かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:日本古代歌謡の世界4

東京の図書館から、小金井市立図書館のライブラリをご紹介します。シリーズでご紹介している日本古代歌謡を収録したアルバムの、4枚目です。

基本、日本の古代歌謡は雅楽の影響下にあると言っていいのですが、むしろ雅楽が日本の様々な歌謡の集合体として存在しているといえるでしょう。この4枚目はそんな雅楽以外のものが取り上げられています。

とはいえ、聴きますと基本雅楽のように聴こえます。それは日本の古代歌謡の和声が共通であることを示しています。1曲目から4曲目までは庶民の歌が雅楽に取り入れられた国風歌舞の「田歌」。本来の庶民のダイナミズムは失われているのは少し残念ですが、そもそもこの曲は宮中において収穫の喜びを表す儀式において演奏されたものなのです。

ということは、このエントリの後くらいで、宮中で演奏される可能性が高い曲なのです。つまりは新嘗祭、今年に限っては大嘗祭ですが、その儀式において演奏される作品だからです。

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実は、皇室行事はかつてコメが税金だったこともあり、こういった収穫などの節目を祝うものが多いのです。最近はどうも神道が間違って右側の人たちに理解されていますので、そういった庶民の営みを寿ぐ舞などが多いことがなかなか世の中に理解されにくい状況を作っているように思います。まあ、貴族趣味であることは否めませんが・・・・・

とはいえ、第1曲目は「音取(ねとり)」と言い、じつは文字通り音取りの役割を果たす楽章です。クラシックの管弦楽なら、単なるチューニングで終わるところですが、それがはっきりと一つの楽章となっている点は、日本の古代歌謡の先進性を意味していると思います。むしろクラシック音楽だと宗教曲であるミサ曲に近いのではないでしょうか。

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5曲目の詠歌は、むしろ雅楽としては動きのある曲。感情がこもる曲だともいえます。こういったところは、演奏する東京楽所の鋭いところだと思います。特に歌詞がはっきりしている点も、感情の発露を意味しているでしょう。

6曲目以降は、雅楽とはちょっと離れて、平安貴族たちが楽しんだであろう曲がずらり。6曲目から9曲目は「催馬楽」といい、田歌のように日本各地の旋律を雅楽風にまとめて貴族たちが楽しんだものです。そのためいきなり雅楽風にしてはテンポアップしていますし、歌詞もはっきりしている上に、リズミカルです。

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第10曲~第12曲が朗詠。アカペラのようにほとんど楽器を使わずに詩を歌っていくというものです。朴訥な雰囲気がこれまたいい!これも平安時代に流行ったものです。

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流行ったと言えば、最後の「今様」こそまさに意味は「流行歌」なんです。古代日本文化史で習った人もいるかと思いますが、ちょうど平安時代と言っても後白河法皇の時代。なので雅楽のようで実は雅楽ではありません。とはいえ、宮中においては管弦を奏するのは楽部ですから、その和声は当然雅楽と一緒ですが、歌詞は多様。朗詠にさらに管弦が付いたものだと言えばわかりやすかもしれません。

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後白河法皇も相当の狸で、それこそ日本の政治史を大いにかき回した人物ですが、それだけに既存のものにとらわれることもあまりなかった人でもあります。その後白河法皇を中心にはやった歌が「今様」です。ですから歴史の授業では多少ネガティヴに習うことも多いのですが、この時代、朝廷であろうが武士であろうが、新しいものを欲していたことは確かです。ただ後白河法皇は朝廷という超保守の側にいたために、和声的には雅楽そのもののような今様を好みましたが、平家はもう少し武骨だったようです。源氏も今様を好んだようで、それが静御前の舞でもあり、実はこの時代を代表する歌謡なのです。そのため、このアルバムでも外されなかったのでしょう。

ちょうど東京国立博物館で行われている「正倉院の世界」展では、人気の宝物である螺鈿紫壇五弦琵琶が展示されており、11月6日からは紫壇木画槽琵琶が展示されますが、これらは5弦という、今ではすたれた琵琶です。ですが5弦であるのは当然、音階が5つだからです。そう、和音階なのですね。けれどもその奏法などは失われ、史料から推測するしかないのが現状です。こういった琵琶を聖武天皇が楽しまれたということが、宮中において実は音楽が非常に重要であったことを意味していますし、また本来は貧しい人が弾く楽器(日本では琵琶法師、ヨーロッパで発達したリュートだと吟遊詩人)が宝物に入っているということが、実はこういった楽曲の成立へとつながってくるんですね。東京楽所のソリストたちは、そういった歴史を踏まえてこの第4集では結構感情がこもっていたり、動きが活発だったりします。そのため、楽部だとつまらなく聴こえるはずの曲も生き生きと聴こえるのが不思議です。でもそれは多分、ソリスト一人一人が演奏に込めた「想い」が、私に伝わってきているのだと思います。

彼らが「仕事ではなく、一人の音楽家として」と団体を組織した理由が、ここまで聴きますとわかるような気がします・・・・・即位の熱狂とは程遠い、雅楽の流麗な世界を、人間として喜びをもっていかに表現するか。今後の活動に注目です。

 


聴いている音源
日本古代歌謡の世界4
田歌(たうた;国風歌舞)
①音取(ねとり)
②破(は)
③急(きゅう)
④答句(とうく)
⑤誄歌(るいか:国風歌舞)
⑥伊勢海(いせのうみ:催馬楽
⑦更衣(ころもがえ:催馬楽
⑧席田(むしろだ:催馬楽
⑨美濃山(みのやま:催馬楽
⑩嘉辰(かしん:朗詠)
⑪春過(はるすぎ:朗詠)
⑫十方(じゅっぽう:朗詠)
⑬長生殿(ちょうせいでん:今様)
東京楽所

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。