神奈川県立図書館所蔵CDのコーナー、バルトークの弦楽四重奏曲をシリーズで取り上げます。今回はその第1回目です。
この全集を借りたのは、以前からバルトークの音楽に興味を持っていたからです。しかしその前に様々な作品への興味があり、それらがひと段落して、ようやく巡ってきた機会でした。
バルトークは以前このブログでも取り上げていますが、一応またウィキを再掲しておきましょう。
バルトーク・ベーラ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%A9
ハンガリーでは、日本と同じで性が前に来て名前が後に来ますので、この表記で正しいという事になります。なお、いまだに欧米風でベラ・バルトークという言い方をする場合もありますが、間違いではありません。ただ、私はハンガリー式で行きたいと思います。
バルトークと言えば、民俗音楽収集家としての側面が強いとも言える作曲家なのですが、今回取り上げる弦楽四重奏曲のシリーズでは、むしろ内面の吐露という側面が強く働いています。この第1集の差異1曲目である、第1番もそういった作品の一つです。
弦楽四重奏曲第1番 (バルトーク)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC1%E7%95%AA_(%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AF)
全楽章を続けて演奏するという点では、確かにベートーヴェンの第14番にも共通する様式だと思います。20世紀音楽の作曲家達にとっては、弦楽四重奏曲と言えばハイドンもさることながら何と言ってもベートオーヴェンである訳で、ベートーヴェンを意識した作曲をしても不思議はありません。
ただ、この作品は本当に不安感が支配しています。バルトークがベートーヴェンをそれほど神格化はしていないという証左になりましょう。かといって内面の吐露とレヴェルの高い作品をサロン音楽で同居させるという、ベートーヴェンが弦楽四重奏曲を作曲して以来伝統となった部分はきちんと継承しています。
ただの楽しみであった弦楽四重奏曲を、親しい間だからこそ吐露していくという、ベートーヴェンが作りあげたスタイルを、バルトーク自身の音楽で継承しているのです。この点が素晴らしいと思います。
第2番はさらに不安が支配するような音楽になっていますが、それは時代のせいでもありましょう。シェーンベルク風のスタイルになっていますが、それ自体が時代の不安を表現しようとしたものですから。ただ、個人的な不安というよりも、その時代の空気を再現しようとしている点で、前作とは多少異なるのかなと思います。
弦楽四重奏曲第2番 (バルトーク)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%A6%E6%A5%BD%E5%9B%9B%E9%87%8D%E5%A5%8F%E6%9B%B2%E7%AC%AC2%E7%95%AA_(%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AF)
その意味では、第1番ではベートーヴェンに則ることを重視するため個人的な内面にフォーカスし、第2番ではさらに個人を含めた社会の空気を切り取ろうとしたとも言えるでしょう。一つずつ階段を上るような、そんな変化が窺えます。
その不安が支配する旋律で、バルトークは分かりずらい作曲家だと多くの人が思ってしまうでしょうし、私もその一人でした。しかし、よくよく聞いてみれば、バルトークは非常にわかりやすいとも言えるのです。不安を臆面もなく吐露するという点で、バルトークは素直な作曲家であったと言えるでしょう。
民俗音楽収集と言う側面から言えば、バルトークも新古典主義音楽に影響を受けた一人だと言えます。そのきっかけはほぼ間違いなく第2番を作曲したあたりに勃発した第1次世界大戦であることは間違いないでしょう。もともと持っていた不安感という感受性の強さに、愛国心(パトリオティズム)が刺激され、後期ロマン派の派生ジャンルである国民楽派とは距離を置くバルトークの音楽の大元を、この二つの弦楽四重奏曲で聞くことができると言ってもいいかもしれません。
演奏は以前ベートーヴェンの弦楽四重奏曲を取り上げた時にもご紹介した、アルバン・ベルク四重奏団。この演奏ではアインザッツをことさら強くはせずに、強弱織り交ぜて、多様な表現で不安と安らぎへの希求が交錯するこの二つの作品を表現しています。それがもたらしているものは聴き手に「腑に落ちる」ことを与えるということです。バルトークがこの二つの作品で何を言いたいのか、それをいかにメッセージするかに心を砕いているのがよく分かるのです。
さすがアルバン・ベルクQだと思います。となると、ベートーヴェンの弦四では、少し力が入っていたという事が言えるのかもしれません。彼らの若いころの録音ですし。一方このバルトークではもう少し時代が下りますから、力が抜けてくる。年を取るということはそういう側面がありますから。その力の抜け具合がちょうどいいかなって思います。
私もそうだったのですが、やはりバルトークはある程度年齢を重ねたほうが、共感する部分が多いのかもしれません。その意味では、やっとバルトークが聴ける「時」がきたのだろうなあと思っています。
聴いている音源
バルトーク・ベラ作曲
弦楽四重奏曲第1番イ短調作品7Sz.40
弦楽四重奏曲第2番イ短調作品17Sz.67
アルバン・ベルク四重奏団
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