かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:ベートーヴェン エロイカ変奏曲他

今回の神奈川県立図書館所蔵CDは、ベートーヴェンエロイカ変奏曲と、カップリングとしてふたつの創作主題による変奏曲が収録されたものを取り上げます。演奏者はクラウディオ・アラウです。

これを借りましたのは1年ほど前ですが、ベートーヴェンの変奏曲にどっぷりとつかっていた時期でした。先日ご紹介したディアベッリ変奏曲を皮切りに、まるでせきを切ったようにベートーヴェンの変奏曲を聴きまくっていた自分がいました。

変奏曲というのは、バッハ以来の伝統ですし、大作曲家は避けて通れないものでもあります。ですので、ベートーヴェンは初期からいろんな形で変奏曲を書いていますし、また「変奏曲」と曲名についているものもOp、WoO問わず作曲しています。

通常変奏曲というのは、誰かの主題がまずあって、それを自分流にアレンジしていく、アレンジャー能力が問われる作品で、その妙味を楽しむ作品なのですが、このエロイカでは創作主題を変奏形式で彩るということをやっています。しかし、ベートーヴェンが他人の旋律を嫌がったわけではありません。ベートーヴェンの最高傑作と言われ、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」と並び立つと言われる「ディアベッリ変奏曲」ではまず他人の主題が存在します。しかし、このエロイカはそのディアベッリ変奏曲が成立するために必要な楽曲だったと私は思っています。なぜなら、ディアベッリ変奏曲は主題は提示されますが、その後ベートーヴェンがなかば「作曲」した作品だからです。

エロイカ変奏曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%82%AB%E5%A4%89%E5%A5%8F%E6%9B%B2

ディアベリ変奏曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%83%99%E3%83%AA%E5%A4%89%E5%A5%8F%E6%9B%B2

このエロイカ変奏曲自体は、あの有名な交響曲第3番「英雄」第4楽章との関連でかたられることが多い作品です。それは、ともに主題が同じであるからです。しかし、成立はこのエロイカのほうが先になります。エロイカの主題は4度使われ、最後に使われたのが「英雄」だったのです。

プロメテウス主題とも呼ばれるこの主題ですが、「プロメテウス」とついているのがわたしはとても興味深いと思っています。プロメテウスとは、ギリシャ神話で人類に火を与えた神様で、文明の象徴でもあります。

プロメーテウス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A6%E3%82%B9

ウィキにある「その名は、pro(先に、前に)+metheus(考える者)で、「先見の明を持つ者」「熟慮する者」の意である。」というのはまさしくベートーヴェン自身と重なって見えてくるのは私だけなのでしょうか?ベートーヴェンは学校にきちんと通ったわけではありませんでしたが、学問はきちんと学んだ人でした。ボン大学の聴講生でもあった彼は、当時の教養人が修めるべき素養はきちんと持っていた人でした。当然ですがギリシャ神話にも通じていたということになります。そこに自らと同じ立場であるプロメテウスの存在を観たと考えると、なぜ彼がプロメテウスを取り上げ、その主題を作曲したのかが理解できるように思います。

エロイカ変奏曲さらなる特徴は、形式面にあります。フーガやカノンと言った、バッハ伝統の形式をこれでもかとやっています。その上で、両手の掛け合いはすでにセッションです。こういった点に、ベートーヴェンが求めていた理想像が見え隠れするように思うのは私だけなのでしょうか。

カップリングの二つの創作主題による変奏曲も素晴らしい作品です。1806年に作曲され、なぜか作品番号が振られることがなかった「創作主題による32の変奏曲ハ短調WoO.80」は、転調や形式に技巧がこらされた名曲です。WoOであるのが不思議なくらいです。そこがベートーヴェンベートーヴェンたるゆえんなのかもしれませんが。

創作主題による32の変奏曲
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%B5%E4%BD%9C%E4%B8%BB%E9%A1%8C%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B32%E3%81%AE%E5%A4%89%E5%A5%8F%E6%9B%B2

1802年に作曲された「創作主題による6つの変奏曲ヘ長調作品34」は、これは転調にバッハの平均律クラヴィーアの影響を強く感じます名曲です。音楽が地味であるため同じ年に作曲されたエロイカ変奏曲の影に隠れて目立ちませんが、ブックレットのいう「22小節の主題による6つの変奏の調性は3度ずつ下がる形をとっており、テンポも拍子もそれぞれ変化する」その音楽は、淡々とした中に味わい深いものがにじみ出ていて、噛めば噛むほど味が出るという作品です。

そもそも、ベートーヴェンピアノ曲は先生ネーフェの影響を強く受けたものです。その影響とは先生の音楽ではなく、先生が大事だとサジェスションした先達、特にバッハの音楽がもとになります。

だからこそ、その後私はバッハのクラヴィーア曲、つまりはチェンバロ曲にものめり込んでいくことになるのですが・・・・・それはまた機会を改めましょう。

アラウはこの3つの作品の魅力を、とても端正な演奏で紡ぎ出していきます。技巧に走るわけでもなく、華美に走るわけでもなく、ただ淡々と音楽を鳴らすだけなのに、ちょっとした強弱だけでなんと音楽が生き生きとするのでしょう!タッチの柔らかさによるしなやかな表現は、壮大で重厚とも言われるベートーヴェンに抜けるような青空と、明るさと軽妙さもあることを教えてくれます。

図書館にはエロイカ変奏曲だけでもいくつかの音源がありますが、以前何かの機会に私はアラウを聴いたことがあったのでアラウを借りましたが、それは間違いなかったと思っています。有名だからではなく、このエロイカの場合、アラウの技術的な素晴らしさとそれが生み出す表現の豊かさを信じて借りたのですが、それが間違いなかった時の喜びは、何物にも代えがたいものです。



聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
エロイカ」の主題による15の変奏曲とフーガ 変ホ長調作品35
創作主題による32の変奏曲ハ短調WoO.80
創作主題による6つの変奏曲ヘ長調作品34
クラウディオ・アラウ(ピアノ)



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