神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はブルックナーの交響曲第5番のCDをご紹介します。指揮はギュンター・ヴァント。オケはミュンヘン・フィルです。
まあ、この組み合わせなら鉄板!というファンも多いかとは思うんですが、ヴァントと言えば、北ドイツ放送響とのもののほうが断然有名です。そんな中で、老舗ミュンヘン・フィルのものを借りてたってわけなんです。
ミュンヘン・フィルは私も好きなオケの一つです。何よりサウンドの豊潤さと爽快さが同居するのがいいなと思っています。そんなミュンヘン・フィルとだと、ともすれば甘美になりすぎがちな演奏になるブルックナーが、なんと生き生きとしていることか!
ヴァントの解釈も素晴らしいのだろうと思いますが、相互にいい影響を及ぼしているように思います。音楽の三要素である旋律、リズム、和声どれもおろそかにすることなく、そのバランスの中で絶妙なポジションを明確にしたヴァントとミュンヘン・フィルのサウンドは、適度に酔わせてくれ、また思考をめぐらさせてくれます。
特に、ブルックナーの交響曲はブルックナーがオルガニストであるというキャリアから出発していますが、そのキャリアをおろそかにしていない点も好印象です。
ブルックナーが作曲した時代は、宗教的権威が失墜し、市民社会が充実し始めた時代です。そんな時代を反映したような作品の一つとしてこのブルックナーの第5番は位置づけられるように思います。神なき時代の宗教とは?マーラーの交響曲でも指摘されるこの視点は、ブルックナーにも言えるように思います。むしろブルックナーのほうが宗教的ですが。
とはいえ、たとえばコラールなどがつかわれているとかではないのに、旋法が感じられたりなど、ブルックナーの宗教音楽家としてのキャリアも反映されている作品を、しっかりとリズムを感じながら紡いでいくのは聴いていて爽快です。
録音もいいのも素晴らしい点で、ハイレゾじゃないとどうしてもブルックナーなどは高音やフォルティシモの伸びがどこか縮こまる部分があり、電気的な点も散見されるのですが、この録音では電気的な部分は仕方ないにせよ、高音部やフォルティシモの伸びが自然で、音に包まれるかのよう。もちろん、ハイレゾ対応のスピーカーで聴いているからかもしれませんが、いずれにせよ、レコーディング・エンジニアのセンスも見事です。デジタル時代はいかに自然さを損なわないかが大切なのですが、その自然さがよく出ている録音です。
ブルックナーのような長い曲であればあるほど、如何にリズムと和声に気を使い、録音は自然さを損なわないかがカギだと思いますが、そのすべてにおいて素晴らしい一枚だと思います。
聴いている音源
アントン・ブルックナー作曲
交響曲第5番変ロ長調(1875~78年原典版)
ギュンター・ヴァント指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
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