かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

コンサート雑感:宮前フィルハーモニー交響楽団第33回定期演奏会を聴いて

コンサート雑感、今回は9月11日に行われました、宮前フィルハーモニー交響楽団の第33回定期演奏会を取り上げます。

一応、説明がてら宮前フィルのサイトのURLをご紹介しておきましょう。指揮者守谷弘氏を中心にして地域の有志がパソコン通信によって結ばれて1991年に設立された川崎市宮前区にあるアマチュアオーケストラです。

http://orchestra.musicinfo.co.jp/~miyamae/

宮前フィルに関しましては、以前このブログでもエントリで紹介しています。

想い:オーケストラとの関わり方を考えよう
http://yaplog.jp/yk6974/archive/244

想い:オケのアンサンブルは室内楽から
http://yaplog.jp/yk6974/archive/281

上記二つのコラムは、この宮前フィルハーモニー交響楽団との出会いがなければ書けなかったことでしょう。そもそも、宮前フィルの地元でベートーヴェンの第九を演奏するということになり、そのチラシを最寄駅の掲示板で見かけたことから、お付き合いが始まっています。

私は姉妹団体の合唱団員でしたが、その関係から彼らの定期演奏会には何度も足を運んでいます。そしてだんだん上手になっていくのを見守っていましたが、数年前から体調を崩してからは足が遠のき、ようやく癒えてきた今、20周年であることで足を運ぼうと思い立ちました。ですから、彼らの定期演奏会へ足を運ぶのは久しぶりの事でした。

本来、私は第32回定期演奏会に足を運ぶ予定で、チケットも買っていました。そもそもそれが20周年の記念演奏会になる予定でした。ところが、その演奏会は東日本大震災で中止となってしまいます。なぜなら、第32回定期演奏会は会場がミューザ川崎で予定されていたからです。

想い:よみがえれ!ミューザ川崎
http://yaplog.jp/yk6974/archive/597

中大オケを聴いたミューザで、宮前フィルがどれだけ上手になっているのか聴かせてくれると思ったら、いてもたってもいられませんでした。

音楽雑記帳:実力をつけた中大オケ
http://yaplog.jp/yk6974/archive/477

しかし、その演奏会はいったん中止となり、そのうちにオケのサイトでは来年末へ延期と発表がありました。そして、20周年記念演奏会は第33回定期演奏会にて行いますとの発表がありました。その演目は、実に懐かしいものでした。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲と、ベートーヴェンの「運命」。ともに以前、宮前フィルでしかも同じ会場で聴いたものでした。ロケーションは川崎市宮前市民館。

メンデルスゾーンソリストも一緒で天満敦子さん。その時の記憶が一気によみがえってきました。あの時はオケが下手だったなあ・・・・・しかし、彼らのことだから、きっと今では上手になっているに違いない。

その期待に、今回は予想以上に応えてくれました。

まず1曲目は、東日本大震災犠牲者追悼の意味で、フォーレパヴァーヌです。

パヴァーヌ (フォーレ)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%83%8C_(%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%AC)

1886年にまず管弦楽曲として作曲され、翌1887年に合唱パートも追加されましたが、今回は管弦楽版で演奏されています。実はこれも以前同じホールで演奏しています。1995年7月5日、第4回定期演奏会。この時は阪神大震災犠牲者追悼でした。その時も同じ管弦楽版でしたが、その時同様、今回も拍手はご遠慮くださいとのアナウンスがありましたが、しかし拍手が起こってしまいました。

実はこの演奏会はいろんな意味でチャリティー演奏会でした。まず、収益金のすべてを、震災で楽器を失ってしまった子供たちが楽器を購入するための資金として寄付されます。その上で、被災者は無料で招待されていました(70歳以上のお年寄りも無料なのですが、実はそれは宮前フィルであれば恒例です)。

今、被災者は福島第一の件もあり全国に散らばっています。当然、宮前フィルの地元、川崎市宮前区にもいらっしゃることでしょう。オケのそういういきさつを知らない、あるいはクラシックにおけるマナーに慣れていないため、なぜ拍手をしてはならないかが理解できなくて、感動して拍手してしまったのだと思います。それは間違いなく、宮前フィルの演奏に感動した証しでもあります。

しかし、まずこの曲では私は少し残念に思っていました。それは拍手が起こってしまったことではなく、以前からこのオケの欠点(それはアマチュアオーケストラには共通すると思いますが)なのですが、出だしが合わないのです。しかし、アンサンブルが崩れそうになるという以前の性質はほとんどないのです。

つまり、アンサンブルは上達しているのに、本来はそれであれば合うはずの出だしが合わないからです。

なぜなのかな〜っと不思議に思っていましたら、終わった時ふと気が付きました。実は、ヴァイオリンが両翼に配置されている「18世紀シフト」だったからです。

これはいつもヴァイオリンが並んで演奏しているオケがいきなりやりますと合わないことがあり、それはプロオケでも生じます。以前、マイ・コレのコーナーのエントリでご紹介しています。

マイ・コレクション:宇野功芳 運命
http://yaplog.jp/yk6974/archive/375

ほぼこの時の新星日本交響楽団(現東京フィルハーモニー交響楽団)とおなじ現象が起こったと考えてくださって結構です。音が遠くで鳴るわけなので、合いにくいんですね。なるほど!と合点がいきました。

しかし、それを次のプログラムで修正するのはさすがです。この点が本当に上達したな〜と感じた点です。なでしこジャパン以上の修正能力かもしれません。第2曲目はヘンデルの水上の音楽(ハーディ版)です。

水上の音楽
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E4%B8%8A%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD

これも以前このブログでもエントリを取り上げていますが、宮前フィルが採用したのはH.ハーディが6曲を抜粋してフルオーケストラ用に編曲したものです。

ハミルトン・ハーティ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3

この編曲の特徴は弦が大活躍する点です。ヘンデルの原曲では管楽器が活躍しますが、それ以上に弦楽器を重視した編成となっていて、その上で6曲をもともと抜粋しているという点です。まさしく、アマチュアオーケストラの「中プロ」にぴったりです!

抜粋されているの次の6曲です。

・Allegro
Air
・Bourree
・Hornpipe
Andante espressivo
・Allegro deciso

6曲目は所謂「アラ・ホーンパイプ」で、水上の音楽で一番有名な曲です。それを最後に持ってきているのが特徴で、本当に美しいと思いました。それも、宮前フィルが確かにアンサンブルが上達した結果です。

決して気をてらう演奏ではありませんし、変態演奏でもありません。でも、感動がじわじわと湧き上ってくるのです。最後ふわっと終わる点も、中大オケを髣髴とさせる素晴らしい処理でした。指揮者の指導力も素晴らしいのだと思います。

それがうかがえるのが次のメン・コン、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲です。

ヴァイオリン協奏曲 (メンデルスゾーン)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2_(%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%B3)

メン・コンと省略されることが多いのですが、メンデルスゾーンはピアノ協奏曲も書いており、決してヴァイオリン協奏曲だけがメンデルスゾーンの協奏曲ではないので、本来はメンデルスゾーンのヴァイ・コンと略すべきなのですが、あまりにもヴァイオリン協奏曲が有名であることからメン・コンと略されることが多いです。

13年前、同じ天満さんとの共演は、オケの実力が不足していたことから、天満さんのひとり舞台的な部分があり、私も天満さんの艶のある演奏しか記憶に残っていません。しかし今回はその立場が逆転しました。開始早々、天満さんがびっくりなさっているのが手に取るようにわかるのです。そして、開始は指揮者から軽くと言われているのを徹底するのに精いっぱいであるのが伝わってきました。明らかにオケに引っ張られているのが分かるのです。

それは間違いなく、オケのアンサンブルが素晴らしいことを意味しています。それを受けて、ソリストに力が入るのですね。しかし、力が入ってしまうと豊かな表情が付けられなくなります。以前から私が言う「情熱と冷静の間」のバランスが取れなくなるのです。明らかに天満さんが感動してそのバランスを取るのに苦労している姿がそこにはありました。

プログラムで天満さんは、特に第三楽章、指揮者からは表面的に演奏しましょうと言われ、それこそこの曲の美しさであると共感しています。しかし、実は今私は以前「今月のお買いもの」でご紹介したメンデルスゾーンのピアノ協奏曲を聴きながら書いていますが、それを聴きますと単なる表面的なものだけでなく、もっと深い部分もしっかりあるので、多分指揮者は余分な力を抜くことを目的にその指示を出したのだと思っています。

今月のお買いもの:メンデルスゾーン ピアノ協奏曲第1番・第2番、2台のピアノのための協奏曲
http://yaplog.jp/yk6974/archive/478

このCDではピアノ協奏曲の第1番と第2番は指揮がケーゲルです。ケーゲルは激しい演奏で有名で、其れゆえの変態演奏で数々の名演・名盤を生み出した指揮者です。その演奏を聴きますと、決して表面的ではなく、むしろもっと深いところを大事にしながら、かつ重苦しくないように演奏されています。それを指揮者が目指したくて、表面的にという指示を出したのだと理解しています。アマチュアはどうしても力任せに演奏しようとしますので。その力を抜き、とにかく軽めにしっかりと演奏することを目指したのだと思います。結果、今回は適度にどっしりとしたオーケストラの演奏に天満さんの表現力豊かで艶のある音色が溶け合い、まさしくアンサンブルしていたのです!

これぞ、クラシックファンが聴きたい演奏でしょう。金管がもう少し加減をすれば、名演であると断言してもいいくらいで、CD化してもいいくらいだと思います。アマチュアオケでもこれだけ天満さんとアンサンブルできる、いや、天満さんが尻込みするくらいの演奏ができ、その結果最高のアンサンブルが可能になるんだというメッセージにもなるように思います。できれば、日立フィルのようにCD化され販売されることを望みます。

特にその第3楽章のオケとの掛け合いは、本当に感動しました。今回のコンサートで私がブラヴィ!をかけたのは実はこのメン・コンだけです。最後、これもふわっと終わるのがよかったですね。それも、アンサンブルが素晴らしくないと美しくはなりませんが、それが美しいのです。だからこそ、ブラヴィ!をかけたのです。天満さんだけでは恐らくかけなかったでしょう。協奏曲、なのですから。

天満さんのアンコールはそれを受けて素晴らしいものでしたが、曲目を見てくるのを忘れてしまったので、それはご勘弁を。恐らく日本の曲のアレンジ(さくらさくらの旋律)だと思いますので、ぜひ天満さんのCDをお買い求めの上ご確認くださいませ(2011年9月19日:その後、オケの方から「中国地方の子守歌」とお知らせをいただいたので、ここで訂正しておきます)。

さて、休憩の後メインはベートーヴェン交響曲第5番です。その第1楽章、18世紀シフトであることが裏目に出てしまいます。テンポ感を団員がつかみきっていないため、出だしが微妙に合わないのです。しかし、それを演奏しながら修正していくのはさすがで、はやりなでしこジャパン以上の修正能力です。そしてその点こそ、何度も言いますがこのオケが上手くなったと思う点なのです。

そして、最終楽章。第3楽章から切れ目なく続く「勝利の音楽」の開始は、今まで私がアマチュアオケでは聴いたことがないような、いや、プロオケでも聴いたことがない、完璧な出だしとアンサンブルでファンファーレが鳴ったのです!

思わず小さな声で「よっしゃー!」とつぶやいていました。こういう第4楽章が聴きたかった!

もう、涙は止まりません。とめどなく流れる涙。誰もいなかったら、恐らく男泣きに泣いていることでしょう。「日本精神」に基づき、「義を見てせざるは勇なきなり」を信じて、このオケを応援してきてよかった・・・・・そう思った瞬間でした。

特にすばらしかったのは、主題展開部で盛り上がっていく部分です。実はスコアを見ますと、そこは音がだんだん上がっていきます。そこできちんと、上がるにしたがって強くしている点がよかったです。この曲は古典派の交響曲の集大成と言われます。であれば、当然高い音は強く、低い音は弱く、リフレインは弱くという基本に忠実で無ければなりません。それが完ぺきでした。音がもう少し痩せていなければ、完璧だったでしょう。アマチュアのレヴェルでは名演といっていい演奏だったと思います。

最後、これもふわっと終わった点は美しかったのですが、そこは私の美意識と異なったのであれ?と思いましたが、後から反芻するに、恐らく指揮者の今井氏は、この曲は運命に抗する人間の、将来への希望を描いたものであり、聴衆、特に被災者(演奏している宮前フィルも含めて)がそうあってほしいと願った結果なのだと思っています。それであれば、最後ふわっと終わったのも納得です。

それであれば、ミューザで演奏させてあげたかったと思いました。

アンコール曲はいつも掲示しているはずなのですが、諸事情により確認していませんが、それも素晴らしい演奏でした(2011年9月19日:これも後から、シューベルトの「ロザムンデ」より第3幕の間奏曲とご連絡いただきました)。全曲オーケストラが「情熱と冷静の間」を一生懸命表現しているのが、ひしひしと伝わる、真摯な演奏に感動です。

川崎では毎年年末に市民合唱で第九が歌われ、市内4つのアマチュア・オーケストラが順番で担当しますが、今年は実は宮前フィルが担当です。時間が取れましたらそれも是非、聴きに行きたいと思っています。



聴いたコンサート
創立20周年記念 宮前フィルハーモニー交響楽団 第33回定期演奏会
ガブリエル・フォーレ作曲
パヴァーヌ
オルグ・フリードリッヒ・ヘンデル作曲
水上の音楽(ハーティ版)
フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ作曲
ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64
天満さんアンコール:中国地方の子守歌
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第5番ハ短調作品67「運命」
オケアンコール:シューベルト 「ロザムンデ」より第3幕の間奏曲
天満敦子(ヴァイオリン、メン・コン)
今井治人指揮
宮前フィルハーモニー交響楽団
2011年9月11日、神奈川県川崎市宮前区、宮前市民館大ホール



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地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。