神奈川県立図書館所蔵CDのコーナーは、今回から8回にわたってモーツァルトの弦楽四重奏曲全集を取り上げます。今回はまず第1集です。
この全集は小学館の「モーツァルト全集」からのものです。本当は単独で全集があるとさらにいいのですけれども・・・・・
さて、この全集を借りようと思ったきっかけは、ずいぶん前にさかのぼります。と言っても今から3年程前くらいになりますけれど、図書館に通い始めてすぐの時に、私は所謂「ハイドン・セット」を借りています。実はその時以来、いずれは全集をと考えていたのです。
弦楽四重奏曲と言えば、ハイドンがそのジャンルを確立した室内楽ですが、この第1集に収められている楽曲は、そのハイドンの影響を主に形式面で受けています。第1番から第5番までがこの第1集には収められていますが、ほとんどが3楽章なのです。
第1番は1770年の作曲で、4楽章制を採ります。ここで注目なのは、第1楽章がまるで序曲のごとく、緩徐楽章となっていることです。これはハイドン同様、第2楽章と第1楽章がひっくり返った構造です。
続く4曲は、「ミラーノ四重奏曲」と呼ばれるもので、1772年のイタリア旅行の際、ミラノに宿泊した時に作曲されたと言われる6曲を言います。この第1集にはそのうち4曲が番号順に第5番までが収められています。1772年の10月から12月にかけて作曲されたものです。
第2番から第5番まで3楽章で、第3番には緩徐楽章アダージョの異稿(ほぼ同時期に作曲)が存在し、それも収録されています。特に第3番の第2楽章の二つの稿は彼が作曲した時代をそれぞれ反映したもので、どちらも味がある作品です。決定稿は多感様式的な目くるめく音楽という感じですが、第1稿はもっと落ち着いたものとなっています。様式的には決定稿のほうが古いという点が、とても興味深いと思います。なぜならば、それがモーツァルトの学習の後をうかがわせるからです。
このミラーノの滞在では、モーツァルトは様々な作曲家とその音楽に触れ、吸収していったことが知られていますが、その証拠が第3番の第2楽章の二つの稿であるわけなのです。こういったものを収録する点は、さすが「モーツァルト全集」であり、結果これを借りてよかったと思う瞬間です。
それにしても、4楽章制を呈示したモーツァルトでしたが、その後しばらく3楽章の曲が続くという点には、まずは自分で作曲してみたけれども、少し先人の作品を研究・吸収してみようという意識をうかがわせます。このあたりは、交響曲とはちょっと違う点になります。
こういったことが知ることが出来る点が、「順番に聴く」ということの利点です。もちろん、中には後にそれほど聴かなくなる曲もありますが、それでもモーツァルトの曲は気軽に聴けますのでふとしたときに聴くこともたびたびなので、私としては決して全集を持つことはマイナスではなく、むしろプラスになることばかりです。
演奏面では、とにかくアインザッツの強さが素晴らしい!アクセントのつけ方も絶妙ですし、それが聴く者に爽快感を与えているように思います。ただ、もう少し軽めに演奏してもよかったのではとも思います。モーツァルトの時代では、弦楽四重奏曲はおろか、室内楽曲にそれほど深刻な舞台設定をしません。アルバン・ベルク四重奏団のような演奏も素晴らしいですし、それゆえに気高さすら存在し、モーツァルトの音楽が決して軽薄ではないということを証明していますけれど、もう少し軽さがほしいのです。
その点は、残念だなあと思います。
聴いている音源
ヴォルグガング・アマデウス・モーツァルト作曲
弦楽四重奏曲第1番ト長調K.80(73f)
弦楽四重奏曲第2番ニ長調K.155(134a)
弦楽四重奏曲第3番変ホ長調K.156(134b)
弦楽四重奏曲第4番ハ長調K.157
弦楽四重奏曲第5番ヘ長調K.158
イタリア四重奏団
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