かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:リスト ピアノ作品全集6

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、リストのピアノ作品全集を取り上げていますが、今回は第6集を取り上げます。元音源はナクソスです。

第5集はシューベルトの第1集としての性格があったのですが、続く第6集は一転して前期ロマン派の他の大作曲家達である、ショパンシューマン(クララを含む)、メンデルスゾーンの作品の編曲を取り上げています。

夫々もともと、それぞれの作曲家の歌曲を編曲しているのですが、これら4人の作曲家(クララを含みますので)には共通項があります。それは、全員ピアノ作品の大家である、という事です。

え、メンデルスゾーンがなぜ?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、先日瀬川氏の演奏会のエントリを挙げたのを覚えていらっしゃいますでしょうか?メンデルスゾーンもピアノ作品をかなり書いており、その中でも特に有名なのが、瀬川氏が全8回をかけて取り上げる、無言歌集です。

コンサート雑感:メンデルスゾーン 無言歌全曲演奏会第2回を聴いて
http://yaplog.jp/yk6974/archive/1434

ですから、これら4人の作曲家は、リストにとっては同志のような存在です。同じ時代に、同じジャンルで活躍した仲間、或はライバルといった意識があると言っていいでしょう。

で、これらの編曲が行なわれた時期はまちまちですが、少なくとも1840年以後に行なわれ、ショパンの「17のポーランドの歌作品74」から6曲を選んで編曲された「6つのポーランドの歌G/S480、R145」は1840年から60年と、20年かけて成立しており、クララの作品の編曲は1874年とかなり晩年の成立です。

それ以外はわからないものもありますがわかっているものは1840年であり、リストがヴィルトォーソとして一世を風靡していた時期です。つまりここには、原作に比較的忠実な作品と、多少リストらしさを前面にだしたものとが混在しています。

ところが、ロベルト・シューマンメンデルスゾーン1840年代であるにも拘らず、実に原作に近いものとなっています。シューマンの「献呈」や、メンデルスゾーンの歌曲では特に有名な「歌の翼に」はこれがリストの編曲なのかと首をかしげてしまうくらいです。

これらの作品がなぜ生み出されたのか?様々調べてもネット上には情報はありませんが、可能性としては、当時の社会状況から考えて、要請によって編曲されたと考えるのが妥当だろうと思います。リストとしても同じピアニストの作品を編曲することは勉強にもなることから、引き受けたのだろうと思います。

1874年に成立したクララ・シューマンの作品の編曲などもその可能性はありますし、或はリストが尊敬してという可能性もあります。時代的には作曲に専念している時代なので。編曲の素直さなどから考えますと、これらの編曲をリストが嫌がっていたとはあまり考えにくいと思います。

前期ロマン派の時代は、音楽の市民化が始まった時代と言ってもよく、市民が気軽に音楽に触れることができるようになった時代です。ですから、あの作曲家の作品をピアノで弾きたい!という要請があっても不思議ではないのです。それはすでに古典派の時代、モーツァルトの時代でもあったことなのです。モーツァルトが自作のピアノ協奏曲第14番を、オケとピアノではなく、ピアノ四重奏曲へと編曲したことを思い起こしてください。同じことが作曲者自身ではなく、社会の要請で行われるようになった、と考えれば腑に落ちるのです。

それがピアノという楽器の実力なのです。私も以前は、オケ作品大好き人間でしたから、ピアノの本当の「力」というものを過小評価し、聴くことを避けてきました。しかし今は違います。様々な人との縁により、ピアノの本当の力を知りました。この全集を借りたのもそれが理由です。

この第6集は、そうしたリストが生きた「時代」というものを、明確に私たちに教えてくれるのです。ナクソスは実に「粋」な編集をするなあと、感心します。

演奏は、ジョゼフ・バノウェツ。歌曲がベースになっているせいなのか、すべてピアノを歌わせています。特にそれが顕著なのがシューマンメンデルスゾーンです。リストの超絶技巧からはかなり離れたものですが、実に素晴らしい仕事をリストがしていることを、のびのびとした屈託のない演奏で私たちに教えてくれます。

伸びやかで、晴れやか。まるで青空が見えるかのような演奏は、リストが作品に込めた想いが、自然と湧き上ってくるようです。それはピアニストが楽譜から明確に読み取っているからなのかもしれません。キラキラ光る演奏が楽しめる音源だと思います。ナクソスだからと言って侮るなかれ!

こういったライブラリがある県立図書館、いい仕事しています。




聴いている音源
フランツ・リスト作曲
6つのポーランドの歌G/S480、R145(1847-60)
ショパン:17のポーランドの歌作品74より)
おとめの願い

指環
バッカナール
私のいとしい人
家路

クララ・シューマンの歌曲による編曲G/S569,R257,Nos.8-10(1872)
なぜあなたは他の人にたずねるのかOp.12,No.3
私はあなたの目のなかにOp.13,No.5
秘密のささやきOp.23,No.3

ロベルト・シューマンの歌曲による編曲(12曲)
春の訪れOp.79,No.19(G/S569,No.3,R257,No.3)
牛飼の別れOp.79,No.22(G/S569,No.4,R257,No.4)
そう、春なのだOp.79,No.23(G/S569,No.5,R257,No5)
クリスマスの歌Op.79,No.16(G/S569,No.1,R257,No.1)
ただあこがれを知る者だけがOp.98a,No.3(G/S569,No.6,R257,NO.6)
歩きまわる鐘Op.79,No.17(G/S569,No.2,R257,No.2)
私は戸口に忍び寄りOP.98a,No.8(G/S569,No.7,R257,No.7)
日の光に寄すOp.36,No.4、私の恋人は赤い薔薇のようだOp.27,No.2(リストによる2曲結合 G/S567,R257)
プロヴァンスの歌Op.139,No.4(G/S570,R254)(1881)
献呈Op.25,No.1(第1版)(G/S566a,R253a)(1980年出版)
献呈Op.25,No.1(演奏会用版)(G/S566a,R253b)(1848)
春の夜Op.39,No.12(G/S568,R256)

メンデルスゾーンの歌曲と合唱曲による編曲(9曲)
月曜日の歌Op.No.5(G/S547,No.2,R217,No.2)(1840)
冬の歌Op.19a.No4,(G/S547,No.6.R217,No.6)
歌の翼にOp.34,No.2(G/S547,No.1,R217,No.1)
ズライカOp.34,No.4(G/S547,No.7,R217,No.7)
舟歌Op.50,No.4(G/S548,R218)(1848)
狩人の別れOp.50,No.2(G/S548,R218)(1848)
新しい愛Op.19a,No.4(G/S547,No.4,R217,No.4)
旅の歌Op.34,No.6(G/S547,No.3,R217,No.3)
春の歌Op.47,No.3(G/S547,No.5,R217,No.5)(1840)


ジョゼフ・バノウェツ(ピアノ)




地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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