かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:バッハ・コレギウム・ジャパン ケルン公演 ヨハネ受難曲

コンサート雑感、今回は令和2(2020)年3月16日(日本時間)に行われた、バッハ・コレギウム・ジャパンのケルン公演「ヨハネ受難曲」を取り上げます。

もちろん、新型コロナウイルス蔓延のさなか、ドイツに私が行けるわけもなく(残念ながらそもそも金がないっす)、これもネット配信なんです。

本来、バッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJと略します)はちょうど受難週に当たる3月中旬にヨーロッパツアーを予定しており、ケルンはその演奏地の一つにすぎません。ところが、その公演が中止になってしまいます。しかし、ネット配信をやることになったのですね。フェイスブックでそういった配信情報をまとめたサイトが紹介されており、それで配信を知ったのです。

BCJの演奏にCD以外で触れるなんて、本当に何年ぶりなんだろうかと思います。私が足しげく通っていた時期に活躍していたソリストたちはほとんどいなくなり、今回の配信では浦野智之さんくらいしか確認できませんでした。その代わり、若い才能がずらり。こういった新陳代謝が、BCJの魅力でもあります。

さて、当日演奏されたのは、表題の通りバッハのヨハネ受難曲。ヨーロッパではヨハネを、そして日本ではマタイを演奏するようで、ヨーロッパツアーではミサ曲も演奏するそうです。このエントリが上がっているころには、すでに帰国していて、東京の公演まであと一週間というところのはずです(この原稿を書いたときにはその予定でしたが、正式に東京公演が延期、それ以外は中止が決まりました)。その東京ではマタイだそうですが、今回はヨハネです。

ドイツは日本より状況が深刻なのか、それとも念のため必要以上に警戒しているのか、とにかくケルンではBCJに限らずすべての公演が中止になっており(これも原稿を書いた当時の状況ですが、4月4日現在では相当事態は深刻です。BCJが帰国できるだけでも奇跡でしょう)、そんなさなかのヨハネなわけです。ヨーロッパの人たちにとっては、それは一つのキーワードになります。バッハがヨハネ受難曲を書いた時代は、マウンダー極小期が終わって暖かくなっただけではなく、ペストによる大量死から立ち直っていく時期に当たるからです。

つまり、時期が重なったとはいえ、新型のウイルスが蔓延しているその時にヨハネ受難曲を演奏するということは、それはウイルスの蔓延から生き残り、社会を守り構築しなおすことを意味しています。それはキリストの復活とも重なるわけで、多分大勢の人が鑑賞していたのではないでしょうか。トラフィックが不安定で、ところどころ画面が止まるのが散見されました。最後は音声すら・・・・・

冒頭はかなり速いテンポ。まるで何かにとりつかれ、強迫的になっているかのよう。それはもしかすると、指揮者鈴木氏から団員たち全員が感じている「見えざる不安」を具体化したのかもしれません。だんだん落ち着いて来ますけれど・・・・・

後半も速いですが、それは鈴木氏の「ヨハネ」ではある意味いつもの風景です。キリストが前半でつかまり、後半では民衆の圧力にピラトが負けて、ついに磔刑となる・・・・・そのドラスティックな場面展開は毎度息をのみます。そして昇天、そして復活。最後は人類の希望が見えるかのように明るく静かに終わります。その人間ドラマ!

そう、バッハの二つの受難曲の魅力と言えば、なんと言ってもその人間ドラマです。そこには私たちが日頃見る人の卑しさが存分に描かれています。それが反面教師の役割を持っているわけですが、いずれにしても、すさまじい人間ドラマ。そこから何を見出すか・・・・・二つの受難曲は、ものすごく考えさせる作品です。

だからこそ、特に合唱団とソリストは表現力が問われる作品です。今回の公演のエヴァンゲリスト、ジェイムズ・ギルクリストはまるでゲルト・テュルクかのような軽い発声。それでいて表情の豊かさ。ナレーションのはずがつい感情移入していくさまがまた人間らしい。ソプラノは ハナ・ブラシコヴァとサイトでは出ていたのですが画面ではどう見てもご本人ではない。おそらく代打なんだろうとは思っていましたが、いろいろ検索してようやく急病で松井亜紀さんに代わっているのを確認。その松井女史が素晴らしい!嘆く婦人の役がヨハネ受難曲のソプラノですが、その嘆きも感情移入ばっちり!こちらも落涙しそうになります。

基本イエスの役であるバリトンクリスティアン・イムラー。どっしりとした声でヨハネの「決然と死に向かうイエス」を表現しており、これもグッド!カウンターテナーテノールも、申し分なし!

もちろん合唱団もいつも通り秀逸。セタガヤ・クオドリベットでは指揮及びソリストも務める青木洋也氏は今回アルトで合唱団員。そのほかも幾人か知っている人が散見され、それらのソリスト級が合唱団となって群衆も表現。それがまたドラマティックなんですね。BCJヨハネあるいはマタイはそういう表現力に優れ、毎度素晴らしいと思います。

さて、BCJはヨーロッパツアー11公演のうち8公演が中止と、異例の事態になっています。そこで急遽、ケルンではヨハネ受難曲録音プロジェクトが立ち上がったそうで、もしかするとこの配信はそのままCDあるいはハイレゾとなる可能性があります。もしハイレゾなら購入したいと思います。BCJハイレゾ音源は一つ持っておいていいと持っています(ま、SACDプレーヤーを持っている人はそれでハイレゾなんですけどね。BCJのCDアルバムはSACDハイブリッドですから)。11公演のギャラが入ってくる予定だったのが、わずか3公演分しか入ってこないわけですから。それで急遽録音ということになったはずです。ならば、支援するのがファンというものです。AKBのファンと一緒です。

是非ともこれからも支援し続けていきたいと思います。

追伸:

この原稿を書き上げた後、この公演がyoutubeにアップされたことを知りました。さらにライブストリーミングをしたケルン・フィルハーモニーホールも、その動画をライブラリで公開しました。このコンサートが永遠に動画で聴け、見られることは幸いなことだと思います。

新型コロナウイルスが沈静化し、コンサートが行われるようになった暁には、久しぶりにBCJのコンサートに足を運んでみたいなと思います。

youtube

www.youtube.com

Kolner Phiharmonie

www.philharmonie.tv

 


聴いたコンサート
バッハ・コレギウム・ジャパン ケルン公演
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
ヨハネ受難曲BWV245
ジェイムズ・ギルクリスト(エヴァンゲリスト
松井亜紀(ソプラノ)
ダミアン・ギヨン(カウンターテナー
ザッカリー・ワイルダーテノール
クリスティアン・イムラー(バス)
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン

令和2(2020)年3月16日(日本時間)、ドイツ、ケルン、フィルハーモニー

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。