今回のマイ・コレは、フォーレのレクイエムです。セルジュ・ボド指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団です。
ところで、三大レクイエムというのがあるのをご存知でしょうか。モーツァルト、ヴェルディ、フォーレのものをさします。モツレクをきっかけに、それを集めて聴いてみようと思い立ったのです。
10数年前、とあるアマチュア合唱団にいたわたしは音楽監督によってモーツァルトの音楽への造詣を深めていったのですが、そこで出会ったのが「三大レクイエム」という言葉です。そのため、私は宗教曲はレクイエムから入っていったのです。
宗教曲としては「メサイア」から数えて3枚目ですが、ミサ曲としては2枚目になります。まあ、標準的な日本人のファンであれば大体このくらいで宗教曲は終わりになるところですが、私はこの曲をきっかけに徐々に宗教曲にはまってゆきます。
おそらく、それはこの演奏が持つ幻想的でかつ静謐な表現ゆえだと思います。ボドの指揮はそこに集約されています。pではとことん静謐で、合唱団には徹底的に発生を軽くさせているようです。でも、そのことが逆にこの曲に重々しさを与え、しかしその上どこか遠くに光が見えるような印象を与えます。
まるでそれは、暗く遠いトンネルの向こうに、かすかに見える出口のような・・・・・
それが、とても優しい音楽を全体として作り上げています。まるでベルベットに包まれているかのようです。
もともと、フォーレのレクイエムは転調がとても独特で、私も歌ったことがあるのですがその点を注意しないと間違えやすい部分も多々あります。しかしそのハーモニーが決まった時・・・・・涙が出るほど美しい音楽が出来上がります。
実際、歌っていて涙が出そうになることすらあり、それをこらえて歌うこともしばしばです。それくらい、美しい音楽です。それは多分に、フォーレが父を亡くしたことが作曲動機になっていることと無関係ではないと思います。
一番有名な「サンクトゥス」。ここは表現の切り替えが要求される、歌唱力としては非常に高いレヴェルが要求される曲なのですが、さすがプロです。その表現力は抜群です。最初は静謐な音楽で始まり、「いと高きところにオザンナ」では今度は力強く歌われます。そして最後は再び静謐な音楽と変わります。つまり、かなりドラマティックです。
フォーレのレクイエムは誤解されやすい曲です。名盤といわれるものになればなるほどそうなのですが、静謐な音楽となってゆきます。それは間違いではないですしその通りなのですが、実際は冒頭レクイエムの部分はかなり力強く歌わないといけないのです。そんな部分が実はちりばめられていまして、静謐と力強さとの切り替えがきちんとできるかがこの曲を演奏するときの要なのです。
その点ではこのボドの指揮は絶品です。これほど美しく、静謐で、かつ力強く、しかしそれがのびやかで、軽い演奏をほかではなかなか聞くことができません。これを含め、名盤といわれるものでないと難しいように思います。
まさしく、フォーレがなき父をしのんであてた手紙を読んでいるような、素晴らしい演奏です。
聴いているCD
ガブリエル・フォーレ作曲
レクイエム
長島伸子(ソプラノ)
ニコラス・リヴェンク(バリトン)
ロンドン・フィルハーモニー合唱団
セルジュ・ボド指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(学研Platz PLCC-617)