かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:ベリオ シンフォニア~「決められたこと」のはずが織り成す自在なモザイク~

神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、今回はベリオのシンフォニアを主に収録したアルバムをご紹介します。

この音源、知る人ぞ知る名盤であるみたいで、「ベリオ シンフォニア」で検索するとたいていこの音源がどこかで出てきます。

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そもそも、ベリオって誰?って多くのクラシックファンが思うところではあるでしょう。イタリアの20世紀~現代音楽を代表する作曲家で、特に「ハーモニック・ウォール(楽器ごとに使用するピッチをあらかじめあてがい、その中を縦横に動き回る)」の定跡を整備した人でした。

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って言っても、なんだかわからないですよね~。いやあ、それは私もなので気にすることはありません。けれども、なんとなくわかるのは、楽器にはピッチというものが存在し、そのピッチを逸脱しないで自在にってことは、音がある一定の幅の中で動くことになりますので、結果無機的になります。

それを、ベリオは12音階というものを使わなくても、やれるよね~ということを発見した人なんですね。本来調性的なものですら、まるで宇宙の原始のような世界を構築できるのだ、ということを明確にした人だということになります。

実際、この「シンフォニア」を聴きますと、驚くのがマーラーの「復活」の存在感です。え、ベリオの作品だよね?と頭ひねるのも無理はありません。ただ聴いているうちに不自然ではなくなってくるのが、この作品が意図するものでもあるわけですね。

まあ、こういう作品を「コラージュ」といい、絵画の世界でよく使われる表現である一方、じつは依存症の治療など、精神医療でも使われているものです。精神医療の世界では特にこだわらずに絵を張り付けることもありますが、時としては決まりを設けて、その決まりの中で自在に張り付けていったりもするのです。それで何を狙うかと言えば、脳の活性化です。

脳が凝り固まっている状態を、脳をトレーニングすることによって呼び覚まし、社会とのつながりを感じたりだとか、脳を正常化に戻すためのワークとして、コラージュがつかわれることが多いのですが、ベリオはまさにそのコラージュを見事にやり遂げているのです。というよりもむしろ、私のように対人援助職に携わった経験のある人間であれば、この作品が持つもう一つの側面にどうしても注目せざるを得なくなります。それはそもそも、20世紀、あるいは現代という時代がものすごくストレスフルで、不安が増大する時代だということです。

そんな恐れと不安で尽きない社会の中で、コラージュをすることによって脳をリセットできないか・・・・・ベリオの解釈には余地がないとは言いつつも、私はそれだけがベリオの言いたかったことなのだろうかと思うので、ベリオのシンフォニアには現代精神医学の側面がないだろうかと考えるんです。なぜなら、イタリアという国は、精神病院を全廃した国だからです。

それでうまくいくのかと思いますよね?特に、大阪でパチンコに興じる人たちを見てしまうと・・・・・けれども、イタリアはその治療と回復のリソースとして、芸術に携わることを掲げたのです。そうしてみたら、ほぼ病人がいなくなったという結果だったのです!

古典派、あるいはルネサンスの時代から、音楽は人を癒すだけではなく、傷ついた人がその体験を表現する場としても機能してきました。ベリオの「シンフォニア」はその伝統に立脚した作品だともいえるのです。それを現代医学的なアプローチで行っただけ、です。カップリングのEindrückeを聴きますと余計そう考えざるを得ないんです。ベリオの注釈はあくまでもそのような現代アートだとか、精神医学だとかの素地があって初めて解釈に余地がないといえるものであろうと思います。

こういう現代音楽を降らせると絶品なのが、このアルバムで指揮するブーレーズです。このアルバムでも、本来無機質的であるはずの音に生命が宿り、雄弁に語り始めるから不思議ですね。また、作品が持つ「歴史と社会性」もふっと自然と湧き上がってきますし、初めはけったいな音楽が鳴っているなあと思うベリオの作品を、まるで古典派のように聴かせるのはまさに絶品!オケも職人、そしてスイングルシンガーズの軽妙な発声が見事に作品の命をつないでいることもまた、聴きどころです!むしろ、こういった作品こそ、今の時期にFMとかでどんどん放送されるべき作品だと、ブーレーズからおしかりを受けているようにも、私は感じるのです。

 


聴いている音源
ルチアーノ・べリオ作曲
シンフォニア(8声とオーケストラのための)
Eindrücke
リゲス・パスクィエル(ヴァイオリン)
ニュー・スウィングル・シンガーズ(合唱指揮:ワード・スウィングル)
ピエール・ブーレーズ指揮
フランス国立管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。