かんちゃん 音楽のある日常

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コンサート雑感:男声合唱団東京リーダーターフェル1925 2019年演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は令和元(2019)年11月16日に聴きに行きました、東京リーダーターフェルの演奏会をご紹介します。

おそらく、クラシックが好きな人たちではほとんど知られていない、東京リーダーターフェル。その歴史は古く、団名についている通り、1925年の創立の、老舗男声合唱団です。

www.tokyo-liedertafel.com

サイトのプロフィールでは、リーダーターフェルを「男声運動」と訳していますが、直訳しますと、歌の食卓という意味になります。むしろ、男声で集まるサロンという意味合いの方が強いでしょう。

なぜなら、本来リーダーとは、ドイツ語で単に「歌」のことなので。ブラームスの「マリエンリーデル」はマリアの歌という意味で、そのマリアを担当するのは女声ソリストのアルトです。そもそもは混声合唱の運動であり、それが男声合唱の運動にも適用されるようになった背景は以下の論文がある程度手っ取り早く説明していると思います。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kantoh1988/1999/12/1999_12_179/_pdf

ただし、この団体がドイツの運動に影響されて結成されたのは間違いなく、社会人と言えば当時男性しかいないという状況で、同性、つまり男声合唱の運動も勃興したところで日本にも紹介され、いわゆる社会人クラブ運動としての先駆的存在だったのです。むしろ、男声合唱ではありますが、今の社会人混声合唱団活動の先駆的存在であり続けてきたのが、この東京リーダーターフェルです。

そう、つまりはドイツとは全く反対の方向から、日本のアマチュア合唱団は始まったのです。もちろん、長い音楽史から見れば、そもそもは教会の聖歌隊ですから、男声合唱ということが言えますが、すでにバロック期に置いてはソプラノは女性もしくは若い男性でした。ですので19世紀ドイツにおいては、混声合唱団がアマチュアの活動での中心的役割を担っていました。とはいえ、同声も存在しており、その同声の活動をまず日本において始めた、というわけです。

その後、戦後に至り日本国憲法発布後、男女平等の考え方が浸透して混声合唱隆盛の時代を迎えることになります。むしろ女声合唱は男声のアンチとしての存在ですから・・・・・今ではそれぞれ個性として存在していますけれど。

実はそんなラディカルな歴史を背負ってもいるのが、この東京リーダーターフェルだといえるのです。もちろん、現在では個性としての男声として活動していますが。そんな団体の、今回はコンサートに行ってきた、というわけです。

そもそも、長い歴史を持つだけあり、団員さんたちは様々な団体を「掛け持ち」すらしており、私が知るところでは、川崎にある「飛翔」に参加していた団員さんもいます。まあ、たいていは指導者に頼まれてかけ持つんですけどね・・・・・実際、私もそうでした。

そういう掛け持ちということが縁で、こうコンサートに行く機会も与えられた、というわけです。

さて、今回は3部構成で、最初はバルト三国の作品を演奏したのですが、これには実は全く間に合いませんでした。あとからこれは聴きたかったなあと思いましたが、とにかく11月は仕事などの予定が立て込んでおり、じつは勤務の合間を縫っていったという感じでした。そのためいろんな準備等に追われ、結局間に合ったのは第2部の日本の合唱曲である多田武彦の「雪明りの路」も、後半。その軽めの美しい合唱を聴いたとたん、本当に間に合わ那ったのは残念だと思いました。第1部には「主に向かいて新しき歌を歌え」もあったためです。そういった宗教曲も、この合唱団はどのように歌んだろうかとワクワクしていただけに、本当に残念でした。

一方、第3部はオペラ合唱曲。それまでのアカペラとは一転、ピアノが入るだけではなく、なんと初めから舞台に立つのではなく、まるでオペラのシーンのようにピアノが演奏し始めて袖から入ってくるという趣向。これは楽しかったですし、何より演奏者たちが楽しんでいるなあと思いました。ピアノ伴奏は私もかつて指導を受けた佐藤季里女史。伴奏ピアニストだと言って軽く見てはいけません。この人、本当にピアノを歌わせるので!単なる伴奏ではないところが、本当に素晴らしく、伴奏ピアニストとしていいサポートしているなあと今回も感心させられました。さすが!

いや、私のひいきである瀬川玄氏も、伴奏は難しいって言うんです。そんな中、さらりと伴奏をこなす季里女史は本当に素晴らしい。このピアニストと指揮者が居てこの演奏なんだなと思いました。指揮は第2部と第3部が樋本英一氏。ソリストは男声が第1部を指揮した佐藤拓氏。女声がなんと!二期会会員である伊藤晴女史。佐藤氏も素晴らしいんですが、なんと言っても伊藤女史の存在感は圧倒的。彼女が出てきますと、それまでの楽しんでいるステージの空気が一変。本当にオペラのワンシーンになるから不思議。そしてそれでも違和感ない合唱。さすがだなあと思いました。

ただ、一つ気になったのが、ヴェルディの「ナブッコ」から「行け、想いよ金色の翼に乗って」。私も歌ったことのある曲なので難しさはわかっていますけれど、とはいえこの曲、そもそもがバビロン捕囚がテーマなんですね。

ja.wikipedia.org

ですので、悲しみと同時に、希望を表現しないといけないわけなんです。ところが、徹底的に軽めの発声のみ。これ、発声としては素晴らしいんですが、折角原曲が混声なのに男声合唱でやる意味がなくなってしまったと思いました。それが残念。多分、郷愁というものを前面に出したかったんだろうなあと思います。それはそれで指揮者の解釈なのでそれに反して歌うことはできませんが、私が指揮者なら、もっとダイナミズムを加えた解釈で歌わせると思います。せっかくの男声合唱なんですから、やはりベルリン・ドイツ・オペラのような演奏を目指したいなって思います。でも、この曲、フレーズが本当に長くて、どこで息継ぎしていいかわからない曲なんです・・・・・

なので、難しい中、とにかく美しく仕上げたのは本当に素晴らしかったと思います。ウェーバーの「魔弾の射手」から「狩人の合唱」は力強く素晴らしかっただけに、できないことはないと信じています。

できればまた来年も、聴きに行けるといいなあと思います。

 


聴いてきたコンサート
男声合唱団東京リーダーターフェル1925定期演奏会2019
第1部 バルト三国を巡る
歌の架け橋(トルミス作曲)
人とは何なのだろうか?(ウースベルク作曲)
ずっと歌がある(カミンキス作曲)
僕は戦争にむかった(イェマクス作曲)
彼は馬に乗る(ツィガイティス作曲)
主に向かいて新しき歌を歌え(ミシュキニス作曲)

第2部 
多田武彦作曲
男声合唱組曲「雪明りの路」

第2部 オペラ合唱曲集
エルナーニ」より「山賊たちの合唱」(ヴェルディ作曲)
ナブッコ」より「行け、わが想いよ金色の翼に乗って」(ヴェルディ作曲)
「魔弾の射手」より「狩人の合唱」(ウェーバー作曲)
タンホイザー」より「巡礼者たちの合唱」(ワーグナー作曲)
運命の力」より「天の聖女マリアが」(ヴェルディ作曲)
ファウスト」よりマルグリートのアリア「宝石の歌」(グノー作曲)
ファウスト」より「兵士たちの合唱」(グノー作曲)

伊藤晴(ソプラノ)
佐藤拓(アンサンブル、指揮)
移川澄也(バリトン、ヴォイストレーナー
佐藤季里(ピアノ)
樋本英一指揮
東京リーダーターフェル1925

令和元(2019)年11月16日、東京墨田、すみだトリフォニーホール大ホール

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。