています。実はそれはモーツァルトのミサ曲全体にいえることではあるんですが・・・・・
ただ、これがミサ・ブレヴィスならともかく、通常のミサ曲(ミサ・ソレムニスと言いますが、特にそういう指定がない限り、ミサ曲と呼びます)の場合はそうは行かないことが多いのです。
しかし、この曲ではミサ・ブレヴィスですので非常にすっきりとしています。あっという間に曲が終わってしまいます。
実は、このブログを書くにあたり、私は基本的に二つの音源を元にして書くつもりでいまして、それを聴きながら書いていますが、2つあわせても36分ほどで、え?もう終わったの?って感じです。
モーツァルトのミサ曲、いや宗教曲はそのほとんどがザルツブルクで書かれたものが多いのですが、このK.49と次の「孤児院ミサ」はウィーンでかかれたものです。といっても大人になってウィーンに出てからでは当然なく、彼がまだ幼いころヨーロッパ中を旅している時代にウィーンに行った、1768年の作曲です。
ミサ曲では通常管楽器を使いませんが、この曲ではトロンボーンが使われています。彼の時代にはそのあたりは厳密ではなかったようです。
また、幼い時代ゆえ、和音進行にまだぎこちない部分があり、ピアノ協奏曲でも述べた音の自然な流れがまだ足りません。それゆえ、未熟さと古めかしさを感じます。ただ、全体的に平明な感じが貫かれており、とてもさわやかな曲です。
ミサ曲といいますと、キリストを賛美する曲であり、その中心である「クレド」はキリストの磔刑を扱っていますが、その場面もそれほど深刻ではなく、美しさだけが残る曲です。
また、グローリアとクレドではそれぞれミサ通常文の最初の部分がソリストによって先行して語られてから合唱が始まります。これもルネサンスの影響を受けている構成で、祖いう意味でもまだ古めかしい部分があります。
聴いている音源ですが、これからも基本的に以下の音源を聴き比べながら書いてゆきます。
ペーター・ノイマン指揮、コレギウム・カルトゥジアムヌ、ケルン室内合唱団
ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス、アーノルト・シェーンベルク合唱団
この曲についてはほとんど違いがなく、どちらのそれほど奇異な解釈はしていません。テンポもゆったりとしていて、まるで天使の歌声です。
特にアーンクールはとても当時のウィーン的な解釈をする人なのですが、それがまったくないのです。具体的にいいますと、リタルダンドがないという点が挙げられますが、それも顕著ではありません。まあ、リタルダンドするだけのテンポの揺れもない曲ですが・・・・・
どちらも古楽、つまり時代楽器を使った演奏です。モーツァルトのミサ曲をモダンで全て演奏しているのは現時点ではなく、廃盤もしくは収録されたことがないとかんがえられます。ですので、基本的にピリオドがその当時の演奏を必ずしも反映していないと考えます私も、こればかりはピリオド楽器による演奏で考えたいと思います。
いずれ、モダンでの演奏を語るときが来ると思いますので、それはそのときまでのおたのしみ、ということでお願いいたします。