かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:リリンクとシュトゥットガルト・バッハ合奏団によるバッハカンタータ全集14

東京の図書館から、62回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、ヘルムート・リリンク指揮シュトゥットガルト・バッハ合奏団他によるバッハの教会カンタータ全集、今回は第14集を取り上げます。

第14集には第22番、第59番、そして第75番が収録されています。3曲ともライプツィヒで初演された作品で、ケーテン時代のカンタータを基にしているわけではありません。そのため、リリンクはこの3曲はライプツィヒ時代にカテゴライズしています。

カンタータ第22番「イエス十二弟子を呼び寄せて」BWV22
カンタータ第22番は、1723年2月7日に演奏された、復活祭用のカンタータですが、トーマス・カントル採用試験を兼ねたものでした。つまり、前回取り上げた第23番と同じです。

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ということは、この作品もおそらくはケーテンで作曲されたと考えていいでしょう。なのにライプツィヒ時代にリリンクは持ってきました。これはおそらくですが、リリンクは第13集と第14集は、ちょうどバッハがトーマス・カントルになる直前の時期の作品を集めたということなのだと思います。ですがCDに収録することを考えますとある程度時期を分ける必要があることを考えますと、第13集はケーテン時代に含め、第14集をライプツィヒ時代に含めることで、この時期の作品はちょうどトーマス・カントル就任直前の作品であることを示したかったのでしょう。

歌詞はこちらです。4曲しかないのも、第23番同様で、トーマス・カントル採用試験のために書かれたことを示しています。

www.uvm.edu

演奏も、ソリストと楽器のバランスが取れており、モダン楽器の特性を知ったうえで楽器の方を抑制させる形にしているのも特徴。故に歌詞を見ながら聴きますと噛みしめながら歌っているのもわかりますし、そのうえでリズムも大切にしていることに気が付かされます。リズムを大切にしているからこそ、歌詞が分からなくてもどこか幸せな気分にもなります。バッハがなぜ舞踊性をカンタータに持たせているのかの本質をよく理解している故でしょう。

カンタータ第59番「人もしわれを愛さば、わが言葉守るべし」BWV59
カンタータ第59番は1724年5月28日に初演された作品です。つまり、完全にライプツィヒ時代の作品と言えます。しかもこの年代は、バッハがトーマス・カントルに就任して1年ほど経った時期の作品です。

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え?トーマス・カントルになった記念のような作品は?と思われるかもしれません。それは次の曲になりますのでもう少しお待ちください。つまり、リリンクはいきなり1年ほど時間を飛ばした、ということになります。これは上記ウィキペディアでは下の方に記述がありますが、そもそもは1723年に作曲され演奏される予定だった可能性が高いのです。それが何等かの理由で先延ばしになり、1724年という段階での演奏になったと考えられています。それは作詞者ノイマイスターの詩が一部しか使われていないからです。東京書籍「バッハ事典」のBWV59の項目に拠れば、1723年の5月に演奏される予定だったのが延期され、1724年になったのだろうとの記述があり、そもそもこの第59番もケーテン時代に着想されていた曲の一つだと述べています。

そうなると、トーマス・カントル就任直後の作品よりは前に置くほうが適切ということになります。つまりリリンクはこの曲の成立は1723年であると判断しているということになります。

この曲でも、声楽に対し楽器は出しゃばらずバランスが良く、歌詞が浮き出る演奏になっています。

カンタータ第75番「貧しき者に食わせられん」BWV75
2部構成になっている壮大な作品であるカンタータ第75番は、栄えあるトーマス・カントル就任直後の第1作として知られています。1723年5月30日、聖ニコライ教会で初演されました。そう、第59番はちょうどほぼその翌年。おそらくですが、本来は第59番が演奏される予定だったのを、何らかの都合で第75番に差し替えたと考えられます。

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確かに、この第75番のほうが壮大・壮麗な作品です。内容は第59番よりも道徳的な側面が強く、地上での富の追求を戒め、貧しさを神の御心として受け入れることを説いています。それを2部制の大規模作品として会衆に聴かせる・・・バッハの一世一代の晴れ舞台と言えます。プロテスタントカトリックの堕落の象徴である「金による買収」を否定して成立した宗派です。それを踏まえますとこの内容はいかにもプロテスタントらしいですし、それを2部制の大規模な作品として演奏する機会は、バッハの晴れ舞台と言えます。しかるにこの曲に差し替えたと言っていいでしょう。

演奏も、合唱も含めた合奏と独唱とで、楽器の音のヴォリュームが異なっており、モダン楽器でも注意して演奏されています。そのコントラストが、時に侘しさ、時に愚かさ、時に喜びを存分に表現しています。モダン楽器でもやり方次第で十分バロック風に演奏できることを示した演奏は、現代においては特にアマチュアに勇気を与える演奏であると言えるでしょう。日本は豊かになりましたがアマチュア奏者がピリオド楽器を持てるほどではありません。アマチュア合唱団もバッハなどバロック期の作品を演奏する場合はプロのピリオド奏者に頼むことはよくあることです。ですが財政的なことを言えば、上手なアマチュアオーケストラとコラボするほうが安価に決まっています。そして安価であることは、より多くの人が芸術に触れる機会を作ることにつながります。

その点で、私はリリンクの演奏を高く評価しています。ともすればモダン楽器の演奏はバロック的にならないこともあるのですが、リリンクはバッハの音楽の本質からタクトを振っていると演奏を聴きますと気付かされます。ピリオド楽器はピッチが・・・という人は是非ともリリンクの演奏を聴いてほしいと思います。

 


聴いている音源
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第22番「イエス十二弟子を呼び寄せて」BWV22
カンタータ第59番「人もしわれを愛さば、わが言葉守るべし」BWV59
カンタータ第75番「貧しき者に食わせられん」BWV75
アーリン・オジェー、インゲボルグ・ライヒェルト(ソプラノ)
ヘレン・ワッツ、ヴェレナ・ゴール(アルト)
アダルペルト・クラウス(テノール
ヴォルフガング・シェーネ、二クラウス・テューラー、ハンス=フリードリッヒ・クンツ(バス)
ヘルムート・リリンク指揮
ゲッヒンゲン聖歌隊
フランクフルト聖歌隊
シュトゥットガルト・バッハ合奏団
ヴュルッテンブルク室内管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。