かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:リスト ピアノ作品全集17

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、リストのピアノ作品全集を取り上げていますが、今回はその第17集を取り上げます。

この第17集はシューベルトの歌曲の編曲の、第2集となっています。ということは・・・・・

そうです、リストの超絶技巧というのが殆ど影を潜めています。しかも、歌曲という事は、その伴奏は基本的にはピアノ、ということになります。つまり、ピアノパートは基本いじっていない、ということです。

では、リストがいじったのは何処になるのか。サール番号からすれば、これらの作品はトランスクリプションになりますから、完全な編曲というのではなく、リストが再構成した部分もあるということです。ではどこを再構成したのか。

それは、音の動きが激しいところで、歌が入る部分です。大抵そこでリストが再構成しています。理由は簡単です。毎度述べていますが、歌曲というのは3パートあるのを、ピアノのみの2パートへと再構成しなくてはならないからです。

え、歌とピアノだから、2つですよね、という方もいらっしゃるかもしれません。確かに、つかわれている楽器は2つです。一つは楽器というよりも肉声です。ですが、ピアノは左手と右手という二つのパートから成り立っていることは、意外とスルーされることが多いのですよね。

ピアノ作品の楽譜を見ますと、ト音記号ヘ音記号の二つが記載されているかと思います。なぜ二つあるのか?意味なくあるのではありません。ト音記号は主に右手、ヘ音記号は主に左手で弾く部分を指すからです。

ピアノという楽器の発展の歴史を見ればそれは理に適っていると気づくはずです。もともと、ピアノという楽器はその源流はリュートチェンバロなどの楽器であり、通奏低音を担当した楽器です。つまりは伴奏だったわけです。それが主旋律も担当するようになった。だから二つのパートが必要になった、というわけです。

さらに言えば、時代が下るにつれてト音は主旋律、ヘ音が通奏低音という垣根は取っ払われ、二つが乱れるという作品もでてきます。そういった歴史をしれば、リストが作曲をせざるを得ない部分が出てくるのは、当然のことだと理解できます。

その再構成(つまりは、作曲)をどれくらい楽しめるのかが、こういった作品を聴くときの醍醐味だと言えます。この第17集でいえば、まず6曲目までは「美しき水車小屋の娘」からのトランスクリプション。原曲を知っているひとであれば、あれ、ここ少し違うなあと気が付くはずです。そこを面白い!と受け取るか、それともそれは違う!と叫ぶかによって、評価はがらりと変わるでしょう。まさにリストが目指したのはその点であると言えます。

これはリストの答えです。そしてそれは幾度も変更がかけられていることが、幾つか版があることで判っています。どの答えが自分に近いのか、あるいは全て遠いのか。それをリストとまるで対話するかのように聴けることはとても幸せだと思います。

第7曲目の「ます」や、最終曲の「魔王」はとても有名な作品ですが、有名であるからこそ、これはどうなのだろう?と自分で考えることはとても大切です。他者の一つの答えに対して、自分はどう受け取るのかを考えることは自然と作曲者と対話することです。

ここが私はクラシック音楽の素晴らしい点だと思います。部屋で一人で聴いていても、クラシックファンが比較的引きこもりにならないのは、クラシック音楽が常に他者との関係性を紡ぎだす音楽だからではないかと思います。だからこそ、芸術と言える高みへと登ったのだと思います。

演奏するはヴァレリー・トリオン。このシリーズでもすでに出てきているピアニストですが、実に端正ですねー。その端正さが、これらの作品の本質を演奏にて言わしているようにも思えるのです。

リストが超絶技巧のピアニストとして絶頂期にあった頃に編曲したこれらの作品には、リストらしさがないんですね。むしろ、作曲者への尊敬のほうが多い。その点をしっかりと紡ぎだしているのです。まず、何もタイトルを出さないで「この作品はなんでしょう」と出題すれば、殆どの人がリストとは答えず、シューベルト自身の編曲と答えることでしょう。例えば、某SNSの鑑賞会とかでですね。でも、これはリストのトランスクリプションなのです。

その「驚き」が存分に表現されているのですね。時として淡々と、時として堂々と。シューベルトが実はとても豊かな作品の世界を持っているということをリストは言いたいのでしょうが、ピアニスト自身も自在で豊かな表現で持って、共感しているのが見て取れます。

リストは超絶技巧だからねえ・・・・・早逝してしまったメンデルスゾーンとは異なり幸いなことに長生きしている私たちは、じっくりと味わおうじゃないですか。




聴いている音源
フランツ・シューベルト作曲
フランツ・リスト編曲

水車小屋の娘(第2版)G/S565/R249
�@さすらい
�A水車小屋の男と小川
�B狩人
�Cいやな色
�Dどこへ
�E焦燥(第3版)

�Fます(第2版)G/S564/R248
�Gばら G/S546/R241
�H12の歌より 海の静けさG/S558/R243No.5
�Iゴンドラの漕ぎ手G/S559/R244
�J白鳥の歌より 愛の便りG/S560No.10/R245No.10
�K12の歌より アヴェ・マリアG/S558/R243No.12
�L6つの旋律より 焦燥(第1版)G/S536/R248No.5

宗教的歌曲集G/S562/R247
�M連祷
�N天のまたたき
�O星座
�P讃歌

�Q涙の讃歌G/S557/R242
�R12の歌より 魔王G/S558/R243No.4
ヴァレリー・トリオン(ピアノ)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。





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