かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:モーツァルト ピアノ小品全集5

神奈川県立図書館所蔵CD、モーツァルト全集からピアノ小品を取り上げていますが、今回はその第5回目です。

この第5集は、とても面白いと言うか、異彩を放っていると思います。というのは、実際にはこの第5集に収録されている作品は、必ずしもピアノ(クラヴィーア)とは言えない作品だからです。

しかし、視点はとても興味深いので、一度は聴いてみる価値大です。なぜならば、演奏がチェンバロで行われているからです。演奏者は、古楽オケで指揮者としても名高い、トン・コープマン。コープマンもバロックから前期古典派までの音楽のオーソリティとして重要な役割を担っています。

元々、モーツァルトチェンバロ奏者だったのです。よく、マスコミなどではモーツァルトの天才さとして、幼少期の演奏が取り上げられますが、その時に弾いていたのはピアノ(出たてのフォルテピアノ)ではなく、メジャーなチェンバロだったのです。

ですから、モーツァルトはピアノ協奏曲を書くにあたって、最初の4つは他の作曲家のチェンバロ作品を参照しています。それだけ、当時はピアノよりもチェンバロ鍵盤楽器としてはメジャーだったのです。それをマイナーにさせたきっかけを作ったのが他ならぬモーツァルトだったと言えるでしょう。ベートーヴェンはその流れに従い、ピアノ・ソナタによってピアノを鍵盤楽器の王道に押し上げたのです。

その意味では、モーツァルトのクラヴィーア作品を、チェンバロで弾いてみると言うのはとても意義あることなのです。

モーツァルトの、特にピアノ(クラヴィーア)作品(協奏曲も含む)には、かなり音型として音符の数が多く、特に八分音符などの音の長さが短いものが多用されているのですが、それはモーツァルトチェンバロを意識していると言えるでしょう。勿論、後世の作曲家の作品でもそういった物はありますが、オケと張り合う協奏曲に限定されるように思います。モーツァルトの場合は、ピアノ単独でも多いのです。それを説明するには、やはり彼がチェンバロ奏者であったという点に触れないわけにはいかないと思います。

行進曲K408-1は、新モーツァルト全集ではセレナードの内の行進曲として分類されていますが、コンスタンツェのためにクラヴィーアに編曲されたものが残されています。この第5集で演奏されているのはそのクラヴィーア編曲版です。行進曲と言っても堅苦しくなく、まさに舞踏会などのための音楽にふさわしいと思います。

かと思うと、K313のように、短調がとても美しく、しかもドラマティックで、深い悲しみのような音楽さえもあります。チェンバロの華麗な音でもそん色ないくらいです。

まるで、そこにモーツァルトがいるかのような錯覚さえ私はしてしまいます。つまり、モーツァルトフォルテピアノ、もしくはチェンバロで作曲をしたはずで、その雰囲気が各作品の演奏から伝わってくるのです。まるで、モーツァルトの息吹とでもいうか・・・・・

それはまるで魔法です。それぞれは元々クラヴィーア作品、或はそれ以外として生み出され、決してチェンバロ用ではないのに、聴いていて「やっぱりチェンバロだとなあ」という印象がないのです。

コープマンだから?いえ、そんなことはないと思います。ただ、コープマンの演奏の素晴らしいのは、曲の最後がリットしないという点です。これはモーツァルト当時の演奏法であり、その点がモーツァルトの息吹を感じる一つの理由かもしれません。

モーツァルトがもし、これらの作品をフォルテピアノがない、チェンバロならある、なら、チェンバロで弾いてしまえ!となったらこんな感じかもな〜と思います。モーツァルトなら十分あり得る話で、かつてこのブログでもピアノ協奏曲をオケの代わりに弦楽四重奏(これもモーツァルト生存当時メジャーな編成でした)で演奏してみたら?ということでナクソスの音源を取り上げたことがあるようにです。

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これも当時の実情を考慮したうえで、モーツァルト自身が編曲をしているのですが、同様なことが、クラヴィーアでも起こり得る、ということなのです。クラヴィーア、つまり、フォルテピアノはまだ出たてで、決してメジャーではありませんでした。ということは、チェンバロで弾かなければならない場面もあり得た、ということなのです。

ですから、こういった演奏は決しておかしなものではなく、むしろ、モーツァルトの時代では当たり前であったということを、聴き手である私たちは留意する必要があるように思うのです。フォルテピアノチェンバロの、ちょうど端境期の作品たち。

それが決して、色あせることなく、現代の私たちにもその魅力である、華麗さや明るさ、そして深さというものを伝えている、素晴らしい演奏だと思います。




聴いている音源
ヴォルフガング・アマデウスモーツァルト作曲
クラヴィーア小曲ヘ長調(33b)
カプリッチョ ハ長調K.395(300g=284a)
行進曲ハ長調K.408-1(383e)
プレリュードとフーガ ハ長調K.394(383a)
アレグロ ハ長調(5a)
ソナタアレグロ ト短調K.312(590d)
組曲ハ長調K.399(385i)
アレグロ 変ロ長調K.400(372a)
サルティのオペラ「他人のけんかで得をする」のミンゴーネのアリア「仔羊のごとく」による2つの変奏曲イ長調K.460(454a)
小葬送行進曲 ハ短調(453a)
メヌエット ヘ長調K.4
メヌエット ニ長調K.94(73h)
アンダンテ ハ長調(1a)
アレグロ ハ長調(1b)
アレグロ ヘ長調(1c)
メヌエット ヘ長調(1d)
メヌエット ヘ長調K.2
アレグロ 変ロ長調K.3
メヌエット ヘ長調K.5
メヌエット ト長調K.1(1e) - メヌエット ハ長調K.1(1f)
フーガ ト短調K.401(375e)
トン・コープマンチェンバロ
ティニ・マトート(チェンバロ:デュオ、K.401のみ)

地震および津波により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。同時に原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方に、感謝申し上げます。




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