今回の神奈川県立図書館所蔵CDは、ハイドンのチェロ協奏曲です。鈴木秀美のチェロ、シギスヴァルト・クイケン指揮ラ・プティット・バンド他の演奏です。
以前、図書館からはモーツァルトのクラヴィーア協奏曲を借りていますが、その時にソリストとオケとのバランスの問題を提起したと思います。実はこの音源はその疑問に答えてくれる、一つの回答となったのです。
ちょうど、この時期だんだん古典派のチェロ協奏曲に興味を示しだし始めた時でして、まずはハイドンということになったわけなのです。え、モーツァルトやベートーヴェンではないの?という方もいらっしゃるかと思いますが、残念ながらその二人はチェロ協奏曲を書いていません。かろうじて、三重協奏曲を一曲ベートーヴェンが書いている程度です。
古典派の作曲家でチェロ協奏曲と言えば、なんといってもボッティチェリです。しかしこの人、その作曲数が多いんです><
ですので、まずはハイドンから入ることにしたのですが、その「たまたま」の音源で、自分の音楽観をある意味規定するくらいの出会いが待っているとは、予想だにしませんでした。
というのは、ブックレットで鈴木氏、そしてクイケン氏ともに触れているんですが、この録音の編成は、「ヴァイオリン、ヴィオラを合わせて11人、チェロ2人、コントラバス2ないし3人という程度」(ブックレットより)という編成になっているのです。第1番は実際はもっと少なく、ヴァイオリンが数人で後は各パート一人ずつくらい、協奏交響曲ではヴァイオリンとヴィオラ以外のパートがもう一人程度多いという感じです。
いずれにしても、古典派、特にモーツァルトが活躍した時代の編成というのは、ほぼラ・プティット・バンド程度の人数しかいなかったということを、データで示したことに意味があるのです。
これは衝撃だったとともに、なぜモーツァルトのクラヴィーア協奏曲はあれほどソリストの部分は小さく聴こえるのかが理解できたのです。当時はそれで十分バランスが取れていたという事であり、やはり取り上げた音源はオケが大きすぎるという結論に、ここで至ったわけなのです。
さらにその後、モーツァルトのピアノ協奏曲第12番〜第14番までは弦楽四重奏伴奏版としてモーツァルト自身が編曲していますが、なぜそうしたのかも、こういったデータから納得できるわけなのです。
今月のお買いもの:モーツァルト ピアノ協奏曲第12番から第14番 ピアノと弦楽四重奏ヴァージョン
http://yaplog.jp/yk6974/archive/617
この上記エントリを書いたCDを買ったそのきっかけこそ、このハイドンのチェロ協奏曲だったのです。ならば、弦楽四重奏でも全く問題ないはずだ、と。そしてそれは、その通りだったわけです。
「そして、この演奏は長らく私が疑問に考えてきたある点を、取り除いてくれたものでもあります。それは、以前から述べていますが、ピリオド演奏におけるフォルテピアノのバランスの悪さ、です。
以前、私はモーツァルトの時代はもっと弦楽器の数は少なかったのではないかと述べていますが、もしモーツァルトがもともとピアノ協奏曲において、室内楽で演奏する目的で作曲し、それをオーケストラ用へと転用するという経緯で作曲しているとしたら、その推理は当たっているということになるのです。
つまり、実際当時のオーケストラは、室内楽に毛の生えたような数しか団員がおらず、弦楽器も各パートはせいぜい2から3人くらいしかいなかったとしたら、ピリオド楽器のオーケストラは人数的にも多すぎやしないか、だから本来は思い切って数を減らしたほうがモーツァルトの時代に即しているのではないか、という推理です。
この演奏はモダンとはいえ、全部でたったの5人しかいないのです。普通のオーケストラの演奏に比べても、恐らく10分の一くらいの人数でしか演奏されていないのです。それでも、フルオーケストラに劣らないばかりか、さらにこの3曲の魅力が伝わってきます。」
このハイドンの演奏では、チェロが低音部を演奏する時には、各パートは1名だけとし、高音部およびなしではトゥッティというやり方をしています。これは演奏法だけで見れば実はバロックと同じです。しかし、音楽は古典派が鳴っています。
私たちは、つい古典派の時代はバロックと異なり、オケの規模も大きくなっているものだと勘違いしてしまいます。しかし、編成はまだバロックそのものなのです。そんな中で、楽器が発達し、また、オーケストレーションも発達していくにつれて、オーケストラの編成は大きくなっていくのです。古典派の時代はその始まりの時代と言って良く、それが「古典」と言われるゆえんであるということを、つい忘れてしまいます。
この演奏は、私たちをそういった勘違いから正しい方向へと修正してくれる内容を持っていると思います。もちろん、モダンで演奏するのであれば別段ここまでやる必要はないかもしれませんが、モダンでやっても面白いかもしれませんね。現代のスーパーソリストが、まるで会話を交わすようにハイドンを演奏するとしたら・・・・・わくわくしますね。
それが、今年私をテレマン室内のコンサートへ足を運ばせるきっかけになったといっても過言ではないでしょう。
コンサート雑感:テレマン室内オーケストラ横浜公演を聴いて
http://yaplog.jp/yk6974/archive/993
そういえば、最後に収録されている協奏交響曲は、私が県立図書館で初めて借りたCDの中にも入っていた楽曲で、すべてはここから始まったなあと、感慨深くもあります。
神奈川県立図書館所蔵CD:ハイドン 交響曲第89番ヘ長調Hob.�T−89 他
http://yaplog.jp/yk6974/archive/212
それから2年して、このチェロ協奏曲の音源と出会い、疑問をほとんど晴らしてくれました。中押しがモーツァルトのナクソス音源であり、ダメ押しがテレマン室内と、そのときの延原氏のコメントであったといっても、過言ではないでしょう。ダメ押しまではさらに2年かかりましたが、自分の推理が当たっていることに驚いた反面、それなりの「聴力」は持っているんだなと実感した瞬間でもありました。
だからこそ、このブログの役割は大きいぞと、身震いしている昨今です。
聴いている音源
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン作曲
チェロ協奏曲第1番ハ長調Hob.�Zb-1
チェロ協奏曲第2番ニ長調作品101Hob.�Zb-2
協奏交響曲変ロ長調Hob.�T-105
鈴木秀美(チェロ)
寺神戸亮(ヴァイオリン、協奏交響曲)
パトリック・ボージロー(オーボエ、協奏交響曲)
マルク・ヴァロン(ファゴット、協奏交響曲)
シギスヴァルト・クイケン指揮
ラ・プティット・バンド
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