かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

マイ・コレクション:BCJバッハカンタータ全曲演奏シリーズ12

今回のマイ・コレは、BCJのバッハ教会カンタータ全曲演奏シリーズの第12集です。収録曲は第147番と第21番です。

このCDはつい有名な第147番のほうに目が行ってしまいますが、BCJとしてはおそらく、第21番のほうをより聴いてほしい楽曲と考えているのではないかという気がします。

というのも、この第12集はBCJのことですから、有名な第147番を聴いてほしい編集などしません。実は、ともに成立が1713年〜1716年という、ヴァイマール時代のカンタータがもとになっているという視点が明らかだからです。

まず、有名な第147番「心と口と行いと生きざまもて」は、1723年7月2日にライプツィヒで初演された楽曲で、マリアがエリザベトから祝福されるという喜ばしい部分を、人間の罪深い現実と比較しながら、神を賛美するという曲です。いろんな楽曲に編曲されているコラールで有名な曲ですが、実はそれがもともとは1716年の12月20日待降節第4日曜日)用のカンタータが用いられた、ヴァイマールで作曲されたカンタータだったのです。

それを、1723年7月2日(マリアのエリザベト訪問の祝日)用に、アリアの歌詞を変え、コラールを入れ替え、レチタティーヴォを新たに作曲するということをやって、1716年のものより大がかりな全10曲、2部からなる作品に仕上げました。なお、1716年のものは一部音楽が消失してしまっています。

つまり、この楽曲を単に有名だからということだけで聴いてほしくないというのが、すでに明らかです。それであれば、もったいぶって最後に持ってくるでしょう。しかし、ここではあくまでも前座にすぎません。バッハの音楽の構築法を知ってほしいから、単につかみのために有名なので盛って来たにすぎません。

つまりは、客寄せパンダですね。しかし単なる客寄せではありません。楽曲もソリストの部分は動きがある聴きどころ満載の音楽ですし、また「音楽職人」バッハらしく、有名なコラールは実は歌詞が二つついています。実は同じコラールの6番と17番(順番は17、6)で、まったく同じコラールが二度出て来るという仕掛けになっています。あまりこういったことは少ないので、当時の人は驚いたことでしょう。

Jesu, meiner Seelen Wonne 《イエスよ、わが魂の喜び》
http://www.kantate.info/choral-title.htm
Jesu, meiner Seelen Wonneを選んでください。

しかも、音楽は実は別なコラールから取っていまして、それがWerde munter, mein Gemüteです。

Werde munter, mein Gemüte 《目覚めて確かなれ、わが心よ》
http://www.kantate.info/choral-title.htm
※Werde munter, mein Gemüteを選んでください。

これは味なことをするなーと思います。所謂「替え歌」であるわけです。しかも、意味がないお遊びではなく、生真面目にそれを神を賛美するためにやっているわけです。こういったことをぜひ知ってほしいという、BCJの意気込みが感じられます。

次に、第21番「わがうちに憂いは満ちぬ」です。もともとは1713年にヴァイマールで作曲された楽曲で、そもそもその時には追悼用として作曲されたものです。マウンダー極少期という宇宙規模の環境の変化と、実際に人が亡くなったという事態とが合わさったためか、とても重く暗い楽曲です。ではなぜ、そんな曲が1723年ということで第147番と並んでいるのかと言えば、教会カンタータとして現在の形に成立したのが1723年だったからです。6月13日にライプツィヒで演奏されました。

そして、その形で基本的には今日演奏されるので、1723年のカンタータとしてここに入れているわけなのです。

こういった経緯のある曲なので、実は以前私も第6集を取り上げた時にご紹介しています。詳しいことはその時に触れています。

マイ・コレクション:BCJ バッハ カンタータ全曲演奏シリーズ6
http://yaplog.jp/yk6974/archive/703

この時に説明した文章を再掲しましょう。



そもそも、この曲は追悼用であろうとされています。1713年に初演された時には、シュヴァルツブルク=ルードルシュタットの前宰相A.フリッチュ夫人A.M.ハレスの追悼用として作曲され、その内容から翌年のヨーハン・エルンスト公がフランクフルト・アム・マインへ病気療養におもむくときの別れの音楽用として演奏されています。そのせいか、独唱が最初ソプラノであった部分をテノールへと変えています。そして、ライプツィヒでの再演の際には、それが混然一体となった版となり、それが現在演奏によく使われています。

しかし、このCDではその版では演奏されません。あくまでも1713年に演奏されたスタイルで演奏しています。実はこの曲は第12集にも収録されているのですが、そこではライプツィヒで演奏された形で演奏されています。となると、1714年のものはどこへ行った?となるわけなのですが、それが最後についている3つの異稿ということになるのですが、正確にはそれは間違いで、いくつかのレチタティーヴォがソプラノになっているものもテノールになりませんと、1714年版とはなりません。ですので、BCJの演奏ではあくまでも再現しているのは1713年と1723年のものであるということは留意しておく必要があります。

私としては、できれば1714年版が再現できるよう収録してほしかったですね。というのは、この曲は2曲目の冒頭合唱に当たる部分で、「Ich」に長音を使っているのです。これはかつてマッテゾンが言語感覚に合っていないと批判した点なのですが、事典同様、私はバッハを支持します。というのは、なぜ「私」に長音を使っているのかと言えば、その私がそれぞれその演奏対象の偲ぶ方であるから、なのです。その悲しみを今度は聴き手に引き合わせるため、音楽が進行していくという構造を取っているためなのです。だからこそ、バッハはソプラノが主であるヴァージョンと、テノールが主であるヴァージョンの二つを残したのです。

恐らく、その後どちらでも使えるようにとしたのだと思いますが、実際にはその男女どちらともが折衷され、性を超えた悲しみを表現するヴァージョンへと落ち着いたようです。



で、その時にまたと述べましたので、そのつづきを今回は述べたいのですが、この1723年6月13日というのは、三位一体節後第3日曜日に当たり、実はヴァイマール時代の1714年、つまり完全に収録されなかった版ですが、それが演奏された日曜日に当たるのです。それをライプツィヒ用に変えたのが現在伝わっている楽曲であるということが分かります。

ここで、私はやはり地球物理学が頭をよぎります。つまり、1714年と言えばマウンダー極少期の一番最後の時期です。それが1723年になって状況に変化が起き始めた。つまり、人々が環境が変化すること、簡単に言えば暖かくなることで変化を太陽活動が活発になったことを物理学的にわからなくても体で感じ始めたということが、この変化にはあるのではないかと推理しています。

でなければ、なぜライプツィヒでも同じ三位一体節後第3日曜日に演奏されたのかが、説明つかなくなります。文献があまり残っていないため事典ですらその理由はわからないとしていますが、太陽黒点が地球に与える影響から見つめなおしてみると、その理由が浮かび上がってくるように思います。

つまり、男性あるいは女性にソリストを限定してしまいますと、誰かの追悼用ということになってしまいます。この1723年の段階では、厳しい時期に命を落とした人たちなどすべてに対しての追悼として、演奏されたのだとすれば、この変化は理解できるのです。

「バッハが生きた時代」という視点がいかに大切なのか・・・・・音楽とは全く違った、地球物理学の視点から見直してみると、不思議とこういったバッハのカンタータの変化が説明できるのはなぜなのでしょうか?もちろん、実際にはもっとバッハの内面だとか、当時の教会だとか社会だとかがこういった変化には深くかかわっているはずですが、その原因として、「気候の変化による人間の健康状態の変化」は、十分にあり得るのではと思います。

そう考えますと、このCDの演奏はとても味わい深いものがあります。特にこの1723年ごろのカンタータが編成的にコンパクトで、とにかく簡素であることは、この2曲では「寂しさ」を強調する結果となっていますし、軽めの演奏がそれを引き立てています。特に木管は「哀しさ」を浮きだたせています。また金管、具体的にはトランペットですが、ファンファーレとして必ずしも明るい音色だけではない(第147番)点も見逃せません。その上に乗っかる優しい旋律・・・・・

全体のバランスが考え抜かれた、素晴らしい演奏だと思います。日本人の誇りと言っていいでしょう。



聴いているCD
ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第147番「心と口と行いと生きざまもて」BWV147
カンタータ第21番「わがうちに憂いは満ちぬ」BWV21
野々下由香里(ソプラノ)
ロビン・ブレイズカウンターテナー
ゲルト・テュルクテノール
ペーター・コーイ(バス)
鈴木雅明指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
(BIS CD-1031)



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