かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:モーツァルト弦楽四重奏曲全集8

今回の神奈川県立図書館所蔵CDは、モーツァルト弦楽四重奏曲全集の第8集です。モーツァルトの弦四も最後まで来ました。「プロシア王四重奏曲」の最後の二つ、第22番と第23番です。

実は、「プロシア王四重奏曲」は6曲作曲されるはずでした。実際、モーツァルトも6曲作曲を請け負っています。しかし、実際に出来上がったのは3曲だったのです。

それがなぜかはわかっていません。ただ、出版された時に、本来あるべき献辞(献呈の辞)がないということが、想像力をかきたたせてくれます。

プロシア王四重奏曲」はその名の通り、当時のプロシア王であったヴィルヘルム2世が依頼したことからこの名がついていますが、その王への献辞がないのです。実は、たった3曲にモーツァルトとしては珍しく1年をかけています。そして、その成立時期が1789年から90年(第22番が90年5月、第23番が90年6月)にかけてという時期なのです。

そう、モーツァルトがなくなるほぼ1年前なのです。どれだけモーツァルトの曲を聴かない人が増えてしまったかが分かる一例だと思います。

前回も触れましたが、モーツァルトは当時微妙な立場にあった作曲家であったと思います。それまで体制側から依頼をされて作曲を続けてきたわけですが、モーツァルト自身も自我に目覚め当時の市民革命思想に染まっていきます。そうなると当然ですが音楽も変わってきますがそれがまず体制側には受け入れられられず、その体制側も次第に音楽どころではなくなってきます。いっぽうで市民が力をつけてきますが、モーツァルトはいまいち知名度が低い。

そういったジレンマに陥っていたのが、当時のモーツァルトだったと思っています。それを打開しようと作曲されたのが、他ならぬ名作ジングシュピールである「魔笛」です。それでこれからは市民のために曲をと思っていた矢先、死に至るわけです。

死についてはいろんな研究がなされていますが、当然ですが私は音楽をより多く作曲し続けなくてはならないということが、精神的にも肉体的にも負担になっていったのではと思っています。当時モーツァルトはいろんなジャンルの作曲を抱えていましたが、周りの状況がそれに集中させてくれない中でしかも書くべき、あるいは書きたい曲が山ほどあるという状態が続いていたのだと思います。

それをうかがわせる証拠が、このプロイセン四重奏曲が作曲された時期に集中的に残されている弦楽四重奏曲の断片です。それをどうとらえるかで学者の中で意見が割れていますが、一つはっきり言えることは、モーツァルトはこの時期より良いものを目指して、とにかく数多くの作品を生み出そうと努力していたということです。モーツァルトは頭の中でスコアが完成していると言われていますが、それは必ずしも100%完璧ではないときもあったことを、この事実は教えてくれます。そして、この最晩年はそういったことが多かったということもです。

そんな断片がいくつも生み出される中から、選りすぐりの作品として残されたのがプロシア王四重奏曲であったと言えるでしょう。そして、なぜ献辞がついていないのかを想像するに、私はやはり6曲作曲したかったのだと思っています。それが「死」によって3曲しか果たせなかったというモーツァルトの「想い」が伝わってくるのです。

この3曲は死後に出版されています。もし生前にモーツァルトから指示があったとすれば、献辞がない理由ははっきりしていたでしょうし、もしかすると3曲だけでも献辞が添えられていたかもしれません。それがないということは、つまり献辞を添えるつもりだったのに、それすら果たせないままになってしまったことを意味するように思われるのです。

私は、ヘビーローテーションで聴いているのはハイドン・セットですが、その次に好きなのがこのプロシア王四重奏曲です。明らかに次のベートーヴェンを用意するような、突き抜けた気高さと気品は、それまでのモーツァルトの美しさとは多少異質のものです。特に精神性を感じる音楽は、まったく違うとまで言い切っても差し支えないのではと思います。

イタリア四重奏団は、それを意識してか、この第8集でもアインザッツが「強め」ではなく強く、緊張感ある演奏をしています。それはこの2曲を引き立てていますし、またそういった表現はまさしく的を得ているなあと思います。モーツァルトの作品というのは、どのジャンルを聴きましても晩年になるにしたがって緊張感のある作品が多くなるように思うのは私だけなのでしょうか?

それだけに、こういった作品は例えば、アルバン・ベルク四重奏団の演奏でも聴きたいと思います。ハーゲンでも面白いかもしれません。プロシア王だけでも、他の演奏家のものを別に持っても面白いかもしれないなと思います。



聴いている音源
ヴォルグガング・アマデウスモーツァルト作曲
弦楽四重奏曲第22番変ロ長調K.589「プロイセン王第2番」
弦楽四重奏曲第23番ヘ長調K.590「プロイセン王第3番」
イタリア四重奏団



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