今月のお買いもの、平成28年1月に購入したものをご紹介しています。今回はディスクユニオン新宿クラシック館にて購入しました、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの作品集の、第2集をご紹介します。
ジャンルの全集ではないので、収録されている作品が必ずしもそれ以前のものとは異なることがありますが、この第2集もそうで、第1集で収録されていたピアノ独奏曲とは違い、今度は室内楽が中心になります。この第2集ではクラヴィーアとフルート(フラウト・トラヴェルソ)、ヴィオラの三重奏曲が収録されています。
カール・フィリップと言いますと、後世の作曲家たちへの影響からすれば、クラヴィーアやチェンバロ協奏曲などのほうがどうしても注目されるところですが、実際にこの第2集に収録されている作品を聴きますと、室内楽にも優れた作品があることに気が付かされますし、またその編成も独創的です。
独創的というか、時代をよく写しているとも言えます。三重奏曲と言えば、古典派であればヴァイオリンとヴィオラとチェロ、或はヴィオラやチェロに加えてピアノが入ったり、或はその代わりに他の楽器が入ったりするのが普通なのですが、この第2集に収録されている作品には、ヴァイオリンが全く出てこないからです。
え、では低音楽器はどれなんですか?と言われれば、迷わずクラヴィーアですと答えます。この演奏はクラヴィーア、つまりフォルテ・ピアノが使われていますが、時代的にチェンバロからクラヴィーアへの移行期であったことを考えれば、無ければチェンバロでも代用可で作曲している可能性が高いからです。であれば、バロックであればチェンバロは通奏低音を担当する楽器でもあったわけで、当然低音楽器はクラヴィーアであると言えましょう。
でも、ここでは必ずしもクラヴィーアは通奏低音だけを担当せず、主旋律も担当しています。場合に寄っては3つの楽器が対等ですらあります。そこに、カール・フィリップという作曲家が生きた時代と、先進性を見ることができます。
4つの作品の内、三重奏曲がWq93とWq94、Wq95であり、後の一つのWq133はフルートと通奏低音のためのソナタです。3つの三重奏曲では各楽器がかわるがわる主旋律を担当し、Wq133ではクラヴィーアは通奏低音です。この4つを聴くだけで、カール・フィリップがすでにモーツァルトを用意しているのがはっきり見て取れます。
つまり、モーツァルトは明らかにカール・フィリップからその様式を受け継ぎ、さらに洗練させ、古典派らしくした作曲家であり、ベートーヴェンはさらに各楽器を対等にしていったと言えるでしょう。モーツァルトやベートーヴェンの源を辿れば、ハイドンよりもさらに古い、このカール・フィリップに辿りつくことがお分かりでしょう。ハイドンもその上で、古典派を切り開いていった一人だったのです。
よく、私がハイドン→モーツァルト→ベートーヴェンは必ずしもないですよという理由が、このカール・フィリップの作品たちの様式や編成でもお分かりかと思います。だからこそ、この作品集の購入に踏み切ったのですから。10枚組という、かなりブログで上げるにはハードな枚数があるにもかかわらず・・・・・
Wq93は短調であるせいか、多少重々しく感じられる作品ですが、それでも軽妙さは失っていませんし、Wq94は長調なので軽妙さが全面に出ている作品です。フルートソナタと言えるWq133は古典的と言いますか、通奏低音がまさしく伴奏に徹している古い様式ですが、フルート(フラウト・トラヴェルソ)の可愛らしさが印象的です。Wq95はふたたび三重奏曲で、バロックらしい音の動き回りと共に、装飾音があまり聞こえず、それが自然で、様式的に明らかに新しさが見受けられます。
3人のソリストによって演奏されているこの演奏は、まさにバロック〜古典派の時代の様式を表わしていますが、三重奏曲となるとそれが普通であるわけです。モダンであってもソナタはソリスト二人で演奏されるのが常ですが、それは実はバロック〜古典派の時代に普通であった演奏様式のなごりであるとも言えます。ですから、現代になるとソナタは兄弟姉妹で演奏したり、夫婦で演奏したりということが出てきますが、それは一つの「楽団」でもあるので、実に現代的な演奏スタイルだと言えるのですね。じつは赤の他人がセッションするのがバロック〜古典派の時代のスタイルであるという事は、知っておいた方が良いように思います。
楽壇ではないソリストがセッションするとどうなるか・・・・・そんなドキドキ感を与えてくれるのが、バロック〜古典派の時代における、ソナタや三重奏曲と言ったジャンルが果たした役割だったと言えるでしょう。
この演奏からは、その赤の他人同士なのに、楽しさが伝わってきます。セッションすることが楽しい・・・・・演奏からそれが伝わってくることはとても素晴らしいことだと思います。ともすればメッセージなどないこの作品たちですが、演奏してみれば楽しい・・・・・それでいいじゃないかと思います。
私も、メッセージを発することは好きですし、そういった作品が大好きです。でも、メッセージがない、単に演奏すると楽しいと言う作品も好きなのです。音楽は文字通り音を楽しむとあります。メッセージも含めて、その音を楽しむことが音楽であり、喜びであろうと思います。であれば、この演奏はその音楽の神髄を、十分に伝えてくれていると言えるでしょう。
それにしても、ピアノフォルテが全く他の楽器に負けていない・・・・・やはり、ガーディナーの演奏の編成はおかしいと、この演奏を聴いても思います。
聴いているCD
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ作曲
三重奏曲イ短調Wq93
三重奏曲ニ長調Wq94
フルートと通奏低音のためのソナタ ト長調Wq133
三重奏曲ト長調Wq95
アンドレアス・シュタイアー(ピアノフォルテ)
ウィルバート・ハゼルツェット(フラウトトラヴェルソ)
ハヨ・バース(ヴィオラ)
(deutsche harmonia mundi 88843021622-2)
地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。
このブログは「にほんブログ村」に参加しています。
にほんブログ村
にほんブログ村
にほんブログ村
にほんブログ村