かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

神奈川県立図書館所蔵CD:オーヴェルニュの歌1

神奈川県立図書館所蔵CD、今回と次回の2回に分けまして、カントルーブ作曲「オーヴェルニュの歌」を取り上げます。ソプラノはアップショウ、ケント・ナガノ指揮リヨン歌劇場管弦楽団の演奏です。

このオーヴェルニュの歌、私の音楽観を変えたといってもいい作品です。この作品を聴かなければ、恐らくその後バルトーク新古典主義音楽を聴こうとは思わなかったでしょう。

オーヴェルニュの歌は、フランスの作曲家カントルーブが作曲した歌曲集で、オーヴェルニュ地方の民謡が底本になっています。歌詞は古いフランス語である「オック語」で書かれており、まずはそこがこの作品の注目点なのです。

オーヴェルニュの歌
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%81%AE%E6%AD%8C

なぜカントルーブは現代フランス語ではなく、古フランス語の、しかも一地方の言語であるオック語を歌詞として採用したのか。それには、カントルーブの人生を見てみる必要があります。

ジョゼフ・カントルーブ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%82%BC%E3%83%95%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%96

まず、そもそも彼はそのオーヴェルニュの出身です。その上で、当時ヨーロッパでは民謡の採取が一つの波となって押し寄せていました。フランスにもそういった先達がいましたし、有名な作曲家では、それこそバルトークヤナーチェクコダーイといった作曲家の作品が、各国の民俗音楽に目を向ける一つのきっかけを作っていました。

そういった時代の中で、カントルーブは音楽家として、民俗音楽を生かす道に進んだのです。そうして生み出されたのが、「オーヴェルニュの歌」です。

では、さぞかし壮大で、民族意識を書き立てる、まるで「軍艦行進曲のトリオである海ゆかば」のような音楽であろうと思うかと思いますが、その反対です。雄大で、かつ激しいものはなく、ただただ民謡をオーケストレーションした作品が並びます。中には、「これ、まずいんじゃないの?」と思うような、恋の歌、愛の歌も存在します。

いや、その「まずいんじゃないの」というものを、まずくなく処理しているところが、全体的にこの作品の素晴らしい点なのですが、それは明らかにバッハのレトリックを意識しており、なぜ時代は印象派から新古典主義音楽へと舵を切ったのかが、この作品でとても理解できるのです。

民俗音楽は、その国の民族が持っている、素朴な基礎的心象だと思います。それは以前から、クラシックでは取り上げられてはいましたが、それを前面に出すことはあまりなかったのです。それが、ちょうどブラームスの時代辺りから変わり始め、このカントルーブの時代で一つの頂点を迎えるのです。

そういった音楽史を知っているのといないのとでは、この作品が持つ「力」というものをどれだけ受け取れるかが違ってくるのです。

内容的にも、こだまをpで表現するですとか、工夫も数多くみられ、飽きない工夫が随所になされています。

演奏は、名盤と言われるカナワの歌唱とともに言われるのがこのアップショウのですが、私は初め、このアップショウのに少しだけ不満を持っていました。それは、カナワのがあまりにも力強く(それはわたしとしてはとても詩の内容と合っていると思ったのですが)、美しかったからですが、しかし聴くにつれて、このアップショウのものも素晴らしいなと思い始めました。そもそも、この作品集は、けっして声を大にして何かを演説しているわけではありません。古いフランスの一地方の民謡を、淡々と歌い上げているにすぎないからです。だからこそ、逆にアップショウの歌唱は、私たちにこの作品のもつ意味を考えさせてくれます。

オック語が放つ雰囲気は、私たちが持つフランスという国のイメージ、特にパリのイメージを根底から覆してくれます。私は父がエンジニアで、その父が勤めていた会社の工場がノルマンディのオンフルにありました関係で、フランスの地方がどういった雰囲気なのかをきいています。そういった地方の雰囲気のほうに、しっくりくるのです(もちろん、オーヴェルニュとノルマンディではまったく地勢が異なりますが)。上品というだけではなく、粗野な部分も持ちつつ、音楽として気品を崩していないのがこの作品の魅力ですが、それをきちんと引き出しています。そこには、カントルーブの郷土愛を感じるのです。

20世紀はナショナリズムの時代でしたが、そういった時代の中で、郷土愛を前面に出すのは危険だったと思います。しかし、その中で郷土愛を貫き通したカントルーブの音楽は、私たちにじんわりと、「私たちの愛国心はいったいどこから出るのか」を、考えさせてくれます。



聴いている音源
ヨセフ・カントルーブ作曲
オーヴェルニュの歌(第1集)
�@羊飼いのおとめ
�Aオイ・アヤイ
�Bむこうの谷間に
�C羊飼い娘よ、もしお前が愛してくれたら
�D一人のきれいな羊飼いの娘
�Eカッコウ
�Fミラベル橋のほとりで
�Gチュ・チュ
�H牧歌
�I紡ぎ女
�J捨てられた女
�Kお行き、犬よ
�L牧場を通っておいで
�Mせむし
�Nこもり歌
ドーン・アップショウ(ソプラノ)
ケント・ナガノ指揮
リヨン歌劇場管弦楽団



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