今回から5回にわたりまして、神奈川県立図書館所蔵CDのコーナーはベートーヴェンの交響曲全集を取り上げます。第1回目の今回は第1集の第1番、第3番、そして「プロメテウスの創造物」序曲を取り上げます。
私はすでにベートーヴェンの交響曲はすべて持っていますが、実は演奏者は別々です。しかし一番最初に第九を買って以来、実は同じ演奏者で聴きたいという希望を持っていました。
そこで、以前からの私の図書館利用の原則「有名な曲は極力借りる」に基づき、図書館にある全集を一度借りてみようと思い立ちました。
それを決断するのにとても役に立ったのが、ここ何回か取り上げている第九の演奏でした。その演奏の素晴らしさから、やはり図書館のライブラリはさすが信用できると判断し、交響曲の全集を借りることにしました。
ある作曲家の一つのジャンルを一つの演奏家で聴くというのは、視点の偏りがある反面、一つの発見に繋がる可能性を秘めています。だからこそ面白いのです。それに気づかせてくれたのが、今まで借りてきた全集の数々でした。
クリュイタンスの全集を借りたのには、やはり伏線として既に借りているラヴェルのピアノ協奏曲があります。
神奈川県立図書館所蔵CD:ラヴェル ピアノ協奏曲他
http://yaplog.jp/yk6974/archive/795
上記エントリではクリュイタンスの説明を飛ばしてしまっていますので、ここでご説明します。クリュイタンスはベルギー出身の指揮者です。ベルギーは周辺国家の影響の歴史の重層を文化に刻んでいる国家で、当然それはクリュイタンスの音楽的な素養にも影響してます。ドイツ的なものとフランス的なものが混在していることが特徴です。
アンドレ・クリュイタンス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%A5%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%B9
ベルギー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC
だからこそですが、クリュイタンスはフランスのコンセルヴァトワールを指揮しながら、ベートーヴェンの交響曲も数多く演奏しています。がしかし、この音源ではオケはコンセルヴァトワールではありません。ベルリン・フィルなのです。
この組み合わせに惹かれました。普通ベルリン・フィルであればカラヤンやフルトヴェングラーといった古株や、最近であればアバドといった名前が登場しますが、この音源はベルリン・フィルでありながら、指揮はクリュイタンスなのです。
さて、この二つが組合わさったらいったどんな「化学反応」が起きるんだろうと、わくわくしながら借りた全集です。
まず第1集の第1曲目は、交響曲第1番です。ベートーヴェンの交響曲の第1作であるこの曲は、モーツァルトやハイドンといった先人の作品の影響が強い作品でありながらも気高さなどにおいてすでにベートーヴェンの個性が発揮されている作品です。それをこのクリュイタンスとベルリン・フィルのコンビはアグレッシヴなアプローチで演奏してます。第1楽章の序奏はゆったりですが、第1主題が始まると一転、テンポアップします。
そこからは比較的疾走し、第4楽章を迎えます。そこからは、この第1番という作品の非凡さが浮かび上がっており、作品の非凡さを私たちに突きつけます。まるで国宝の刀のような刃です。
それは次の第3番「英雄」でさらに顕著になり、この曲は「これほど短い曲だっただろうか」と思うほどです。ソナタ形式の繰り返しをきちんとやっていながら、50分を切る演奏は素晴らしいです。それでいてベルリン・フィルだからこその完璧なアンサンブル。その上豊潤な色彩。ベートーヴェンの交響曲が放つイメージである「重々しさ」というものを吹き飛ばしています。
重厚さは確かにありますし、荘重な趣も気高さもあります。その上に、抜けるような青空まで見えるのはどうしてでしょう?もちろん、録音エンジニアの腕もあるとは思いますが(この全集はそれも注目の一つです)、この録音にかかわったすべての人が、素晴らしい音楽を追及している姿が、まず第1集から前面に押し出されています。
出来れば、番号順であってほしかったなと思いますが、これだけの演奏をいきなりやるのであれば、それは言わないことにしましょう。ただ、端正さもきちんとあるので、できれば第1番の後にはやはり第2番を持ってきてほしかったなと思います。
ベートーヴェンの交響曲全集でそれがやれているものはほとんどと言っていいほどないのが実情です。できれば、そんな意欲的なCDが出てきてくれますといいですね。確かに現代であればパソコンにリッピングして、たとえばiTunesで再生すれば番号順で演奏してくれますが、なかなかそういったことを知らない人も多いのですから・・・・・
最後の「プロメテウスの創造物」も疾走感を前面に出しての演奏です。まるでピリオド演奏をモダンでやっているようなそんな印象です。この演奏を聴いてしまうと、ピリオドの演奏は単にピッチがより当時に近いかどうかだけが注目点になってしまうくらい、かすんでしまいます。それがピリオド演奏がポピュラーになる前なのですから、絶句するしかありません。
ウィキではさらりと触れていますが、この演奏は正直もっと評価していいのではと思います。
聴いている音源
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲
交響曲第1番ハ長調作品21
交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
「プロメテウスの創造物」序曲作品43
アンドレ・クリュイタンス指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
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