かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:タッシェン・フィルハーモニーによるベートーヴェン交響曲全集4

今月のお買いもの、令和2年7月に購入したものをご紹介しています。シリーズで取り上げているタッシェンフィルハーモニーによるベートーヴェン交響曲全集の第4回です。

今回は第6番「田園」を取り上げるのですが、いきなり冒頭からちょっと聞きなれないサウンドなのですが、かといって何か指揮者シュタンゲルが編曲したように聴こえます。しかし、ほかの演奏をよく聴いてみると、しっかりその和声は入っていることに気づきます。

編曲っちゃあ編曲だとは思いますが、シュタンゲルの編曲は、「取捨選択」であることが、この「田園」ではっきりとわかるんです。決してリストのように「聴こえるように音符を変える」という「トランスクリプション」ではありません。ここに、シュタンゲルとタッシェンフィルハーモニーの誠実さが見えてきます。

その、一見すると物足りないように聴こえる編曲は、少なくとも元の音を変えているわけではないので、全く気にならないのです。むしろ、少ない楽器によるしっかりとしたアンサンブルを紡ぎたいという団員の熱意すら伝わってきて、こみあがってくるものすらあります。

こういう演奏、いいですね~。リズムも最高だし、ベートーヴェンが楽譜に込めた「想い」が、演奏家たちを通じて伝わってくるようにすら感じます。

「田園」作曲当時のベートーヴェンは、あの「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた直後です。いくつか伝わるエピソードを総合すれば、つい心に嵐が吹きすさぶベートーヴェンを慰めたものの一つが、牧歌的な風景であったとはいえるでしょう。精神医療が静かな場所を選ぶのは一つには世間の偏見がありますが、一方で静かな環境も必要だからである点にあります。

ベートーヴェンを支えたもの、それは仲間とこの「静かな環境」だったといえるでしょう。実際にウィーンがフランス軍に包囲され、占領された時、ベートーヴェンの心には嵐が吹きすさんでいたことがわかるエピソードには困らないくらいです。しかもその「嵐」は結局、甥カールを自殺にまで追い込むわけなので、かつて対人援助職だった私からすれば、ナポレオンと周辺諸国との戦いが、ベートーヴェンの魂をいかにむしばんでいったのかは経験的に理解できます。

だからこそ、美しい牧歌的な風景は、ベートーヴェンにとって何よりの題材で、賛美する対象だったと言えます。だからこそ、「田園」は誕生したと言えるわけなのですが、そこの理解とリスペクトが、この演奏には詰まっているんです。だからこそ、編成的に室内楽に管楽器と打楽器が入っただけに近い編成という、かなり小さな編成であるにも関わらず、まるでベートーヴェンの「魂」が伝わってくるかのような演奏になるのだろうと思います。

こういう演奏を新型コロナウイルス感染拡大というときに出会えたのは、本当に不思議な縁だと思います。

 


聴いているハイレゾ
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」
ペーター・シュタンゲル指揮
タッシェンフィルハーモニー
(Naxos Edition Taschenphilharmonie)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。