かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:オルフェウス室内管が演奏する「プロメテウスの創造物」

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はベートーヴェンのバレエ曲「プロメテウスの創造物」を収録したアルバムをご紹介します。演奏はオルフェウス室内管弦楽団

借りてきた理由は二つ。一つ目が「プロメテウスの創造物」を全曲聴きたかったこと、そして二つ目がその演奏が指揮者が居ないオルフェウス室内管であること、です。

この「プロメテウスの創造物」。ベートーヴェンの作品の中ではいまいち影が薄い作品なのですが、実はこの作品の最後の旋律こそ、交響曲第3番の第4楽章で使われているものですし、ピアノソナタなどへも転用されているもので、ベートーヴェンとしては結構大切な作品だったということがわかります。

最近、FBで第九の歌詞にはキリスト教ではなくギリシャ神話が採用され、キリスト教は排除されているというウォールが流れてきましたが、排除されているのではなく「選択されている」というほうが正しいと思います。そもそも、ベートーヴェン自身もキリスト教徒です。ですが、熱狂的な信者という姿からは程遠いものです。ではなぜ、後年ミサ曲ハ長調やミサ・ソレムニスを作曲しているのかが理解できないのです。

ベートーヴェンが生きた時代、ギリシャ神話はキリスト教と「並び立っていた」のです。それが貴族など教養のある人たちにとって常識だったのです。しかし庶民には絶対王政を強要するためにキリスト教「のみ」を強制的に信じるよう仕向けていました。ベートーヴェンはその「強制」から民衆は解放されるべきだ、と考えていたのです。だからこそ、この「プロメテウスの創造物」という「プロジェクト」に参加した、と私は考えます。

そう、この作品、実は共同作業なんです。そもそもはダンサーで作曲家でもあったサルヴァトーレ・ヴィガーノの依頼によりベートーヴェンが書いたものです。しかも、そのストーリーは実はギリシャ神話を改作すらしています。

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台本は残っていないのでどんなバレエだったかを再現することが不可能で、そのため舞台には乗らない作品ですが、楽譜は残っているので最近は全曲演奏も増えている作品です。そもそも、近代的なバレエを目指していたヴィガーノだからこそ、ベートーヴェンと組んだともいえるのですね。

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ギリシャ神話を改作するくらいの人だったんです。キリスト教よりもギリシャ神話ではなく、どんな宗教であれ主体は人間、そのテーマに尽きるんですね。自分がどう思うのかがテーマ。そう考えればこの改作はベートーヴェンという「AC(アダルトチルドレン)」であれば当然だなあって思います。

そう、あまりにもベートーヴェンは時代の先を行きすぎていた作曲家でした。そうでなければ、彼の後半生は前期ロマン派の時代であるにもかかわらず、古典派の作曲家の作品である第九という作品が少なくとも最初期だけでも受け入れられることはなかったでしょう。そしてその影響はロマン派の作曲家たちを揺り動かします。ピアノ版へと編曲してのちのヴォーカルスコアの成立のきっかけを作ったワーグナーとリスト。シンフォニストとして偉大な先輩を仰いだブラームス鍵盤楽器の世界に新しい和声を取り入れたドビュッシー・・・・・その影響はクラシック音楽の多岐にわたっています。

ベートーヴェンがいろんな作品に転用するくらいですから、ベートーヴェンとしてはさぞかし自信を持った作品だったはずなんです。ロマン・ロランの著作集でもこの辺りは抜けているようですが、私はとても重要な作品だったと考えます。そしてそれはベートーヴェンだけではなく、彼の仲間たちにとっても。それが転用の多さに表れているわけですから。

第九の歌詞よりも、むしろこういった作品を見るべきなんですね(そもそも第九の歌詞ならそれはベートーヴェンよりも何よりもシラーであり、疾風怒涛期のドイツ文学を指摘しなければなりません)。けれどもやれギリシャ神話こそベートーヴェンが信じていた宗教だ!と安易に乗るのはどうなのだろうって思います。当時東洋哲学もヨーロッパ文化に入り込んでいますし。そういった複雑な事情を顧みない主観は客観のみより非常に危険だと思います。

オルフェウス室内管という、指揮者が居ないオケがなぜこの作品を演奏するのかは、もうお分かりかと思います。人間一人一人が、プロメテウスによりもたらされた「芸術」を賛美し歌う・・・・・これぞ、ベートーヴェンが作品で言いたかったことだと、彼らが考えているからに相違ないわけです。聴けば全編に喜びが満ち溢れ、最後のあの有名な旋律などは一見しますとどこか英雄的なのかって思うくらいです。舞踊性に富み、攻撃的な部分はほぼ皆無。ですがその喜びは最後頂点に達し、熱を持ったクライマックスを迎えます。そのオルフェウスの演奏からは、「英雄の第4楽章って、あなたの主観で本当に正しいの?」と批判の刃を突き付けているように思います。

 


聴いている音源
「プロメテウスの創造物」作品43
サルヴァトーレ・ヴィガーノによるバレエ
オルフェウス室内管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。