かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:ブラームスとベートーヴェンの複数楽器の協奏曲集

今回の神奈川県立図書館所蔵CDのコーナーは、ブラームスベートーヴェンの「複数楽器の協奏曲」を取り上げます。ブラームスは昨日も取り上げたヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲、そしてベートーヴェンはさらにピアノを加えた三重協奏曲です。

さて、昨日「この演奏を超えるものがあるのか」と述べましたが、実はこの音源と昨日の音源とは一緒に借りているのです。あっさりと、ものの1時間も経たないうちにこの演奏が超えてゆきました・・・・・

ヴァイオリンはオイストラフ、チェロがロストロポーヴィッチ。指揮がセルで、オケがクリ―ヴランド。そして録音年代がセル/クリ―ヴランドが一番脂がのっている60年代後半。とても端正で素晴らしいアーノンクール/ロイヤル・コンセルトへボウでも、さすがにこの演奏には脱帽でしょう。

ソリストの勢いとそれゆえに作り出される高貴な世界。土臭いブラームスが一瞬にして気高き存在へと変わっています。

それを受けての、ベートーヴェンブラームスがそれだけ気高いのであれば、当然ベートーヴェンもそうなりますが、この音源は二つの曲で事情がちょっとだけ異なるのです。実はこの音源、クラヲタには垂涎の名盤(そして今でも、国内盤が存在しさらには輸入盤であれば1300円程度で購入が可能です。銀座山野および横浜関内ブレミア・ムジークで存在を確認済みです)でして、もう一方は指揮がカラヤン、オケがベルリン・フィルなのです。そして、新たに入る楽器であるピアノはリヒテルと、もうおなか一杯というほどの豪華メンバー。

悪かろうはずがないのです。しかし、ベートーヴェンのその曲は、決して評価が高くはありません。

三重協奏曲 (ベートーヴェン)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E9%87%8D%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3)

ところが、この演奏を聴きますと全くそんな印象がありません。それどころか、この曲の素晴らしさだけが前面に押し出されています。演奏のせいもあるのかもしれません。端正でありながら、強いアインザッツ。それによって引き出される更なる精神性とそれによる気高さ。

この曲のどこか「失敗作」なのかが全く見えてきません。

そういわれる理由はピアノにありますが、私としては違った見方をしています。もし、ベートーヴェンがピアニストにルドルフ大公を念頭に置いて作曲したとするならば、7曲あるピアノ三重奏曲のそもそものレヴェルの高さから言って、「処理しきれていない」のではなく、「あえて処理しなかった」とみるべきなのではないか、と思うのです。

実はピアノは終始、通奏低音的な役割に徹しています。こういった作曲はベートーヴェンとしては珍しいと思いますが、しかし決して全くやっていないわけではありません。ピアノ曲ではソナチネでもやっている作曲技法ですし、また、少しレヴェルは上がりますが合唱幻想曲でも同じようなピアノの使い方はやっていますから、どう考えてもそもそもピアニストでありヴァイオリンとヴィオラが弾けたベートーヴェンが「ピアノ三重奏曲を処理しきれなかった」わけがありません。わざとやったのです。

そして、それがまさしくウィキにある通り、「ピアノのパートが演出面では実に効果的」になっているわけなのです。

つまり、ベートーヴェンはそもそもピアノがルドルフ大公であるということを考え、全体のバランスを考え抜いたうえでピアノパートを作曲しているとしか思えません。この点はピアノの専門家にもお考えを伺いたい点ですが、どう考えてもベートーヴェンが「手に負えなかった」ものとは思えません。

実際、この演奏のような豪華なソリストたちが演奏したら、まったく別な高貴な顔がのぞいてきます。ベートーヴェンらしい、気高さがきちんとにじみ出ています。

ベートーヴェンという人は、確かにハンマークラヴィーアのエピソードのように、演奏者のことを考えていないことも有りますが、この作品を作曲した時期と言えば、室内楽ではもうひとつ、弦楽四重奏曲を忘れています。丁度第6番までの作品18を作曲した時期であるということです。

弦楽四重奏曲第1番 (ベートーヴェン)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC1%E7%95%AA_(%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%B3)

実際にはこの三重協奏曲より3年ほど早い時期に作曲されていますが、すでにラズモフスキーへ至るだけのクオリティを持っています。

しかも三重協奏曲をmusiker氏の言う「交響曲で実験し、弦楽四重奏曲に反映させる」というテクストで考えた時、三重協奏曲の評価はまるで変ってきます。つまり、三重協奏曲は彼のピアノ三重奏曲の作曲の道程の一つであって、三重協奏曲で実験したものをピアノ三重奏曲に反映させた、と考えたら、いったいどうなるでしょう。

この後生み出されるのは、「幽霊」から始まる素晴らしい3作品で、まさしく彼の中期の傑作ばかりです。つまり、処理しきれなかったのではなく、わざと処理をしなかったというほうが適切だと思います。もし、ラズモフスキーのような機会が訪れていたとしたら、この曲はもっと姿が変わっていたことでしょう。

カラヤンの近代的な一切の無駄を省いた解釈と、素晴らしいソリストによって、私はこの曲の素晴らしさを知りましたし、実際カップリングのブラームスより好きなのです。カラヤンという稀代の指揮者の手によって、有名なブラームスに匹敵するだけの作品であることを、教えてくれています。



聴いている音源
ヨハネス・ブラームス作曲
ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲イ短調作品102
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲ハ長調作品56
ダヴィド・オイストラフ(ヴァイオリン)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィッチ(チェロ)
スヴィアトスラフ・リヒテル(ピアノ、ベートーヴェン三重協奏曲)
ジョージ・セル指揮
クリーヴランド管弦楽団ブラームス
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ベートーヴェン



このブログは「にほんブログ村」に参加しています。

にほんブログ村 クラシックブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 クラシックブログ 合唱・コーラスへ
にほんブログ村

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。