東京の図書館から、62回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、ヘルムート・リリンク指揮シュツットガルト・バッハ合奏団他によるバッハの教会カンタータ全集、今回は第4集を取り上げます。
年代順に収録されているこの全集、いよいよ本格的にヴァイマールでの作品が登場することになります。収録されているのは第182番、第12番、第172番の3曲。すべて1714年の成立で、第182番が聖母マリアの受胎告知の祝日用、第12番が復活最後の第3日曜日祝典用、第172番が降臨祭用となっています。
※上記3つのウィキペディアは全て英語版です。適宜日本語翻訳アプリなどで翻訳をお願いします。
この1714年という年は、バッハがヴァイマール宮廷楽団において楽長に就任した年でもあります。バッハのキャリアが順調に歩み始めた時期とも言えましょう。
第182番は、初演されたシュロス教会の構造を活かして、冒頭実際に王が登場するように作曲されていることから、この録音でもまるで何かが歩いてくるかのように演奏されています。ピリオドではないので跳ねるような感じはないですが、むしろモダン楽器でぴったりとも言えます。この辺りは、バッハが工夫を凝らしたところではないでしょうか。リリンクとすればここぞモダン楽器の面目躍如!と言ったところでしょう。さらには思い切った簡素化も・・・それでいて、壮麗さが失われないのはモダン楽器の特徴を生かしたものになっています。
第12番はキリスト教徒が引き受ける苦しみがテーマですが、それでも過度に重々しくは演奏せず、むしろそれは喜びをもって受け入れるべきという姿勢に立っています。むしろこの姿勢をモダン楽器で表現するのは相当大変だと思います。ここでも簡素化を持って表現しており、モダン楽器の性能をどのように使えばバッハのオリジナリティを尊重できるかを考え抜いたリリンクの姿勢が見て取れます。
第172番は降臨祭用ですので、かなり葬礼で盛大な音楽になっており、これもモダン楽器の面目躍如でしょう。ただし、そもそもはピリオド楽器で演奏されたことを考慮して、ここでもモダン楽器の能力を目いっぱい使うのではなく、多少控えめにしてモダン楽器だからこそ軽めの演奏で盛大さを表現する形です。この第12番と第172番のコントラストは、リリンクがモダン楽器を選択したが故の工夫が見て取れるところです。
特に今回、印象に残った演奏は第12番です。ともすれば重々しいテーマであり、いかにもキリスト教プロテスタントの姿勢という曲ですが、しかし強迫的でなくむしろ望ましい姿勢として描くところは、現代人リリンクだと思います。こういう点は現代のプロテスタントの政治家たちも考えてほしいところです。この第12番の本質は「粘り強さ」だと思うのです。とはいえ、苦しみの中にある人たちはそれだけ粘っているわけでもありますし。特にこのテーマがヴァイマール宮廷で演奏されているというのは、注目点だと思います。民衆に権力側が迫るのではなく、そもそも権力側が謙虚に粘り強くあり続けられるのか?と自らを問う姿勢であるという点も注目点だと思います。その精神をモダン楽器という、現代人が聴きなれたピッチで表現することの意味を、今こそ思い返すことが大事であろうと思います。
聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第182番「天の王よ、ようこそ来ませ」BWV182
カンタータ第12番「泣き、欺き、憂い、おそれ」BWV12
カンタータ第172番「響きわたれ、汝ら歌よ」BVWV172
エヴァ・チャボ、カトリン・グラーフ、ドリス・ゾッフェル、マグダレーネ・シュライバー、マリア・フリーゼンハウゼン(ソプラノ)
ヘルラン・ガルドワ、ハンナ・シュヴァルツ、マルグレット・イェッター、ガブリエーレ・シュナウト、ヒルデガルト・ラウリッヒ、ドリス・ゾッフェル、ヘレン・ワッツ(アルト)
アルド・バルディン、アダルベルト・クラウス、アレクサンダー・ゼンガ―、ペーター・マウス(テノール)
ヴォルフガング・シェーネ、二クラウス・テューラー、ハンス=フリードリヒ・クンツ、フィリップ・フォッテンロッハー(バス)
ゲッヒンゲン聖歌隊
フランクフルト聖歌隊
ヘルムート・リリンク指揮
シュトゥットガルト・バッハ合奏団
ヴュルッテンベルク室内管弦楽団
地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。