かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:カバレフスキー ピアノ作品集1

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回と次回の2回に渡り、旧ソ連の作曲家、カバレフスキーのピアノ作品集を取り上げます。

カバレフスキーと聞いて、ピンと来る方は少ないのではないかと思います。しかし実は最近カバレフスキーの作品をこのブログで取り上げているんです。「スーパーマリンバ」というアルバムをとりあげたとき、「道化師のギャロップ」が運動会でよく聴く作品だと述べているのですが、その作曲家がカバレフスキーなのです。

ja.wikipedia.org

実は、旧ソ連で結構辣腕を振るった作曲家だということを、検索するまでなかなかわかりませんでした。確かにわかりやすい音楽ではあり、社会主義リアリズムに沿った作品ではあると思いますが・・・・・

このピアノ作品全集の第1集に収録されている各曲を聴きますと、カバレフスキーの本当の姿は一体何だったのだろうと考えてしまいます。確かに一見するとわかりやすい作品たちが並んではいますが、結構陰影の差が強かったり、不協和音もつかっていたりと、おそらく私たちが批判的に見る「社会主義リアリズム」とはちょっとだけ違うように感じるのではないでしょうか。

例えば、第1曲のピアノ・ソナタ第3番。ピアノ作品の解説ではぴか一のピティナではどう解説しているかというと・・・・・

enc.piano.or.jp

「その中でも」という枕詞がありますよね?ということは、それ以外には結構難しい点もある、ということを示しています。では、第2番はどういう解説になっているかと言えば・・・・・・

enc.piano.or.jp

難易度には触れていないんです。実際は親しみやすい旋律ですけれども、聴けば少なくとも第3番よりは難しいのではないかなと思います。そして戦争を経た経験からの作品でもあるので、不協和音も結構並んでおり、どこが社会主義リアリズムのわかり易さだよ、って思います。

一方ソナチネはどれも平易でわかりやすい作品が並んでいますが、ソナチネにせよ、ソナタにせよ、作曲されたのはほとんど1945年前後なのです。その年代を考えると、まあ、そう簡単な旋律だけで収まるはずもないわけなんです。ではそれはなぜなのかと言えば、簡単に言えば、私たちが知っている以上に現場は複雑怪奇だったであろう、ということです。これはどの国のどんな政治体制であったとしても同じだと言えるでしょう。ただ、旧ソ連は国家による抑圧が強かったということは言えますけれど、そんな中でもカバレフスキーは自身の政治力を使って、結構自由にやっていた、ということは言えるのではないかと思います。そういう事は、本当にどの国でも起こりえます。実際、この日本でだって・・・・・ねえ。音楽家ではないですけれど、政治や法律の世界では今当たり前になってしまっていますよねえ。同じことです。

その意味では、このアルバムはその演奏によって、私たちの単細胞的な社会主義リアリズム批判に対し、ハンマーで頭を殴るような効果を持つのではないかと思います。演奏するのは日本人ピアニスト、有森博。ロシア作品のエキスパートだけあり、単純なソ連批判とは一線を画しているように思います。

arimori.info

現地の空気を吸い、日本とは違う大陸の雰囲気を存分に経験してきたそのピアニズムは、どこか境界線をしっかりと引き楽譜と向き合い、行間を掬い取り、自身の表現へと結実しているように思います。そこから浮かび上がるのは、美しいものを追求する芸術家の姿です。一人の芸術家が真摯に楽譜に向き合い、対話をし、その結果を演奏としてフィードバックした結果、芸術に真摯に向き合う一人の作曲家の姿が浮かび上がっているのが素晴らしいと思います。決して感動するとかそういう演奏ではないですし、作品達もそういったものではないんですが、しかし喜びだったり、けだるさだったり、楽しみだったりは確実に伝わってきます。そこには人間カバレフスキーが見え隠れしているように感じるのはわたしだけなのでしょうか。

いずれにしても、ピアニストから、その批判本当に正しい?と問いかけられているように感じるのです。そして私自身、ぼんやりとしたものはありますが、明確な答えを導き出すことはできていません。ただ、人間カバレフスキーという存在がいたということを、私自身は認識しているか?と自問はするのです。実はここに収録されているすべての作品は、3楽章形式、なのです・・・・・

 


聴いている音源
ドミトリー・カバレフスキー作曲
ピアノ・ソナタ第3番作品48
ピアノ・ソナタ第2番作品45
ソナチネ第2番作品13-2
ピアノ・ソナタ第1番作品6
ソナチネ第1番作品13-1
有森博(ピアノ)

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