神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、ハイドン弦楽四重奏曲全集をとりあげる第17回目は、第三トスト四重奏曲第6番と第1アポーニー四重奏曲第1番と第2番です。
この時期のハイドンには人生を変える大きな出来事がありました。それは、エステルハージ侯爵の死です。それとともに、ハイドンはイギリスへと旅立ちます。第1アポーニー四重奏曲はまさしくイギリスで書かれたものです。
そして、このアポーニー四重奏曲も、第1と第2とでそれぞれ3曲ずつと、実は第1第2トスト四重奏曲とおなじ曲数となっているのも興味深い点です。アポーニーとは、イギリスにおいてハイドンのパトロンとなった人でしたが、その方の名をつけられた弦楽四重奏曲は以下のサイトでは高い評価を得ているようですが、ウィキでは説明がないという状態になっています。
ハイドンの生涯と功績
http://homepage2.nifty.com/pietro/storia/haydn_vita.html
この時期には、もう一つハイドンにとって哀しい出来事がありました。それは、親友ともなっていたモーツァルトの死です。若く才能豊かなこの青年の才能をいち早く見抜いたのがほかならぬすでに老齢なハイドンでした。普通であればその才能に嫉妬するところを、ハイドンが素晴らしいのはそれを高く評価したという点なのです。そのせいなのか、モーツァルトは「ハイドン・セット」を作曲しています。そのきっかけは実はすでにご紹介している「ロシア四重奏曲」であるということは、ネットの世界ではスルーされてしまっています。
そんな関係をはぐくんできたモーツァルトの死、そして自分を擁護してくれていたエステルハージ侯爵の死。この2人の死は、ハイドンにいったい何を去来させたのでしょうか。そんな時期に舞い込んできたのが、音楽興行主のザロモンからのイギリス行きの提案だったのでした。
イギリスでは主に交響曲が人気になりましたが、しかしそんな中でも弦楽四重奏曲を書いています。それが第1第2アポーニー四重奏曲なのです。
確かに、ここに収録されている3曲、つまり第3トスト四重奏曲第6番と第1アポーニー四重奏曲第1番と第2番である、第68番、第69番、第70番はそれぞれ円熟味があるうえに、ウィットにとみ軽妙で親しみやすい素晴らしい曲ばかりです。特に第1アポーニー四重奏曲の第1番と第2番である第69番と第70番はアッと驚く仕掛けがちりばめられています。終わりそうで終わらないかったり、終わり方がユニークだったり、それでいて音楽の展開が美しかったり。特に唸りますのは、第70番の第1楽章です。主題提示部でのまるでこだまするかのような各楽器の受け渡しは、古典美の極致と言っていいと思います。古くさいようで、実はとびぬけている・・・・・そんなハイドンを象徴する部分だと思います。
エオリアンの演奏もここでは生き生きとしています。強弱をつけたアインザッツによるメリハリと、それによってもたらされる豊かな表情は、どう考えてもハイドンが軽薄であるとは言わせないだけの力強い表現を伴っています。フォルテとピアノのつけ方も端整であるがゆえに絶妙で、上質のBGMはまさしく芸術であるということを語っています。
私たちは芸術に精神性を求めがちですし、それは私も同様です。しかし、精神性が高いことだけが芸術に必要なことなのでしょうか?ハイドンの音楽にもそこかしこに精神性が満ち溢れていますが、しかし主張しないのです。ここが素晴らしい点で、まるで落語を聞いているかの感覚すらあります。もう少しそんな点を、落語という芸術を持つ日本人だからこそ、顧みる必要があるのではないかと、私は思っています。
聴いている音源
フランツ・ヨゼフ・ハイドン作曲
第3トスト四重奏曲作品64 第3集
第1アポーニー四重奏曲作品71 第1集
弦楽四重奏曲第68番変ホ長調作品64-6 Hob.III.64(第3トスト四重奏曲第6番)
弦楽四重奏曲第69番変ロ長調作品71-1 Hob.III.69(第1アポーニー四重奏曲第1番)
弦楽四重奏曲第70番ニ長調作品71-2 Hob.III.70(第1アポーニー四重奏曲第2番)
エオリアン弦楽四重奏団
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