かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~小金井市立図書館~:ガーディナーとオルケストレル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティクのベートーヴェン交響曲全集2

東京の図書館から、4回シリーズで取り上げております、小金井市立図書館のライブラリである、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮オルケストレルレヴォリュショネル・エ・ロマンティクの演奏によるベートーヴェン交響曲全集、今回は第2集を取り上げます。

第2集に収録されているのは、交響曲第3番「英雄」と第4番。この二つがしっかりカップリングされるのは珍しいとも言えます。「英雄」も50分程度かかる曲ですし、第4番も30分ほどかかるからです。

しかし、この第2集における「英雄」はなんと43分程度・・・快速すぎます。さすがは古楽演奏。しかし、問題はその質、つまりはどこまで魂を揺さぶるか、です。

この第2集全体の感想を言えば、端的には、第3番よりは第4番のほうがいい、です。つまり、残念ながら、第3番「英雄」はそこまでいい演奏ではないんです。いや、却下ではないですが、ちょっと急ぎすぎて聞こえてしまうのです。

一方、第4番は快速なのにそれほど急いでいる印象がなく、むしろどっしりとした印象すらあります。それもそのはず、第4番は31分ほどなので、標準的な演奏とかけ離れたものではないからです。

第3番「英雄」は、とにかく第1楽章と第2楽章が速い!それが例えば、荒々しさが表現され、どこか胸を打つのであればいいのですが、どこか表面的な印象すら見えるのです。

ただ、2度聴きますと、意外にもいいなって思うのが不思議なところ。ガーディナーとしては、「もう少しじっくり聴いてほしい」ということなのでしょうか。ただ、聴衆としては1度目でどれだけ惹きつけるのかも重要なので・・・ここは、クラシック音楽を聴く妙味である一方、奥深く複雑な所ですね。魅力と言えば魅力ですが。

ただ、例えば同じ古楽演奏であっても、バッハ・コレギウム・ジャパンだと魂をわしづかみにする演奏が多いので・・・それに比べると、このガーディナーの解釈は、やはり表面的すぎるのでは?という印象を持ってしまいます。確かに、古典派の時代は今よりもテンポは速かったのは確かだと思いますが。

もしかするとですが、ガーディナーは例えば「英雄」の第1楽章は、ベートヴェンの「諦観」が底にあると解釈したのかもしれません。それなら納得する部分もあります。有名なエピソードとして、そもそも「英雄」はナポレオン讃歌として書いたものの、ナポレオンが皇帝に即位したことで、その賛辞を破り捨て「ある一人の英雄の追憶のために」と書き入れたことです。一応、弟子が記録として書き残してはいますが、賛辞を破り捨てたかは微妙なところだとも言われます。ただ、「ある一人の英雄の追憶のために」という文言は直筆譜に残っているのは確かです。

ja.wikipedia.org

なので、最初ナポレオン讃歌として書いていたのは事実であり、その後賛辞を消し、書き換えたのは事実、と考えていいでしょう。そのプロセスを踏まえた解釈だとすれば、ガーディナーの解釈は成り立つなあと思います。ただ、実はベートーヴェンが一番気に入って最高傑作だと言っていたのはこの第3番「英雄」だったことも、有名な話です。ここをどう解釈するかが、指揮者の力量だとも言えるでしょう。

となると、果たしてベートーヴェンはこの作品に何を込めたのか?は、かなり複雑だなあと思います。解釈とすれば、時系列で並んでいると考えても正しいわけですので。はじめ、英雄だと思っていた人に裏切られ、失意のどん底に叩き落されますが、しかしそこから回復し、自分の役割とは何かを最後は考える・・・そういうストーリーも成り立ちます。臨床心理の現場では、よくある方法です。そして、この解釈のほうがメジャーです。

調性音楽であり絶対音楽である第3番で、後期ロマン派のような複雑さをベートーヴェンは入れ込むだろうか?とも私は考えます。いや、決してベートヴェンの音楽は単純ではないんですが、とはいえ、調性に支配されている以上、どこまでも複雑さを追及するのは難しいと思います。なので、一つのコアがありつつ、そこにいろんなものがまとわりついている、という解釈のほうが自然だと思います。

「英雄」で言えば、「コア」は自分の内面の時系列、まとわりついているのは、その時々の自分の内面です。ガーディナーの解釈は意欲的ではありますが、「英雄」に関しては表現しきれていないという判断を私はしています。

一方の第4番は、そこまで複雑ではないので表現としてしっかりしたものになっていることで、古楽的アプローチが成功していると言えるでしょう。この二つが並び、演奏されたことで、よりベートヴェンの交響曲の本質に迫っているとも言えるかもしれません。表現としては失敗したけれど、しかしそのことでむしろベートヴェンの交響曲のすばらしさと複雑さ、難しさが浮かび上がった、ということです。

マチュアオーケストラの演奏ではよくみられることなんですが、それをプロオケで経験するとは!これは決してネガティヴな経験ではなくむしろポジティヴな経験だと感じました。むしろこういう演奏に出会えてラッキー!という感じです。こういう演奏を経験することで、いろんなオーケストラの演奏が聴けるようになっていくのも、「また楽しからんや」です。

 


ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
交響曲第4番変ロ長調作品60
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮
オルケストレルレヴォリュショネル・エ・ロマンティク

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