かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

今月のお買いもの:リスト ピアノ曲全集44

今月のお買いもの、令和元年10月に購入したものをご紹介しています。今回はナクソスのリストピアノ曲全集の第44集を取り上げます。

かつて神奈川県立図書館で第29集までを借りてリッピングしてあるこのシリーズですが、県立図書館が所蔵してある分の1.5倍くらいすでに新たに出ていることになります。そのうちハイレゾとして出版され続けているものをまずそろえようと購入しているわけなのですが・・・・・

できれば、すべて再販を望みます。ナクソスなら3つくらいなら一度に買えますしね。ただ、ものによっては2つになることもありますが・・・・・

さて、この第44集は、リスト自身が作曲した歌曲をピアノ独奏版としてトランスクリプションしたものです。そのロマンティシズムだったり、歌謡性だったりを、如何にピアノ曲として魅力で包むか・・・・・これは、リストにとっても挑戦だったはずでしょう。なぜなら、歌とピアノはま反対なものだからです。

歌は、人間が歌うものですから、フレージングだったり、息継ぎだったりが自然と楽譜に反映されますし、見込んで作曲をするものです。ところがピアノは、叩けば音が出ますから、そんなことを考慮しなくてもいいわけなんです。ですから特性として人間の声とピアノの音とは相反するんです。

それを、ピアノ曲として成立させようというんですから、二つの特性をよく理解したうえでトランスクリプトしないと、聴けたものではありません。あるいはもう全く別個のものとして考えるか。ここで、リストは逃げを打つんです。それが、この作品たちがトランスクリプションだということ、なのです。

トランスクリプションとは、編曲というか、再編成というほうが正しい訳だと思います。つまり、もともと声楽曲であるものを、ピアノ曲として「再構成」するってことです。そうすれば、人間って不思議なもので、声楽曲として聴くことが薄くなるんです。だからこそ、これらの作品はトランスクリプションというカテゴライズになっています。

しかしながら、これはリストが天才だと私が考えるゆえんなんですが、実に「歌」なんです。いやあ、まいった!リストは超絶技巧の演奏家としてではなく、作曲家としてのキャリアを積んでいくうちに、ピアノという楽器の可能性を見出したんだと思います。ピアノでも、歌えるんだ、と・・・・・

伴奏部分を残しながら、ピアノを歌わせるというような工夫があちらこちらに見受けられます。これはのちにドビュッシーなどに受け継がれているように思います。それだけではなく、すでに同時代の作曲家たちに採用され、ピアノ曲が一気に増えていった要因だと思います。

そんな歴史を知っているのか、演奏しているヘイスティングスは実にピアノを謳わせています。まるで瀬川節!いや、瀬川氏が、欧州でこういった演奏を学んできたといえるでしょう。日本って一部の人がいいって言ったものに飛びついて礼賛する傾向が強いって思いますが、それが超絶技巧を重要視するコンクール優勝者礼賛だったりファーストだったりするわけなんですよね。コンクールに出ていなくても優れた演奏者は欧州にも日本にもいるわけなんですが・・・・・

瀬川氏もそんな一人です。一方ヘイスティングスはコンクール優勝者なのですが、有名ではないコンクールであるためにほとんど顧みられていないピアニストの一人だと思います。だとすれば、コンクール優勝とはいったい何なのでしょうね・・・・・コンクール優勝が意味がないとは私は思いませんが、むしろコンクールに優劣をつけて、あるコンクールでの優勝は評価して、それ以外の優勝は評価しないというのは、コンクールに優勝することを問題視するよりももっと問題な視点だと私は思います。

大事なことは、コンクールに優勝しようがしまいが、出ようが出まいが、自らがどう表現したいのか、ではないでしょうか。ヘイスティングスの演奏からは、「歌いたいんだ!」という明確な意思を感じます。その明確な意思こそが、作品に生命を与え、私たちに語り掛けてくるのでしょう。それがハイレゾでの記録であれば、なおさら臨場感を持って語り掛けてきます。その臨場感がこのアルバムの素晴らしい点だと思います。

できれば、このシリーズはCDを廃盤にしてもハイレゾだけは廃盤にしてほしくありません。

 


聴いているハイレゾ
フランツ・リスト作曲
①私を愛してくれた人 S533/R203
②スペイン風セレナード S487/R161
③ノンネンヴェルトの僧房 S534/1 (第1稿)
ショパン - 6つのポーランドの歌 - 第5曲 わが喜び S480/5bis/R145/5 (第2稿)
⑤ヴィエルホルスキ - 過去(ロマンス) S577/1/R291 (第1稿)
⑥訓辞とハンガリー賛歌 S486/R158
⑦ノンネンヴェルトの僧房 S534 (第2稿)
⑧ゴータの王侯の棺桶島
⑨盲目の歌い手 「Slyepoi」 S546/ R216
⑩君を愛す S542a/R211a
⑪ノンネンヴェルトの僧房 S167/ R64/2 (第3稿)
⑫忘れられたロマンス S527bis/R66b (短い下書き)
ハンガリー王の歌 S544/R215
⑭忘れられたロマンス S527/R66b
⑮尼僧院の僧房 S534/R213
ジョエル・ヘイスティングス(ピアノ)
(Naxos 8.573557)

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。