かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:宮崎育ちのオルガン ~J.S.バッハの音楽と~

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回は宮崎にあるオルガンでバッハの作品を演奏したアルバムをご紹介します。

このCDを棚で見つけたとき、珍しさと収録場所に興味を持ったものでした。ルーテル宮崎教会・・・・・地方であることと、そしてルーテル教会での収録、ということです。

どうしても、バッハの作品の収録となれば、日本では大都市でということになります。代表的には東京と大阪です。しかし、今回宮崎です。一見するとクラシック音楽とは無縁なようにすら思いますが、それがルーテル教会となると、話は違ってくるでしょう。

ルーテル、つまりはルターです。プロテスタントという宗派を命がけで立ち上げた人です。その宗派のためにカンタータを書いたのが、バッハです。つまり、カンタータとはプロテスタントのための歌、です。

ですから、ルーテル教会で、というのに惹かれ、このCDを借りたのでした。たとえ仏教徒だとしても、この演奏を聴くことは、東大大仏殿においてかつて大仏開眼会でつかわれた楽器を復元して演奏することとなんら変わりはありません。宗教が違うだけ、です。

収録されている楽曲はほとんどが聞いたことのあるものばかり。しかしその作品を「ルーテル教会」で聴いてみれば、旋律は一緒かもしれませんが、その響きや、タッチからくるサウンドは違って聴こえるから不思議です。

おそらく、東大寺大仏開眼会でも、同じだったことでしょう。いつもの楽曲が、大仏(廬舎那仏、密教以降の大日如来に相当)の前では、荘厳さと緊張感が加わったことでしょう。

第2曲目のコラール「おお神よ、誠実な神よ」によるパルティ―タBWV767には、途中コラール歌詞の朗読がありますが、これが本来だったのだとわかりますと、なるほど、変奏という意味が理解できるようにも思うのです。変奏は単に彩りを替えていくだけではなく、そもそもは一つ一つのセンテンスだったのだということがわかります。確かに、ベートーヴェンの時代もロマン派と重なる時代は、センテンスというよりは文節のようになり、つながっていますが、バッハは分解できるのはそのせいなんだな、と。

そして、バッハのものでも分解できないものは、それだけ先進性のある作品なのだということも浮かび上がります。そうなると、私たちの「バッハ=古風 ベートーヴェン=先進」という考え方は、果たして正しいのだろうかとも思うのです。

ルーテル宮崎教会さんはウェブページをもっていらして、それを見てみますと、聖堂はそれほど大きくはなく、そこにオルガンが置かれているということに気づきます。そうなると、オルガンは場合によっては巨大音としてその場を包み込みます。その代表例が幻想曲とフーガ ト短調BWV542です。だからと言って決してタッチはきついものではなくむしろのびのびとした部分すらあります。

www.miyazaki-jelc.org

オルガンはベルンハルト・H・エツケスの手によるもの。それを日本人が大切に引き継いできました。ドイツの教会などでは当たり前のことではありますが、日本でもこのような事例があったのだなと思うと、大学時代に知った、琵琶湖周辺で観音像を戦火から守り続けてきた近江の人々のことを思い出し、感無量です。

そんなオルガンで演奏することに力を傾けてきたような人が、演奏する松波久美子さん。先人たち、あるいはイエスだったり神への賛美に徹するその姿勢といずる音楽は、決して何かを支配するのではなく、むしろ信仰の発露のように聴こえ、人の胸を打つものです。現在進行形の祈りの場における演奏だからこそ見えてくる音楽の、作品の本質を垣間見たように思います。

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
トッカータとフーガ ニ短調BWV538「ドリア風」
コラール「おお神よ、誠実な神よ」によるパルティ―タBWV767 ~コラールと八つの変奏(コラール歌詞朗読つき)
コラール「主イエス・キリストよ、われらに」による四つのオルガン楽曲
 2段の手鍵盤と足鍵盤で BWV709
 「ライプツィヒ・コラール集」よりトリオ:2段の手鍵盤と足鍵盤で BWV655
 「オルガン小曲集」よりBWV632
 4声体コラールによる独奏曲BWV726
「ノイマイスター手稿」により
 「鹿の谷川を慕いあえぐこと」BWV1119
 「キリストよ、汝は明るき日なり」BWV1120
 「ああ主よ、憐れな罪人われを」BWV742
幻想曲、フーガとコラール
 幻想曲とフーガ ト短調BWV542:幻想曲
 コラール「我ら皆唯一の神、父と子と聖霊を信ず」によるオルガン楽曲
 トリオ:2段の手鍵盤と足鍵盤(ダブルペダル)で BWV740
 幻想曲とフーガ ト短調BWV542:フーガ
松波久美子(オルガン)
秋山仁(朗読)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。